01 3人の妻①
とりあえず、第7章の1〜29話まで作り、話にひと段落つきました。
書籍化作業や本業との同時進行で、なかなかキツかった……
だいぶ間が開きましたが、暇つぶしにでもぜひお楽しみいただければ幸いです。
9/28追記
投稿しながら大幅に作り直してます。
現在32話までに増えてます。
貴族院やシュメリア関連のエピソードは、ほとんど後からの追加ですw
10/2追記
さらに増えて、39話までになってしまいました(^◇^;)
10/4追記(10/10追々記)
多少組み替えて、38話(メイン37+余談1、棚卸し別扱い)で確定させました。
ロロイ(と、俺)が水魔龍と死闘を繰り広げてから、2ヶ月が過ぎた。
ポポイ街道における無尽水源を水源とする河川の整備も、あともう一歩で終わるという頃。
俺は、アルカナからの非難の視線に晒されていた。
「アルバスさん。これはいったいどういうことなんですか?」
少し戸惑ったような顔をしながら、アルカナがそう言って俺を見た。
アルカナの穏やかな口調の中に、少々棘があるように感じるのは……
俺に、なにかとやましい気持ちがあるからだろうか?
「いや、これには色々と訳があってだな……」
俺たちが今いる場所は、キルケットにある俺とミトラの屋敷だ。
そして今俺の目の前にいるのは、1人目の妻であるアルカナと、2人目の妻であるミトラと……
今しがた「3人目」だと言うことを、口を滑らせたロロイだった。
「その、訳というのを聞かせていただきたいのですが」
「うーん……」
ロロイとの結婚の件については色々とややこしい事情があったので、一旦2人だけの話としてしまっておくことになっていた。
だが、今しがたロロイがアルカナとミトラの前で見事に口を滑らせてしまい、そうもいかなくなってしまったのだった。
そのロロイはというと。
「やっちゃった。てへ」みたいな顔をしながらアルカナとミトラの横にちょこんと座っている。
椅子の位置取り的には、状況は3対1。
なぜか、俺が3人から詰問されているような配置になっているのだ。
ちなみにバージェスとクラリスは、少し離れたところに腰掛けて成り行きを見守っている。
外では最高に頼りになる護衛達も、こういう時には護衛してくれないみたいだ。
まぁ当然か。
俺とロロイの結婚について、おそらくはこの2人が1番驚いていることだろう。
「ええと。少し、話を整理させてもらってもいいか?」
長い沈黙に耐えきれず、俺はそう切り出した。
そう。なんでこんな状況になったのか。
それを整理しないことには話が進まない。
「はい。よろしくお願いします」
「話を整理させていただきたいのは、私たちの方もですので」
ミトラとアルカナがそう応じ、少し状況を整理することになった。
→→→→→
ここは城塞都市キルケットの西部地区にある俺とミトラの屋敷だ。
まず、なぜここにアルカナがいるのかということについては……
俺は元々アルカナに「近いうちにミトラと会わせる」という約束をしていた。
ミトラとの結婚の際にしたその約束が、それから4ヶ月余りが過ぎようという今になって、やっと実現されたというわけだった。
ちなみに段取りを組んだのはアルカナとミトラの2人だ。俺がポッポ村に絡む一連の騒動やギルドからの仕事でバタバタしているうちに、いつの間に話が進んでいた。
遡ること1時間ほど前のこと。
俺が半月ぶりにキルケットの屋敷に帰ったの時、玄関先で俺を出迎えてくれたのは、アルカナとミトラだった。
「おかえりなさい、アルバスさん」
「おかえりなさいませ、アルバス様」
「えっ……?」
「こんな可愛い奥方を放っておいて、どこをほっつき歩いていたんですか?」
「アルカナ様が来ていると、何度か手紙を出しましたのに……『時間ができたら戻る』の一点張りで、やはり読んでくださっていなかったのですね」
「ミトラさん。立ち話もなんですし、奥の方でお話ししましょうか?」
「そうですね、アルカナ様」
そのまま2人は、楽しげに談笑しながらつかつかと食堂の方へと歩いて行ってしまった。
「旦那様……。その、家に入らないのですか?」
驚きのあまり固まっていたら。
ミトラの付き人、吟遊詩人シュメリアにそう促されてしまって慌てて2人を追いかけたのだった。
実は、俺はアルカナとの約束を果たすため、以前から何度かアルカナをキルケットに呼び寄せることを計画していた。
だが、毎回なんらかのアクシデントが起きて中止となってしまっていたのだ。
ちなみにその一つは、急遽ポッポ村に旅立つことになってしまった例の一件だったりする。
その件について、ミトラがアルカナに謝罪の手紙を書いたことが今回の件の発端らしい。
俺の倉庫を介さない、通常ルートでの手紙のやりとりだ。
ちなみにミトラの方は付き人のシュメリアが代筆しているという体裁らしい。
2人は、そのまま何度か個人的な手紙のやり取りを続けるうちに「アルバスとかは関係ないから、もうさっさと会う段取り立てちゃおうか」という話になったということだった。
そして、移動が困難なミトラに代わり。
思い立ったら「えいやっ!」と行動に移してしまうアルカナが、早速モルト町ギルドで護衛を雇い、キルケットにやってきたというわけだった。
