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37 銀等級

商人アルバスによる水魔龍ウラムス討伐の話は。

その多数の目撃証言と共に瞬く間にキルケット中に広まった。


「アース遺跡を攻略したアルバスの商隊が、こんどはキルケット北部に現れた魔龍を討伐したらしい!!」


通常。

皇国各地での魔龍の発生、及び討伐などの報告は、その甚大なる被害の報告とともにもたらされるものである。


現れるたびに、町一つを平然と壊滅させる魔龍。

討伐されぬままに悠然と人里から去り、後には膨大な数の屍の山と荒野が残されるということもざらであった。


そんな魔龍に関する報告は、皇国の人々を常に恐怖させていたのだった。


そんな中における、今回の水魔龍ウラムスに関する報告。


魔龍名称、水魔龍ウラムス

状況  、討伐完了

討伐部隊、アルバス商隊

人的被害、極小

死者  、0人

家屋被害、皆無

作物被害、甚大

家畜被害、極小


戦闘の余波により、甚大な作物被害が発生したものの、人的被害はわずかであり、死者数に至っては0との報告がなされていた。

そして『死者0人』という奇跡的な数字と共に魔龍の討伐報告が上げられたのは、実に13年ぶりのこと……

勇者ライアンによる『風魔龍ルードマリア』の討伐以来のことであった。


そして、その2体の魔龍討伐の両方に関与したとされる『アルバス』という商人の名は……

皇都でもたびたび人々の話題にのぼることとなった。



→→→→→



皇王の血を引く白金等級の大商人「シャルシャーナ」の訪問については。各ギルドの重役や貴族たちが盛大に出迎えた。


シャルシャーナとキルケット貴族たちの商談について。

シャルシャーナの紹介する皇国各地の珍品や、皇都ノスタルシアの最新の魔道装置などを貴族たちが買い漁り、双方大満足のまま終えたそうだ。


またシャルシャーナのほうも、俺の集めたトドロスの素材や、アルカナの調合した薬草粉末を始めとする、西大陸の特産品を大いに仕入れ、かなり満足のいく仕入れができたと聞いている。


そして……

なぜか俺にも、シャルシャーナとの直接商談の機会が設けられた。


俺の特級モンスター討伐の話を聞きつけたシャルシャーナの方から、俺と商談の場を設けたいとの申し入れがあったのだ。


約束の場所である俺の屋敷に、護衛もつけず1人でフラリと現れた俺と変わらぬ歳に見える女性。その女性が、大商人シャルシャーナであった。


名前から、女性である事は分かっていたのだが、あまりにも若く見える見た目に驚いた。

下手をすれば俺よりも歳が下かもしれない。

さすがに年齢は聞けなかったが……


「アルバスさん。含魔石の保有は討伐者の特権だね。それを手放すことは簡単にはできないかと思うから……。今日は海竜ラプロスの素材を全部で300万マナで買いたい」


それは、かなりの好条件であった。

おそらくは、俺がそれらの素材を全て加工して売ったとしても、そこまでの額は稼げないだろうと思われた。


「好条件の申し入れ感謝いたします。ですが、俺にも色々と試してみたい加工があるゆえ、幾らかは残しておきたい」


ということで、シャルシャーナは200万マナ分くらいを買い取っていった。


また、どこから情報を仕入れてきたのかは知らないが。

シャルシャーナは、モーモー焼きやらコドリスの香草焼きやらの、俺が販売したことのあるいろいろな商品の名を次々に挙げ、全て見せて欲しいと言ってきた。

そしてしまいには、屋根付きに生まれ変わったばかりのミストリア劇場にて、1番人気の吟遊詩人の唄を聞きたいなどとも言いだしたのだった。


シャルシャーナは、好奇心旺盛でなんでもかんでも自分で試したがる性格のようだ。


護衛もつれずに出歩いているあたりからも、凄まじいまでの破天荒。

もしくは、子供のように無邪気だ。


「実は、今私が1番欲しいのは、水魔龍の含魔石なんだけどね」


最後にそんなことをポロッと呟きながら、シャルシャーナは俺の屋敷を後にしていった。


「……」


さっきは自分で『含魔石の所持は討伐者の特権』とか言ってたくせに……

やはりなかなかに自由奔放な人柄のようだ。


去り際の目の奥には『私は、本当に欲しいものはどんなことをしてでも手に入れる』というギラついた野心のようなものが垣間見えた気がした。



→→→→→



ロロイが凍結させた雪原は徐々に溶け出して行き、数日ほどで雪原から平原へと戻った。

だが、水害と冷害によりキルケット北側地帯の農産物は軒並み死滅してしまい。商人ギルドは、農家の生活を支えるための補助金、及び補助事業の開始を余儀なくされていた。


また、暴走を終えた無尽水源(オメガ・スイ)については、徐々にその高度を下げたものの元の位置までは戻らず、シトロルン山脈の山肌から数百メートルの上空に留まっていた。


無尽水源(オメガ・スイ)は、実体のない『影』となった後も上空から水を放出し続けていた。

そして、上空から山肌に降り注ぐ大量の水は、その流れで新たな川を形成していったのだった。



→→→→→



そして俺は、西大陸商人ギルドから『銀等級(・・・)』のギルド等級を与えられることとなった。


元々この件の報酬は『銅等級の付与』という話であったのだが……

マーカスギルド長からの強い後押しもあり、そう言う話となったらしい。


そんな流れでいきなり銀等級のギルド等級を得た俺は、そのまま商人ギルドからいくつかの仕事を継続的に任されることとなった。


その主なものとしては『ポッポ村との交易』そして『ポポイ街道の整備』だ。


『ポッポ村との交易』は言わずもがなの内容だが、『ポポイ街道の整備』は内容が多岐に渡りなかなかに複雑で厄介だった。

その中には、単純な道の整備だけではなく、冒険者ギルドと協業しての『街道のモンスター数の調整』や、白魔術師ギルドと協業しての『街道における負傷者救援』なども含まれているのだ。

