10 変装(?)
「そういうわけで、明日から1週間ほどかけて『最近の冒険者たちが欲しいもの』の実地調査を行おうと思う」
俺は、ロロイとクラリスを前にして、そう宣言した。
冒険者の目を引く大会の賞品が何かを考えるにあたっては、ロロイの言うように冒険者たちから直接話を聞くのが最も効率的な手段だろう。
そして、その中でそのまま俺の商売にできそうな要素があれば、それこそが俺の求めるものだ。
「ロロイの案なのです!」
ロロイはものすごく偉そうに、ない胸を頑張って張っている。
ちなみにバージェスは例によって冒険者ギルドに呼ばれて行ってしまっているし、ミトラと吟遊詩人たちはミストリア劇場の方に出張っていた。
「それで、何か閃きそうか?」
「それはやってみないとわからない。ただ、今回は『アルバス』の名は伏せようと思っている」
最近、街をうろついていると感じるのだが。
ありがたいことに『商人アルバス』の名前は町中でかなり知れ渡っているようだった。
それはまぁ……
突如現れた水魔龍により、あわやキルケットが壊滅するかというところを救ったのだから、話題になって当然だった。
まぁ実際にもそれをやったの主にロロイなんだけどな。
水魔龍との戦闘において、俺自身は大したことはしていない。
話を戻すと、有名なのはいいが問題点も多い。
普通に道を歩いていても、俺が『商人アルバス』だと知ると、あるものは商品や自分を売り込もうとしたり、あるものは足元を見ようとしたり、またあるものは媚びへつらい俺に取り入ろうとしてきくるのだ。
正直言って、かなりめんどくさい。
そんな感じなので。
俺が『アルバス』を名乗って情報収集をしようとしても、とてもじゃないが本音の話なんかを聞き出すことはできないだろうと思われるのだ。
この前の、クラリスの剣を購入した一件みたいに、うまく収まる話ばかりじゃないだろう。
余計な声をかけられて、余計な手間を増やしたくもない。
「でも、アルバスはアルバスなのだから、それはできないのですよ」
ロロイが頭に「?」マークを浮かべながらそう言った。
「まぁ、俺の名前はそこそこ売れているが、別に顔まで売れてるわけじゃない。キルケットは広いからな。少々変装でもして違う名前を名乗れば、それでもうバレやしないだろう」
「変装! なんか楽しそうなのです‼」
「だろ?」
つまりは変装して偽名を名乗り、流れの冒険者に扮して冒険者ギルドに赴くのだ。
そしてそこで新人冒険者として情報収集を行えば、比較的冒険者たちの懐に入り込んで本音の情報を集められるだろう。
「名付けて『変装潜入調査! 冒険者の欲しいものは冒険者に聞く』大作戦だ」
「ふぉぉおおっ! 潜入とか、なんだかトレジャーハントっぽいのです! すんごい楽しみなのです!」
なぜか、ロロイは大興奮だった。
「それなら、ロロイは黒魔術師になりたいのですよ!」
「俺も魔術師かな。ロロイが黒魔術師なら、支援魔術あたりを名乗ることにしようか。クエストに出るわけでもないし、知識だけで適当なことを言ってればたぶんバレないだろう。あとは、適当に名前を決めれば……」
「名前も変えるのですか!? なんか本格的なのです」
「そこが1番のポイントだからな」
「ロロイは『アルカナ』がいいのです! アルカナ大好きなのです」
「……それはやめろ」
ややこしいから。
「じゃあ、なんなら良いのですか?」
「できるだけ、本当の名前から想像しやすくて忘れずらいやつがいい。そうだな、例えば……」
そんな感じのやり取りを経て『黒魔術師ロロン』と『支援魔術師アルス』と言うキャラが出来上がった。
そして適当に冒険者になった背景を決めた後。
ついでにターバンとか眼鏡とかマスクとか、色々なもの顔をちょっとずつ隠して変装もすることになった。
「クラリスはどうするのですか?」
「は? 私もやるのかそれ?」
「パーティが後衛2人じゃバランス悪いだろ。」
「えと……、じゃあ剣士かな」
「クラリスは始めから剣士なのですよ?」
「私は、昔のやつをやるよ」
こうして、クラリスは再び『(男装)剣士クリス』となった。
「クラリス。どう見ても女の子なのです」
「1年でだいぶ『女の子感』が増したなぁ」
「う、うるせぇっ! お前らみたいに、変な眼鏡とか、変な帽子とか付けたくないんだよ」
なぜか、クラリスは照れていた。
この場合は褒めてはいないんだけど……
「そのゴツい兜も、今見ると相当変だぞ」
「うるせぇ。これ以上文句つけるなら私は協力しないぞっ!」
というわけで、新人冒険者に扮したこの3人で、明日から情報収集に励むことになったのだった。
【今回のパーティ】
支援魔術師アルス(リーダー/後衛)
黒魔術師ロロン(後衛)
剣士クリス(前衛)