「護衛が外れだったどうするんだ? 野盗の手先みたいな冒険者だっている。危険すぎるぞ」
「あら、そう言われたまま、いつまで待っていればよかったんですか?」
「うっ……」
そんな感じで背景を確認した後。
みんなで食堂に移動し、アルカナの機嫌も治った(元々別に怒ってなかった)ところで、和やかに積もる話などを始めた。
→→→→→
「アルバスさんは、西大陸商人ギルドの銀等級になられたんですね」
「ああ。みんなのおかげだ」
「銀等級といえば、各商人ギルドに数名程度しかいない重役ですからね。アルバスさんは、本当に大商人になられたんですね」
「俺なんかまだまだだ。今回はたぶん、貴族やら上役やらのいろいろな思惑が重なって偶然そうなっただけ。今は割り振られた仕事をなんとかこなしているが、まだまだ俺自身は実力不足に違いない」
「商人として、忙しいのは良いことですが……、あまり無理をしないでくださいね」
「わかってる」
バージェスとロロイ。この2人の規格外の戦闘力により、俺は偶然にも身に余るほどのギルド等級を得た。
ここから、それを足掛かりにして商人としてのさらなる高みを目指せるか、それとも足を踏み外して転落するかは、この先の1年余りが勝負になるだろう。
とりあえずは、怒涛のように降ってきた最初の仕事たちは軌道に乗せた。
あとはトトイ神殿跡地遺跡の再調査と、トトイ宿場の再開発が残っているが、こちらは色々あって多少の時間的な猶予がある状況になっていた。
「この1週間。アルカナ様とよくよくお話をさせていただきました」
そこでミトラが静かにそう切り出した。
「アルカナ様は本当に素晴らしいお方です。見識が深く、それでいて気取ったところがない。そして視野が広く、先見の明もある。同じアルバス様の妻として、私とはあまりにも違っています」
「ミトラはミトラだ。それを気に病む必要などないだろう」
「それでも、私は……」
ミトラが、少し言い淀む。
そこで、アルカナが助け舟を出した。
「2人でいろいろと話をしたんですよ。アルバスさんが商人としてさらなる高みを目指すのならば、私たちはその妻として、きちんとその隣に並べるようにしようって……。ミトラさんは、そのための勉強をしたい、と言っていました」
「なるほど」
俺の留守中のミストリア劇場の管理は、ミトラに任せていた。
だけどもミトラは、文字の読み書きは普通にできるのだが、計算が非常に苦手だった。
公演の管理や告知などは問題ないのだが。売上などの数字管理が絶望的に危うい。
だから、それについては俺が戻ってきたときにまとめて行うようにしている状況だった。
ミトラはそのあたりをかなり気に病んでいたらしい。
なんとかするための勉強を開始したい。だけども、その方法がわからなくてアルカナに相談した。という事らしい。
「そういうことなら、俺に相談してくれれば良いのに。俺でよければ、いくらでも……」
「いえ、忙しいアルバス様の手をこれ以上煩わせられませんので」
「なので、家庭教師をつけるのなどはどうかと、そう話していたんです」
「それならば、アルバス様の手を煩わせず。私はもっとアルバス様のために動くことができるようになれます」
どうやら、ミトラは本気のようだった。
「ありがとうミトラ。では、家庭教師の件は早速知り合いを当たってみようか」
「ありがとうございます。ですが、その手配も私が自分で行おうと思っております」
「あてはあるのか?」
「ええ、ウォーレン卿と定期的に手紙のやり取りをしておりますので、そちらのツテを使ってみます。マナさえ用意できれば、おそらくは問題ありません」
少し不安もあるが。
ジルベルトがきちんと対応してくれるのであれば、確実に俺よりも良い人材を見つけてこられるだろう。
「ではマナの方は俺がなんとかする。後々の費用対効果を考えると、半年契約で月5万マナ程度までならだせると思う。それを超えるようならばまた相談してくれ」
「ありがとうございます」
アルカナがミトラの背中に手を当て、2人で頷き合っている。
なんか、俺がいない間に随分と仲良くなっているようだ。
「ロロイも色々とお手伝いするのです!」
そこで、唐突にロロイの元気な声が響いた。
「ロロイもアルバスの妻として何かしたいのですよ!」
「?」
「えっ?」
そんなロロイの言葉に、アルカナとミトラが同時に「?」マークを浮かべた。
ちなみに、バージェスとクラリスもだ。
「あっ、これは内緒だってアルバスに言われていたのです」
「ええっ!!!」
「ごめなさいアルバス。アルバスとロロイが結婚したこと、みんなに言ってしまったのです」
「え、え〜〜〜っっ!!」
響き渡る、悲鳴のような驚愕の声。
そしてアルカナが、あまり見たことのない険しい顔つきで俺に問いかけたのだった。
「アルバスさん。これはいったいどういうことなんですか?」
→→→→→
てな感じで、今に至るわけだった。
たぶんロロイは、自分も話に参加したくてたまらなくなって……
こらえきれなくなってしまったのだと思う。
どこまでがわざとで、どこまでが天然だか、よくわからないんだが……
ヤック村でクラリスの混浴に乱入してきた時と、似たようなテンションだった。