06 薬草摘み
「今日の依頼は渋いな…」
俺は、モルト町ギルドに張り出された依頼書を見ながら、そう呟いた。
『【作業】ヤック村で薬草摘みの手伝い』
『【初級】アース街道のゴブリン退治(巣穴殲滅)』
『【初級】モーモーのモモ肉10kgの納品』
『【初級】アルス森林でのサールスの討伐×20体』
『【中級】カラド山脈のメラモーモーの討伐』
「こんな日は、アルカナさん家の薬草農家で薬草摘みだ! 待っててくれよ、プリンちゃぁぁぁーーーーん!!」
後ろで、全く懲りていないバージェスが騒いでいる。
どうやら、1日や2日じゃ全然摘みきれない量の薬草があって困っているらしく、その依頼はずっと張り出してあった。
「そうだな、じゃあ俺も薬草農家に行こうかな」
「アルバス、てめぇっ! まさかてめぇもプリンちゃんを狙ってやがるのかぁっ!!???」
「まさか…」
3ヶ月前に仕入れた薬草が、種類によってはそろそろ足りなくなりそうだったので、仕入れるついでに作業クエストをこなすのも悪くないかなとか。そんなくらいの理由だ。
あと、そうやって女主人に恩を売っておくと。もしかしたら、おまけとかしてくれるかもしれない。
だが…。
ちょっと面白そうなので…
「その通りだ!」
と答えてみた。
「なにぃっ!? アルバスてめぇ後からきておいて…」
「後だろうが先だろうが、最後に選ぶのはプリンちゃん自身だぜ」
「む…」
「どっちが選ばれても…、恨みっこなしだぜ、兄弟」
「う…うぉぉぉぉぉおおーー!! 恋敵きたぁぁーーーっっ!?」
バージェスが燃え始め。
予想以上に面白いことになった。
周りの冒険者達は、しばし呆気にとられたあと。
「バージェスがんばれー」
「アルバスも負けるなー」
と、気のない声援を送って囃し立て始めた。
「おおおぉぉおおおおおーーーー!!!」
テンションが上がりすぎて剣を抜き、炎を纏わせて振り回す魔法剣士バージェス。
その後、ギルドの職員にめちゃくちゃ叱られていた。
「火事になったらどうするんですかぁぁぁーーーっっ!!」
→→→→→
薬草摘みは、思ってたよりもずっとキツかった。
何せ、山一つ全部が農場で、
すでに一面に薬草が生えている状態なのだ。
終わりが見えない途方もない作業の繰り返し。
その時点で、俺はもう心が折れかけていた。
だが、俺の隣で薬草を摘む強面の中年冒険者バージェスは、終始だらしない笑顔をしていた。
すぐ近くで、薬草農家の女主人アルカナとその娘のプリンが、かなりの薄着で汗を流していた。
衣類が汗で肌に張り付き、なかなかに刺激的な状態になっている。
バージェスは、それを見ながらニコニコしているのだ。
ど変態め。
と言いつつ、俺も…。
気になるので何度もチラ見してしまう。
うんうん。
薬草摘み最高!
だが、作業開始から1時間もすると、身体のあちこちが痛くなってくる。
特に、腰!
無理にかがんだ姿勢で薬草を摘むのでもう大変だ。
そして2時間もするとダウン。
「ちょいと、休憩」
アルカナとプリンの親子は、やはり慣れているのか黙々と薬草を摘み、カゴへとしまっている。
バージェスも。
ここのところ毎日のようにここへ通っているため、作業にはかなり慣れているようだった。
休憩に向かう俺をチラ見して、「俺のが上だぜ!」とニヤッとしてくるので、なんかムカつく。
体力自慢の冒険者と。
戦闘力ゼロの俺を比べるなよ。
「それじゃあ、そろそろお昼にしましょうか」
アルカナがそう言って、待ってましたとばかりにバージェスが走り出した。
「午前中は、カゴ12個分か」
「4人なら、3往復で運べますね」
「後ひと頑張りです。乾燥場に運んだら、お昼にしましょうか」
「いやいや、この俺の筋肉なら、一回で3個は運べますぜ!」
そんな話をしているので…
「これを、運べばいいのか?」
俺が、カゴに手を触れながら「倉庫収納」と唱えると。カゴは一瞬で俺の『倉庫』へと収納された。
「薬草入りのカゴ(中)×12」
そんな感じの名称が頭に浮かぶ。
「アルバスさん!すっごーーい!」
プリンちゃんが囃し立てるので。
「ぐ…ぐぬぬぬぬぅぅーーーっ!?」
と、バージェスはかなり御立腹だった。




