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35 策謀の果て

西大陸商人ギルド本部。


その知らせは、昼頃にマーカスへともたらされた。


「どういうことだマーカス。街中で『商人アルバスの商隊が、ポッポ村で特級モンスターの討伐を成し遂げた』という話が話題になっているぞ」


「な、なんと!?」


「それどころか、現在アルバスはお前の策謀によりトトイ神殿跡地に閉じ込められているという話までが、じわじわと広まっておる」


クドドリン卿の口から告げられたその言葉に、マーカスは驚愕した。

昨日トトイ神殿跡地へと向かったジャハルからは、その後の知らせは来ていない。

つまり、ジャハルは失敗したという事だろうか?


「しかし。アルバスがトトイ神殿跡地に閉じ込められているならば、そんな話がキルケットに伝わるはずがありません!? 知らせることができるのは、ジャハルがアルバスの封じ込めに失敗した場合なので、それでは矛盾する話で……」


「知らんわっ! 事実かどうかなどもはや関係ない! 現にこうして噂は着実に広まっている。やつめは、本日の劇場公演をすべて中止としたかと思えば、劇場の吟遊詩人を使ってそんな話を広めさせているのだ。そして奴らが『誰の策謀』であるかを言っていないことが、逆に全ての真実味を増している」


「そ、それは一体……?」


「お前は今、私兵を使ってポポイ街道に検問所を設置しているな?」


「あっ……」


昨日から、マーカスは念のためにと自らの私兵を使い、ポポイ街道の、トトイ神殿跡地とキルケットの中間地点、ややキルケット側に検問所を設置させていた。

それにより、もしアルバスがジャハルの封じ込めを逃れたとしても、そう簡単にはキルケットにたどり着けないようと手を打ってあったのだ。


「奴らは今日の早朝から、討伐した特級モンスターの素材を持ち『アルバス商隊の海竜討伐譚』を唄って回っておる。さらには『何者か』によって閉じ込められた劇場主(アルバス)の救出を呼び掛けておる」


そして、その『特級モンスターの素材』には、キルケットNo.1貴族であるトンベリ・キルケットの、元お抱え鑑定士『ガンドラ』の鑑定証が付いているというのだ。


「し、しかしですねクドドリン卿……」


その周到さは、ありえないスピード感だった。

この動きの早さを逆算すると、昨晩ジャハルがアルバスを閉じ込めようとしているまさにその時から、アルバスはすでにキルケットの各所に連絡をとってすべての準備を進めていたことになる。


劇場の公演中止の判断をしたうえで、早朝から特級モンスターの素材を持った吟遊詩人たちが興行に出回るという事は……

早朝の時点ではすでにモンスター素材の鑑定が済んでいたことになる。


つまりは昨晩のうちから全ての準備を始めていなくては間に合わない。


「そこへきて、昨日からお前の私兵が理由不明のままポポイ街道に検問所を設置しているという話が広まっている。それは数々の冒険者に目撃されており、そこから愚民どもは勝手にお前の関与を疑ってアルバスの幽閉と結び付けている」


「くっ……」


策謀が、完全に裏目に出た形だった。


「そしてすでに、何名かの鍵開け系のスキルを持った冒険者が雇われて、トトイ神殿跡地に向かったという話だ。もしお前の私兵がこれの通行を妨害すれば、完全にお前の疑いはクロとなるぞ」


「うっ……」


「この件。私は一切何も知らぬ。これはすべてお前とジャハルが計画し、お前たちが勝手にやったことだ」


「ま、待ってください。クドドリン卿……」


縋りつこうとするマーカスを振り払い、クドドリン卿はマーカスの執務室を足早に去って行った。



→→→→→



そして数時間後。

失意のまま執務室の床に膝をつくマーカスに、さらなる情報がもたらされた。


「大変です! マーカス様」


駆け込んできたのは、北の街道に検問所を設置している部隊の伝令係だ。


ちなみにこれまでにもたらされた報告は……

昨晩、トトイ神殿跡地から助けを呼びにきた番兵を拘束したという報告だった。


「……」


おそらくは、先ほどのクドドリン卿の話通りの展開が繰り広げられているのだろう。

つまりは、アルバスの救出に向かった冒険者と、検問所のマーカスの私兵との間で小競り合いが起きたという報告だと思われる。


もはやこれで言い逃れはできないだろう。

これで、完全に終わった。


「北のシトロルン山脈。トトイ神殿跡地付近にて魔龍が出現いたしました! モンスター鑑定スキルの所持者によると……出現したのは『水魔龍ウラムス』だとのことです!!」


「……はっ?」


「現在水魔龍ウラムスは大量の水を上空へと巻き上げながら、攻撃準備に入っているとのことです。奴のターゲットはおそらく、付近でもっとも人口の多い都市。……このキルケットです!!!」


もはや、マーカスの頭は収拾がつかないほどに混乱していた。


だが、これは千載一遇のチャンスだ。

この混乱に乗じてうまく立ち回れば、アルバスの件をうやむやにしながらも現在の地位を守り抜けるかもしれない。


「商人ギルドの倉庫をすべて開けっ!! まずはトドロスの『属性防御・水』系統のスキル付き武具を各自警団に配布して守りを固めさせろ!」


「ははっ!!」


「そしてすぐに魔障フィールドの解析部隊と、討伐部隊を組織するのだ! こうなったらもう(マナ)は惜しまん!! 冒険者ギルドと協業体制を敷き、命知らずの冒険者たちを(マナ)でかき集めるのだぁっ!!」


「マーカス様ぁっ!!」


そこへ、次の伝令係がやってきた。

立て続けの報告だ。


「今度はなんだっ!?」


「水魔龍ウラムスが、アルバスの商隊によって討伐された模様ですっ!!」


「……なにぃっ!?」


「あと、ポポイ街道に雪が降っています」


「はぁっ!?」


一縷の望みをかけ、(マナ)にものを言わせて返り咲くというマーカスの名誉挽回策は……


こうして一瞬にして崩れ去ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今章は展開がスゴくて面白いです 前章のモヤっとしてた部分が回収されてバトルが二段階あってメインストーリーが進み、ざまあもある。豪華な展開!
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