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32 『オメガ・スイ』と『水魔龍』

ロロイとともに、トトイ神殿跡地の水没した地下通路を進む。

魔宝珠の灯りがあるとはいえ、舞い上がる砂埃で水中の視界は相当悪かった。


俺は念のため、水路の入り口の壁に鉄杭を打ち込み、そこから命綱のロープを伸ばすことにしていた。

吸気用の革袋を常に口にくわえながら、必死にそのロープを引きながら進む。


そんな俺に対してロロイは。

ロープは持たず、革袋や装備品を適宜倉庫から出し入れすることで、浮力をうまい具合に利用して器用に泳ぎ回っていた。

革袋からの給気については、必要に応じてそれを口に運びながら行っている。

ロロイは戦闘だけでなく、こういうところでも『どうすればいいか』を完全に理解しているようだった。


こういうことも、例の「じぃ様」から教わったのだろうか?


ちなみに俺が2本目の革袋を吸い終わった時点で、ロロイはまだ1本目を吸っていた。


道はいくつかに枝分かれしており、やがて上下左右に入り組みだした。

一部には人工的に手を加えられた形跡があるが、大部分は水の侵食によって出来たものであるようだ。


そしてわずかながら、水流があった。


どこかに水源があって、そしてどこかへと流れていっているのだろう。

そのどちらが外につながっているのかはわからない。

ひょっとすると、どちらもつながっておらず、地下だけで完結しているかもしれない。


俺はゆっくりと泳ぎながらも、頭の中で必死に地図を組み立てた。

これまでにも3次元構造になっている遺跡は多々あったのだが、これは群を抜く難易度だ。


何せ、水中で視界が悪いうえに、気を抜くと前後左右どころか上下の区別すらまともにつかなくなるのだ。

そんな時は倉庫から重みのあるガラクタ石なんかを取り出して、一旦正確な『下』を確認した。


そんな形で慎重に、ロロイに方向を指示しながら移動した。


特に生き物などもいないようで、心配していたような水中戦などをする必要なども特になさそうだった。

とはいえロロイはすでにアルミナスを装備しており、いつでもやれる準備をしている。


トドロスの討伐で、ロロイの風属性の遠隔攻撃スキルが、水中でも有効であることは証明済みだ。

本当に頼もしい。


そのまま2人で水中を進む。


そろそろ俺の7本目の革袋が尽きそうだというところで、通路から大きな場所に出たようだった。

移動した距離は、300mもないくらいだろうか?


ロロイに『上』だと合図をして、2人でゆっくりと浮上していく。

水面に顔を出すと、激しい水の音とともに大量の水しぶきが顔にかかった。


「なんだここは?」


「おっきな空洞なのです。たぶん、ここがこの遺跡の中心部なのですよ」


そうして、ロロイが魔宝珠の光を調整して大きく広げると、水音の正体が明らかになった。


俺たちの数メートル先で激しい水しぶきが上がっている。

どうやら、はるか上空から水が降ってきているようだった。


滝などのように壁面に沿って落ちているものではなく、上から一直線に降ってきている。


ロロイが魔宝珠の光をさらに光を広げると、その水源が照らし出された。


「ロロイは、また見つけられたのです。やっぱりアルバスは最高のガイドなのです」


「これは……」


それは水の塊だった。

巨大な水の塊が、空中に浮いていた。

そこからドバドバと水が溢れ出して落下し、激しい水しぶきとともに大きな水音を立てているのだった。


その水の本当の源がどこからきているのかは不明。

おそらくは、この世界のある次元とは別の次元から流れてきているのだろう。


そう。

俺はそれに似たものを見た覚えがあった。


無尽太陽(オメガ・サン)?」


「違うのです。これは無尽水源(オメガ・スイ)なのです」


「アーティファクト……、水のものか」


トトイ神殿跡地にアーティファクトが存在するなどという話は聞いたことがなかったし、どう考えてもこれは俺たちが第一発見者だ。

まさか、ここで俺たちが新たなるアーティファクトの発見者になるとは……


シトロルン山脈の全域からの湧き水であるとされていたキルケット川の水源、およびキルケット住民の生活を支える豊潤な地下水の出どころの一部は、おそらくはこの無尽水源(オメガ・スイ)だったのだろう。


「大発見、だな」


「大発見なのです!」


言いながらロロイが水晶玉を水面に出し、無尽水源(オメガ・スイ)に向かってかざした。

アース遺跡群でもやった、あれをやるのだろう。


「さぁ、無尽水源(オメガ・スイ)よ! ロロイの元へ!」


ロロイの掛け声とともに、以前アース遺跡の最奥で見たのと同じように無尽水源(オメガ・スイ)から、2つの光の粒が飛びだしてきて、ロロイの持つ水晶玉と、ロロイ自身の中へと吸い込まれていった。