また『積雪により被害を受けた農家への対応』なんかも、俺が担当することになったのだが。まぁ、これについて俺は何も文句は言えない。


だがさらに、そこに『無尽水源(オメガ・スイ)を水源とする新たなる河川の治水』までが合わさって来た頃には、俺はもう、前日の記憶がどこかに飛んで行くほどに忙しくなってしまっていた。


月の1/10もキルケットに戻れないような状態が続き、なかなかに心が折れそうになる。


そこへきてさらに『トトイ神殿跡地における、遺跡再調査の陣頭指揮』と、『その後の神殿跡地の管理』なんていう話までが飛んできた時には。すでに目眩を通り越して吐き気がし始めていた。


「銀等級なんだからこのくらいはこなせよな?」みたいな悪意を感じたが、とにかくもう手当たり次第にとりかかっていった。


後で知った話では、そうやって俺を追い込んで潰そうとする勢力があったようだ。

だが、その逆に支援しようとする勢力もあり、俺の知らないところで色々とやりあっていたらしい。


なんにせよ。

俺がギルドから任された事業を次々に軌道に乗せていくにしたがって、そう言った逆風はむしろ追い風となっていた。


これらの仕事を全て軌道に乗せる。

つまりそれは……

俺が、西大陸北側区域における商人ギルドの商売を、実質的にほぼ一手に掌握しつつあるという話であった。


そして事業をまとめ上げていくにつれ、キルケットでの俺の名声は着実に上がっていったのだった。



→→→→→



少々嫌な話もある。


「しかし……アルバスが無尽水源(オメガ・スイ)を発見したというトトイ神殿跡地は、その時点では貴族院の管轄で、何人たりも立ち入り禁止だったのではないのか? アルバスは盗掘をしたということか?」


「それが、アルバスによる今回のトトイ神殿跡地の探索は、マーカスギルド長からの直々の探索許可を得てのことだったらしい。ギルド長が秘密裏に、アルバスに水魔龍ウラムスの討伐を命じていたという話もある」


「つまりは、マーカスギルド長はそこまで含めて、アルバスの商隊に探索許可を出したということなのか。ならばポポイ街道への検問の設置も、水魔龍の被害を抑えるためのものだったということか!? さすがはギルド長だ」


そんな感じで、マーカスギルド長はどうやらギリギリのところで、噂話を自分に都合よく操作したようだった。


それに関連して、冒険者ギルドなどへも色々と根回しをしたらしい。

普通は、モンスター討伐を依頼する相手は商人じゃなくて冒険者だからな。


ジャハルとダコラスの妨害行為についても……

ダコラスという出自不明の謎の男に唆された、ジャハルの独断という話になっていた。


本当に抜け目のないやつだ。



→→→→→



そんな感じで3ヶ月ほどが経過したある日。


俺は、商人ギルドからの予算で集めた多数の人手を使い。無尽水源(オメガ・スイ)を水源とする河川の整備をなんとか形にしつつあった。

これが終われば、やっと一息つける予定だ。


それに関連して半月ぶりにギルドを訪れると、マーカスギルド長が凄まじく媚びた笑みを浮かべながら出迎えてきたのだった。


「おおっ! よく来たねアルバス君!」


マジでこいつは……

俺がポッポ村に出発する前後で、180°態度を変えやがった。


あまりにも信用ならない男だ。


だが……


報奨金の更なる増額と、俺への「銀等級」の等級付与については、マーカスが言い出したらしい。


いずれまた敵対する可能性が十分にあるため、絶対に気を許すような気はなかったのだが……

現状はほとんどこちらの言うことに「NO」と言わないので、とりあえずは良しとしていた。


いつかの客間に通され。

俺は、とりあえず今回の訪問の本題に入ることにした。


「トトイ宿場再編事業の顧問として、ヤック村の旅館主人アルカナを起用したい。ヤック村銭湯旅館の細やかなサービス設計は、トンベリ・キルケット卿を始め多くの貴族たちも認めているものだ。彼女なら、必ず良い成果を上げてくれる」


そう言って俺が事業計画書を差しだすと……

マーカスはそれを見て一瞬悩むような顔をした後で、ニコニコしながら了承したのだった。

「西大陸商人ギルド編①」メインストーリー終了でございます。

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。


今回は、作者的に初の試み「敵陣営視点」を導入してみました。いい感じのざまぁができたのでよかったかなーと思います。ただ、マーカスがギルド長の地位を守り切ってしまったことについては、賛否ありそうですね(^◇^;)


あと、嫁が増えてしまいました。

実はあの娘はまだまだ先の予定だったんですが……成り行き上仕方がなかったのです!

ごめんなさい!!m(_ _)m


残るはいつも通りの「余談」と「棚卸し」ですが、実ほどっちもまだ書ききれてないです。なので、この流れのまま今夜投稿するのは無理っぽいです(T . T)

本業が超忙しいwww


また近いうちに投稿しますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった! 本業忙しい中、感謝です
[良い点] これだけ広がった風呂敷が見事なまでに綺麗に収まる不思議。
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