31 トトイ神殿跡地の探索④
ロロイは数時間ほど寝込んでから起き出してきた。
俺も一緒に仮眠を取ったのだが。俺が再び目を覚ましてもロロイは眠り続けていた。
なかなかロロイが起きてこなかったので、魔宝珠を借りて俺も光らせられないかと色々試してみたがダメだった。
そんな魔宝珠は、ロロイが起き出すと同時に再び眩しいばかりの光を放ち始めたのだった。
そしてトレジャーハントだと騒ぎ立てるロロイを一旦なだめ、俺は飯を取ることにした。
考えてみたら、今日はまだ夕飯を食べていなかった。
もはや、時間的には朝食に近いのかもしれないが……
こういう時に食料の心配がないことについては、倉庫スキル持ちで本当に良かったと思う。
ポッポ村への出発前に買い足しておいたので、もしこのままここに閉じ込められ続けたとしても、手持ちの食糧だけでもあと1ヶ月は飯の心配がない。
「そういえば、クラリスたちも飯がまだだったな」
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クラリスとバージェスにも食事を分けるため、一旦鉄格子の前まで戻ると。クラリスがなぜか部分鎧を脱ぎ捨て、汗だくになりながら鉄格子を斬り付けていた。
「何やってんだ?」
「ああ、アルバス。私も、私にできることをやろうと思ってさ」
バージェスはあの後一回戻ってきたらしい。
ハジャスもダコラスも見失ってしまったため、一旦回復のために戻ったようだ。
そして、すぐにまた出て行ったらしい。
凄まじいタフネスだが、一度完全に見失ってしまった以上、今から山や森の中でハジャスを見つけ出すのはほぼ不可能だろう。
そしてクラリスはと言うと。
ここでバージェスの帰りを待つついでに、『絶対に壊れない鉄格子』を、なんとかして壊そうとしているらしい。
「うらぁっっ!!」
先程俺から受け取った予備のなまくら剣で、含魔鉄の鉄格子を思いっきりぶっ叩いている。
剣が刃こぼれしてなかなかに酷い状態になっていたが、元々なまくらだから良いってことだろう。
「うらぁっっ!!」
クラリスは、必死になって鉄格子を切りつけているが、普通に考えたら無理だろう。
「こりゃ、当分ここから出られそうにないな」
「なんでだよっ! あ、いや。確かにそうなんだけどな」
クラリスは、特訓に入り込みすぎて本気でこの鉄格子を壊すつもりになっていたらしかった。
「見てくれ! 少し曲がってきてないかっ!?」
どこからどうみても、元のままだった。
「もしこのまま、バージェスが鍵を取り戻せずに戻ってきたら、その時は2人で先にキルケットに戻ってくれ」
「何言ってんだ!? そういうわけにいかねーだろ?」
「こうなったらもう情報戦だ。できるだけ早くキルケットに戻って、バージェスが海竜ラプロスを討伐したのが本当だって話を広めて欲しいんだ」
そう言って、俺はその証拠品として『海竜ラプロスの牙』と『海竜ラプロスの背びれ』を鉄格子越しにクラリスへと手渡した。
ちなみにだけど、その他のいくつかの部位も、すでにミトラの箱を通してキルケットに送ってある。
「あと俺が、ギルドからの依頼品を集めきり、特級モンスターの素材の大部分を持ちながら、ここで足止めを食っているって話もな」
その上で。
例え到着には間に合わなくても、大商人シャルシャーナの滞在期間に間に合えばかなり格好がつく。
数々の品を扱う大商人と言えど、特級モンスターの素材にはかなりの魅力を感じるはずだ。
だから、俺がそれを持っているという話を広めておけば、場合によってはあちらから商談を持ちかけてくるくらいの話になるかもしれない。
「そういうことなら、わかった!」
「任せたぞ」
そう言って俺は、徹夜のせいで妙にテンションが高くなっているクラリスを残し、再び地下へと戻った。
→→→→→
地下に戻ると。
飯を食って満足したロロイが、再び寝てしまっていた。
その無防備な寝顔を見ながら。
ロロイがその内に秘めた凄まじいパワーを思って不思議な気持ちになった。
ロロイの能力は、武術に秀でているとか、魔術の才能があるとか、そういう次元を超えているものだった。
武具に付くスキルのうち、魔術を発動させる『真性魔術』系統のスキルというのは、普通は発動から術式の付与までをフルオートで行うものだ。
例えば『真性魔術・火/球』などの武具スキルを使うと、火炎魔術の『小火炎魔術・球』がフルオートで発動するというわけだ。
