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02 3人の妻②

「アルバスさん。絶対にダメなことだとは言いませんが、ロロイさんとはだいぶ歳が離れていますよ。それに、アルバスさんは護衛の雇い主という立場です。そのあたりは、きちんとわかっていらっしゃいますか?」


「あ、ああ」


「アルバスさんに限ってそんなことはないと思いますが……」


なんとなーく。

険しい顔つきのアルカナが、俺に言いたいことはわかる。


ロロイとは、親子であってもおかしくないほどに年齢が離れている。

その上、現在俺はロロイの雇い主として、日々の給金に加え、ロロイの衣食住全般に必要な(マナ)を全て出している立場なのだ。

要は、俺はロロイに対して、(マナ)の上で圧倒的に優越的な立場にいるわけだ。


そんな俺が、ロロイと結婚した(やることやった)上で、その事を周りに言わないようにと口止めをしていたとなれば……、アルカナでなくても色々と想像してしまうだろう。


ミトラは相変わらず分厚い目隠しをしているため、その表情はよく読み取れない。


「ア、アルバス。おおお、お前。いいい、いつの間にロロイちゃんと……」


「どういうことだよアルバス! ってか、マジでいつの間にっ!?」


バージェスとクラリスも横で驚愕していた。

無理もない。ほとんどずっと一緒に行動していた2人なのだから、どう考えても「いつの間に?」という思いの方が強いだろう。


俺にもロロイにも、お互いを仲間以上の存在として好きあっているようなそぶりもなかった訳だし。

ましてや結婚するようなそぶりを見せたこともなかった。

2人から見ても、俺が何かオイタをしたように見えるのだろうか?

いや……無理だろ?

戦闘力的に。


そして、色々と整理して考え直してみると、俺にはやましいところなんてのは1ミリもない。


実際のところアルカナの心配しているような優越的な地位の濫用はしていないわけだし。

そもそもロロイとはヤッてない。


たぶん、曖昧にしようとしていたその辺りをきちんと説明すればこの場は収まるだろう。

俺も頭の中での整理がついたので、ここから説明に入ることにした。

経緯についても、ここまで来て秘密にしていても仕方がないので、バラすことにした。


「この結婚について、双方合意をしたのは水魔龍との戦闘中だ」


「戦闘中?」


クラリスが怪訝な声を上げた。

俺は、そんなクラリスを見て大きく頷き、話を続けた。


「大量の水と共に空中に巻き上げられた危機的な状況下で、水魔龍と渡り合うために、どうしてもロロイと結婚して財産を共有する必要があった。倉庫スキル持ち同士の結婚で、見込み通りに倉庫がつながるかどうかは半分賭けだったがな」


さすがに無尽水源(オメガ・スイ)のことはボカして話すという判断をしたが、まぁこれも嘘ではない。


「あ、ロロイの方からそうして欲しいってお願いしたのですよ。だから、アルバスは何も悪くないのです」


「く、空中で……けけ、結婚したのか!? そそそ、そんな開放的な……」


バージェスが口元を手で抑えてうつむき始めた。

どうやら鼻血を垂らしているようだった。


「……」


クラリスは無言のまま、そんなバージェスの頭を引っ叩いていた。


「ちなみにだが、俺の倉庫スキル的には、『そういう事』をしなくても双方の『合意』があれば結婚したと見なされるらしい。だからアルカナが心配するように、立場を利用してロロイを抱いたりはしていないし、今のところそんなことをする気もない」


そう。だから、立場を利用してロロイにおイタをしちゃったりなんてことは、決してしていないわけだ。


「『今のところ』と言うのがちょっと気にかかりますけど……、でも、そうなると……」


アルカナが少し考え込むようなそぶりを見せた。


「ええと、それってつまりは……」


そこでミトラが代わり、一呼吸置いた後で言葉を続けた。


「つまりアルバス様とロロイさんは、『結婚していない』ということになるんですか?」


「ん、あれ……?」


結婚していない?

そう言われてみると、確かにそうなのかもしれない。

アウル・ノスタルシア皇国の法令で定められている『結婚の条件』とは、つまりは身体を重ねる(やることをやる)ことだ。

それに照らし合わせると、『ヤッてない』俺とロロイは、『結婚していない』ということになる。


「ええと、そうだな。そうなる……のか?」


「……」


「……」


「……」


「じゃあ、そういうことで」


よかった。

これで全てが丸く収まった。

なんか皆からの非難の視線にさらされたけど、これで……


「えー! ロロイはそんなのは嫌なのですよ。ロロイも、ミトラとアルバスがこそこそ夜にしているアレに参加してみたいのです」


そしてロロイは「未知との遭遇。それもまた、トレジャーハントなのです!」と付け加えた。


どの辺がトレジャーハントなのかさっぱりわからない……わけでもないけど。

これ以上話をややこしくしないでほしかった。


「ロロイちゃん。ちょっとあっちでお話ししましょうか」


そんなロロイを連れて、アルカナは隣の部屋に消えていったのだった。



→→→→→



とりあえずはアルカナとミトラからの誤解は解けたようだった。

そして俺とロロイは「天賦スキルの上では結婚しているとみなされているけれど、皇国の法律上は結婚していない」というなんとも奇妙な感じに落ち着いたのだった。


「そうねぇ。あともう1年か2年して、ロロイちゃんがもっと色々な世界に触れて。それで、もっと色々な人とも出会って。それでもまだアルバスさんと結婚したいと思っていたら……その時は改めてちゃんとお互いに話し合って、ちゃんとした形で結婚すればいいんじゃないかしら」


後で聞いた話だと。

ロロイはアルカナに、俺との結婚と、トレジャーハント(今1番好きなこと)を天秤にかけた質問をされた。

そして0対10で迷わずトレジャーハントを選んだロロイに、アルカナがそんな提案をしたらしかった。


『せめて1対9くらいには迷って欲しかった』とか。

『俺の方は2対8くらいかな』とか

『そもそも俺の目指す大商人像は、結果的にたくさんの妻を侍らせているものでうんぬんかんぬん』とか。


そんなことを思った俺の流されやすさを、アルカナには見抜かれていたのかもしれない。


ロロイの方も、どうやらアルカナの提案を受けて納得したようだった。


「どちらかというと、ロロイはアルバスよりもトレジャーハントの方が好きなのです」


うん。たぶん丸く収まった。

なんか少しだけ、俺が精神的なダメージを負った気がするけど……

ちゃんとうまく収まったようだった。

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