08 母娘の危機
バージェスは、それからもたびたび薬草摘みの手伝いクエストを受けているようだった。
そこまでしてプリンちゃんにご執心なのかと思ったら、どうやらそれだけではないらしい。
「城砦都市キルケットの貴族が、どうやらプリンちゃんを嫁にしようと狙っているらしい。第26夫人として声がかかっているって話だ。あいつは、目をつけた女はどんな汚い手段を使ってでも嫁にするって話で有名だからな。俺が行って、睨みを効かせてるってわけさ」
という話だった。
「プリンちゃんは、父親の残した薬草農家を続けたがってるから。貴族の第26夫人なんてのはダメだ。婿に入って一緒に薬草農家をやれるやつでないと、、。そう、つまりそれは俺だ!?」
そう言って、今日も元気に薬草摘みに出発していった。
「待っててねー! プリンちゃぁぁぁーーーん!」
それにしても。
本当にまだまだ摘み切れないほどの薬草があるようだった。
収穫可能になってからあまりにも時間が経ちすぎると、薬草としての効力が弱まってしまうらしいが…
時期的に考えると、そろそろタイムリミットが迫っているようだった。
「あの山の大量の薬草が、このまま役に立たなくなるのはもったいないよな…」
そして俺は。
ちょっとした商売のネタを思いついたのだった。
→→→→→
数日後の夕刻。
俺は薬草農家の女主人アルカナと、その娘プリンと一緒に。彼女らの家で食卓を囲んでいた。
なんのためにって?
もちろん、商売のためだ。
「本当に、よいのですか?」
話は済み。
概ね予定通りにまとまりそうだった。
「ああ。失敗してもそれはそれ、だ。俺が多少損するだけで済む」
「では、よろしくお願いいたします」
アルカナは、そう言って俺に深々と頭を下げた。
これはその時に2人から聞いた話だが…
アルカナ達の薬草農場は、先代の村長だった死別した旦那が残したものらしい。
そのせいもあり、とてつもなく広大。
まるまる裏山1つ分あり、女2人では到底管理しきれない。
だから、ここ数年は殆どが手付かずのままに自生しているような状態。
そして、時期になっても収穫しきれなかった分が多数残り、そのほとんどをダメにしていたとのことだった。
「そもそも。最近は薬草より安価な回復薬剤が出回って、この村には行商人もあまり来なくなりましたから…。昔のようにたくさん薬草を摘んでも、売り先がないんですよ」
とのこと。
薬草栽培の村、ヤック村。
その名前もいまは昔。
アルカナの旦那の生前から、そんな状況だったらしい。
薬草農家だけでは食べていけないと言って。
旦那は生前、宿屋を開業しようとして貯蓄をはたき赤字のまま経営。
そしてついには借金をかかえてしまった。
借りた先は、城砦都市キルケットのラディアックという名の貴族だったらしい。
その旦那は、それとは全然関係なく5年前に病気で亡くなったそうだ。
残された2人は、宿屋を閉業し。
細々と薬草農家として生計を立てながら、少しずつ借金を返す日々を送っていた。
そして、後一歩で返し終えると言うところで突然。
聞いたこともない追加分の借金の話が出た。
「3万マナ。明日の期限までに払えないならば30万マナに増額になる。それが嫌なら、娘をラディアック様の第26夫人として差し出せ」
そう言って去って行った貴族の使者。
無茶苦茶な要求だが、旦那の拇印付きの借用書が出てきて、途方に暮れていた。
そこに颯爽と現れ、3万マナ分の薬草を買い取って去って行った1人の商人がいたとのこと。
「俺!?」
「はい。まるで物語の中の騎士様のようでした」
なんだかよくわからないうちに。
たまたま、俺は2人の救世主になっていたらしい。
だが、さらにその3ヶ月後。
「5万マナの借用書が出てきた。明後日までに払えなければ、娘をラディアック様の第26夫人として連れて行く」
そんな伝言を持ってくる使者。
バージェスが目撃したのはこの時の使者だった。
今度こそはと覚悟を決めかけた。
その翌日、そこに颯爽と現れ。5万マナ分の薬草を買って、そのまま薬草摘みの手伝いまでして行った1人の商人がいたらしい。
「俺か!?」
「はい。まるで物語の中の勇者様のようでした」
なんだかよくわからないうちに。
俺は2回も2人のピンチを救っていたらしい。
「その上。こんな提案までしていただいて…」
アルカナが、再度深々と頭を下げた。
「気にするな。俺は、俺の商売をしてるだけだ」
カッコつけてそう言ってみると。
アルカナの隣で、プリンちゃんの目がハートマークになっていた。
ん…、これってまさか…。
「ぜひ泊まって行ってください」
と言う2人を振り切り。
あまり遅くならないうちに、寝床にしているギルドの休憩室へと戻った。
あのまま泊まったら、きっと良くないことが起きてしまうかもしれない。
娘みたいな歳の女の子に…、しかも結婚前に…。
そんなことはよくない。
「やるなら…ちゃんと結婚した後だな!?」
顔がだらしなく歪み。
同じくギルド休憩室で寝泊まりしている、流れの冒険者に気味悪がられた。
「はっ…、いかんいかん」
嫁探しの方で、若干手応えを感じてしまい。
ちょっと頭が馬鹿になりかけていた。
まずは、2人に提案したある商売を成功させなくては…。
そしてその数日後。
ギルドのクエスト板に、俺が依頼したある依頼書が張り出された。