アルミナスについている『遠隔攻撃・風/打』のスキルは、打撃に乗せて『属性魔術を遠隔地で生じさせる』という術式が付与された真性魔術スキルの一種だと考えられている。
だからアルミナスについても、その『遠隔攻撃』のスキルを使用した場合、本来ならば『遠隔攻撃』にしかならないはずなのだ。
だがロロイは、本来『遠隔攻撃』であるはずのアルミナスのスキルを、黒い翼との戦闘では『球』として放っていたし、海竜ラプロスとの戦闘では『線』としてはなっていた。
そして先ほどは、単に『発動』させただけの状態で手元にとどめていた。
俺の知る限りでは、そんなことができる人間はいない。
また、威力についても。
魔術発動系のスキルの威力というのは、本来は使用者の能力値が介在する余地はほとんどないのだ。
使いこなすことで微妙な威力の調整くらいはできるようになるらしいのだが、その範囲は非常に限定的とのことだ。
そして圧倒的に魔法力の変換効率が悪いため、黒魔術師が『真性魔術』系統のスキルを使うと、無駄に大量の魔法力を消費した挙句、自力で発動するよりも威力が低いなどということになるらしかった。
だが、ロロイはアルミナスのスキルで、かなり幅のある威力調整を行なっていた。
それもまた、本来ならあり得ない話だった。
「一体何者なんだろうな、お前は」
ロロイの出自について、無事にここを出られたらもっと詳しく聞いてみようと思った。
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程なくしてロロイが起きたので、早速出発することにした。
ロロイの開けた穴を通ってその向こう側に降り立つと、他よりひと回り大きいサイズの部屋に出た。
その部屋の石壁の材質をよく見てみると、やはりこれまでの部屋とは壁の材質が異なっており、完全に別の年代に作られたものであることが確認できた。
そして部屋のサイズの違いから、おそらく他の部屋は、元々からここにあった古代遺跡の部屋の内側に、新たに石壁を築いて作られたため、一回り小さかったのだ考えられた。
「トレジャーハントなのですっ!」
そしてその部屋には壁から床にかけて大きな穴が開いており、部屋の中央から地面が削れて斜め下に向かう小道ができていた。
上の方から、チョロチョロと水が流れ続けている。
「この大穴のせいで、この部屋だけ使わずに埋めたってわけか……」
水を利用したなんらかの施設があって、それが長年の時間経過によって削られてこうなったとかだろうか?
「さっそく調査開始なのです!」
「はいよ」
ロロイと二人、意気揚々と調査を開始した。
ロロイの興奮度はどんどんと上がりまくっている。
だが……
その穴を三十分ほど進むとすぐに行き詰まった。
そこから先が、水没していたのだ。
「行き止まりか……」
「行き止まりではないのです! 道は続いているのです。早速潜るのです!」
そう言って大きく息を吸い込むロロイを、慌てて止めた。
「無茶するな。この先にすぐ空気のある空間があるかどうかもわからないんだぞ」
「でも、ロロイはこの先に行きたいのです。行かなくてはならないのです」
放っておいたらそのまま飛び込んでしまいそうなロロイに、俺は飲み終わった飲み水の革袋を差し出した。
「この中に空気をためて、吸いながら進もう。口ですって、鼻から出す。いまからありったけの空気入りの袋を作って、各自の倉庫にしまっておこう」
アース遺跡群のトレジャーハントの際に準備したそういった備品は、いまだに大量に俺の倉庫に入れっぱなしになっていた。
倉庫の容量が馬鹿でかいというのは、こういう点でもなかなかに役に立つことだった。
ロロイとともに、革袋から周囲に水をぶちまけ、代わりに空気を入れ込む。
そして、次々に栓をした状態にして各々の倉庫にしまいこんだ。
他に、ポッポ村の漁師達から買った『水中でも物が見えやすくなるメガネ』を装着し、これで水中探索の準備は万端だ。
「それぞれ20本ずつか……。不測の事態に備えて、9本使い切った時点で引き返そう」
ロロイとそう約束をして、革袋の先端を口に咥えながら、2人同時に水中に潜った。
途中に空気のある空間があればいいのだけど……
身体にまとわりつく水は、ここが地下であるせいかポッポ村の海水よりかなりひんやりしていた。




