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11 冒険者の欲しいものは冒険者に聞く

「ロロ……ン達は、冒険者なのです! このアル……スと、クリスと一緒に、少し前にこのキルケットにやってきたばかりなのです。なのでキルケットの冒険者ギルドに登録したいのです」


ここはキルケット東部地区の冒険者ギルドだ。

俺達3人は、ここで新しく冒険者としての登録を行おうとしていた。


「あんたら本当に冒険者かい? そんなヒョロヒョロでモンスターと戦えるのかい?」


キツそうな見た目の年配の受付係が、すごい目つきで俺たちを睨み付けてきた。


「元々は冒険者ではなく、東の港町セントバールを中心に活動していた商人の商隊にいた。だが、つい昨日その行商人がキルケットに腰を据えると言いだして全員解雇になってしまったのでな。とりあえずは冒険者でもして日銭を稼ぎたいというわけだ」


「へぇ、全員……ねぇ」


俺が、用意していたでっち上げの身の上話を話すと。

受付係はより一層疑い深そうな目つきで俺たち3人を順番に見遣った。


「悪かった。『腕の良い2人を除く』全員だ」


相手の意図を汲んで俺が話を合わせると、嫌味な顔つきの受付係は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「そんなこったろうと思ったよ」


「てめぇ……」


「まぁ待てクラリ……クリス!」


早くも喧嘩腰になりかけているクラリスをなだめながら、キルケット東部地区にて新規の冒険者としての登録を完了させた。


これで、まずは第一段階クリアだ。


キルケットの冒険者ギルドは、東西南北の四つの地区に分かれて、それぞれに独立した運営を行なっている。

もちろん依頼やモンスターの情報交換などは随時行われているし。

本来ならば、西部地区ギルドで冒険者として登録されているロロイとクラリスは、そちらの認識票を用いて東部地区の依頼を受けることもできる。

ちなみに俺の、モルト町冒険者ギルドの認識票でも問題ない。


だが、今回は『流れの冒険者』として偽名を名乗る必要があったので、新たに登録をし直したというわけだ。


「鉄の認識票なのです」


「ノーラインの認識票じゃ、モンスター討伐の依頼なんかはほとんど受けられないな」


ロロイとクラリスが、新規に発行された認識表を見ながら各々に感想を述べていた。


冒険者ギルドのギルド等級は、商人ギルドのものとは少々異なっている。


鉄の認識票が基本。

そして……

基準はギルドごとに異なるが、ある程度の経験を積むと、そこに赤のラインを入れてもらえる。

これで脱ルーキーの初級冒険者といったところだ。


そこからさらに経験を積んで緑のラインが入ると中級冒険者となれる。

次に、青ラインで上級冒険者、黒ラインで特級冒険者と、徐々にランクアップしていくのだ。


黒ラインまでいくと、たいていはギルドから「黒等級」へのランクアップの打診があり、それを受けると認識票自体が黒鉄へと変わる。


黒等級以上の等級は、商人ギルドの場合と同じくギルドの所属の者に与えられる。

そうなると、ギルドからの依頼を優先的に受けるような立場となるというわけだ。


つまりは、冒険者ギルドに黒等級以上のギルド等級で所属している冒険者は、全員が特級冒険者以上の実力者だということだった。


「今回の目的は冒険者として名をあげる事じゃないんだから。そんなのどうでもいいだろ」


クラリス(本名)の方の登録で、最近やっと緑ラインが入ったからさ。ライン無しの認識票をつけてると、なんか元に戻されたみたいで落ち着かねーんだよ。これ見てるとさっさと依頼受けてランク上げたくなっちまう」