「またまたさいっっっこうの、トレジャーハントなのですぅぅぅぅ~~~~っ!!」


ロロイが、興奮のあまり水晶玉を持ったまま水中でクルクルと回転した。


「頼むからそれ落っことすなよ!」


この空間は、本来は漆黒の暗闇のはずだ。

激しく水しぶきが上がっていて松明が使えないため、ロロイの魔宝珠の明かりだけが頼りなのだ。


「アルバ―ス! あっちの方の水中に何かあるのですよ!」


ロロイに言われてそちらの水中を覗き込むと、少し離れた場所の壁面からせり出した台のようなものが見えた。

そしてその上には、何やら机やいすのようなものがあるようだった。

位置的には、無尽水源(オメガ・スイ)の直下からはかなりそれるようだった。


今はすべて水中に沈んでいるのだが。

もともとここの水位はもっと低く、居住可能な部分などもあったのかもしれない。


無尽水源(オメガ・スイ)の直下はくぼんでいて一段と低くなっているようなので、本来はそこが無尽水源(オメガ・スイ)から湧き出る水を受け止める貯水槽だったのだろう。


「トレジャーハントなのです!?」


「これは、掘り出し物があるかもしれないな!」


俺とロロイは、再び革袋を手に水中に潜っていった。

そして、せり出した台の上まで泳いでいき、机やいすの周辺にあるそれらしきものを手当たり次第に倉庫に突っ込んでいく。


ナイフや装飾品などの武具に加え、水晶を平たくしたような形をした宝石など、マナになりそうなものが机の上や引き出しの中、棚の上などに乱雑に転がっている。

俺は、その机をまるごと倉庫にしまい込んだ。

後で隅々まで探索することを考えると、涎が垂れそうな程興奮する。


上のトトイ神殿は400年ほど前建てられたものだと考えられており、様々な所有者の手を経て200年ほど前にだれも住まなくなった。


だが、この地下部分はもっと古い年代のものだ。

おそらくは2000年前、アース遺跡群と同じ年代のものだろう。


何か、その年代が証明できるようなものがあれば、発見の根拠にできるかもしれないのだが……


きょろきょろと水中であたりを見渡し、古代文字で執筆されている皮紙の束を見つけた。

比較的はっきりとした文字が残されてはいるが、一瞥したところ年代が分かるような言葉はないようだった。

内容は、どうやら無尽水源(オメガ・スイ)の観察記録のようだ。


俺は、それらもまとめて倉庫に突っ込んだ。


そしてその最中、ふと目に入ってしまった光景に、思わず口から息を吹き出してしまう。


迫り出した足場台の奥は少し広めの空間が広がっていて、その奥から一匹の巨大な生物が顔をのぞかせていた。


激しくむせ、大量の水を飲み込んでしまう。


そんな俺を見て、ロロイが慌てて俺を水面まで引き上げてくれた。


「アルバス、どうしたのです。大丈夫なのですか?」


「ロロイ。お、落ち着いて聞けよ……」


俺が水底で見た生物は……


「たぶん魔龍だ。水魔龍!」


額に含魔石が生成しているのが見えたので、間違いない。

あの位置に含魔石が生成されるのは魔龍特有のものだ。


魔龍というのは、通常のモンスターとは根本的に違う生き物であるとされている。

いや、生き物かどうかも怪しい。

どちらかというと迷宮の魔物などに近いもので、何らかの条件が重なったときに、自然発生的に生み出されるものであると考えられている。


発生条件は不明なのだが、各地に存在するアーティファクトと何らかの関連がある可能性もある、と王都の白魔術師ギルドが発表していた。


今は眠っているようだが。時々ぴくぴくと手足を動かしており、生きているのは間違いない。


「あれが動き出して襲ってきたら、マジで命がない。急いでここを離れるぞ」


「動き出したのです!」


「だから、その前に……えっ!?」


水中を見やると、水魔龍がその巨体をくねらせながら上昇してきているのが見えた。


「に、逃げるぞロロイ!」


と言いつつ、もはやどこに逃げればいいのか全くわからなかった。


「いったん動くな。それで何とかやり過ごせれば……」


水魔龍はあっという間に水面まで上昇してきた。

そして、水面からのっそりとのぞかせた顔で、俺たちの方を見つめてきた。


「うっ……」


完全に、認識されている。


こうなったら、どうでもいい相手として無視されることに一縷の望みをかけるしかない。


俺は、ライアンやルシュフェルドのいない場面で魔龍と遭遇するのは、初めての経験だった。

控えめに言って、絶体絶命の危機だ。


そんな俺の後ろで、ロロイが静かに水中で半身を引いて、構えをとっていた。

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