クラリスは、なぜかうずうずしているようだった。

完全に目的を見失っているのだが……、まぁクラリスにとっては俺の市場調査なんてのはそれこそどうでもいい事か。


俺はため息をつきつつ、周囲の冒険者達を見渡した。

先日バージェスが言っていたような『昼間っからギルド酒場で飲んだくれてる宿無し冒険者』っぽいのが、4人ほどいた。

彼らは、冒険者ギルドに併設されている食堂で、朝っぱらから飲んだくれているようだった。


一応話を聞いてみたが、もちろん相手は酔っ払いなので大した収穫はない。

クラリスは酔っ払い達を見て、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。


「アルス。こいつら下手すりゃ昨日から飲んでるぞ。あっちのクエストボードの方にいる奴らに声かけてみようぜ」


クラリスと共に、依頼を確認している何名かの冒険者に声をかけてみた。

だが、皆忙しく依頼を取って出掛けて行ってしまい、俺たちには構ってはくれなかった。


なかなか思ったようには行かないようだ。


チラリと見たクエストボードには、やはり西側のギルドとは全く違う内容の依頼が多数張り出されていた。

キルケット東部地区ギルドだけあって、キルケットの東側に伸びるキルケバール街道絡みの依頼が多い。


キルケバール街道は、その名の通り『城塞都市キルケット』と『港町セントバール』をつなぐ街道だ。

生息モンスターは、ウルフェス種やマシュラ種、ゴブリン種と多岐にわたる。


キルケバール街道の北側から、ポポイ街道やトトイ神殿付近にまで広がるシヴォン大森林には、さらに多くの種類のモンスターが住み着いているらしい。


「あんたらは依頼を受けるのかい、受けないのかい。どっちなんだい? 選べないなら、あたしが選んでやるよ!」


いつまでも依頼を受けずに建物内をフラフラしている俺たちを見て、例の受付係がいらいらしてそう叫んだ。


それを聞いた酔っ払い達が爆笑を始め、クラリスがめちゃくちゃイラつき始めた。


「まぁ待て。まだ依頼の吟味中だ」


「ノーライン3人じゃ、受けられる依頼なんてほとんどねぇだろーがなぁ」


「なんだ? ペット探しや掃除の手伝いが『怖くて受けられません』『もっと楽なのありませんか?』ってか?」


再びの大爆笑。


「ほらこれ。今朝早くに依頼が来てまだ掲示してなかったやつだ。あんたらこれ受けてきな」


勝手に話を進められると困るのだが。


受付係りから渡された依頼は……

『【作業】キルケット東部地区の鉄柵修復作業手伝い』

だった。

内容としては、資材置き場から作業場所まで、柵の修復資材を運搬する仕事だ。


「商人ギルドの依頼じゃねーか」


思わず声が漏れてしまった。


「あんたらが依頼主を選べる立場かい!? 初めはこういうので実績を積んくるんだよ。ほら!受注の手続きはもう済ませといたから、すぐに現場に向かいな!」


そして困ったことに、そのまま依頼を受けることになってしまったのだった。


「キルケットに来たばかりで土地勘がないんだ。そこの飲んだくれ、クエスト報酬の1/10で道案内を頼む」


口々に罵詈雑言が飛んでくるが、こっちだってこの3人で運搬クエストを受けたところでなんの意味もない。

せめて少しでもギルドの冒険者との接点を作って話を聞き出したかった。


「誰が行くか」


「知ってるか? 日中の街中じゃ、道に迷ってもそうそう死にゃしないんだぜ」


「ぎゃははは」


口々に酔っ払い発言が飛び出す。


「ほら、ニヒルディアァァァッ! あんたが行ってやんなぁぁっ!」


そこで、受付係が口を挟んできた。

なぜか、凄まじい大声だ。


「なんで俺が……」


「うるさい! さっさといきなっっ!!」


「……ちっ」


キツイ口調の受付係に促され、飲んだくれの1人が渋々といった感じで立ち上がる。

この受付係は冒険者にも顔が効くし、意外と面倒見がいいのかもしれない。


「助かる」


俺はそう言って受付係に礼を述べた。


受付係は少し驚いた顔をした後「あんた、よくわかってるじゃないか。……そういうの大事だよ」と言いながら俺たちを手でシシっと追い払ったのだった。

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