28 トトイ神殿跡地の探索①
薄暗い石壁の廊下を、ロロイと2人きりで進む。
「んー、布切れがあるのです」
おそらくは牢獄の一部屋だった小部屋に入り、ロロイが布切れを拾い上げた。
「倉庫収納」
そう言って、自身の倉庫にしまい込み……
「『毛布の切れ端』なのです」
と、鑑定スキルでの鑑定結果を口にした。
これまでに見つけたのは『衣服の切れ端』と『皮膚の切れ端』と『エルフの足の骨』だった。
間違いなくここでエルフ達が囚われ、そして一部はそのまま死んでいったのだろう。
「気をつけろよ。物陰が多くて入り組んでるせいで、松明の明かりが届かないところが多い」
壁が多い場所では、松明の火というのはなかなか扱いづらい。
アース遺跡の時は4人だったのでまだマシだったが、今は2人きりなのでなかなか隅々まで光が届きづらくなっている。
「照明点火が使えるやつがいるといいんだけどなぁ」
「なんですかそれ?」
「こう、光がパーッと出てきて辺りを明るく照らす魔術だ」
夜中まで煌々とした明かりに照らされていた貴族のオークション会場を思い出す。
「今後も地下遺跡に入ってトレジャーハントをするなら、そういうのできるやつがいた方がいいな」
新たに人材を探すか、今いる中の誰かが習得するか……
習得ならば、クラリスあたりには頑張ってもらうと意外とすんなりいくかもしれない。
ライアンのパーティでは、支援魔術師のフィーナと、白魔術師のジオリーヌがそれらを行っていた。
所持する魔術属性にとらわれない支援魔術の習得は、努力次第でなんとかなる技術だ。
皇族や貴族に支援魔術師が多いのは、『たしなみ』として幼い頃からその鍛錬を受けるからなのだが、それでも使い物になるレベルの支援魔術を習得できるのはごく一部の才能あるものだけだ。
支援魔術は、習得のみならば比較的容易であるのだが、能力値が低いと魔法力の消耗が非常に激しい。
そのため、下手なものが使うと一瞬で魔法力が空っぽになる。
また、技術力に加えて魔法力の絶対量なんかもまた才能の一部だ。
クラリスの場合、他に魔法力の使い道があまりないから、ひょっとすると適任かもしれない。
「あっ……」
そう、ロロイが声を上げて立ち止まった。
「どうした?」
「ロロイは、支援魔術は使えないのですが……」
そう言って、倉庫から何かを取り出した。
その瞬間、辺りが昼間のような明るさに包まれる。
松明のような明かりじゃない。
これは……
「無尽太陽の欠片か!」
存在を忘れていたが、これならめちゃくちゃ明るい。
「うーん、うーん……」
そしてその水晶玉を持ちながら、ロロイが何やら『うんうん』と唸ってる。
「何してるんだ?」
「ちょうせつ、なのです」
すると、その光の範囲が徐々に狭まっていき。
ロロイの手のひら大まで小さくなりすぎてから、再び半径5mくらいの範囲まで広がった。
「このくらいでいいですかね?」
「お、おう」
これ、範囲の調整とかも出来るのか。
いよいよもって、凄まじいお宝だった。
「ロロイはこの『魔宝珠』のことを忘れていたのです。ここなら、アルバスとロロイしかいないから使っても良いのですよね?」
アース遺跡から出てすぐの時、これを見せびらかしたロロイに「すぐしまえ」と言ったことを、気にしていたらしい。
そして、このアイテムは『魔宝珠』と言う名前らしかった。
「そうだな、ここなら問題ないな」
徐々に光に目が慣れてくると、さっきまでとは段違いに隅々までよく見える。
ロロイは、さっきまでよく見えなかった粗末な寝床らしきものの下側とか、天井の窪みとか、そう言った場所を覗き込み始めた。
「トレジャーハントなのですぅぅーーー!!!」
色々とよく見えるようになったせいで、ロロイのトレジャーハント魂に、さらに火がついてしまったようだった。
そして、たっぷり数時間の時間をかけて、三叉路の先の部屋を全て見て回った。
結局、大したお宝はなかったのだが、ロロイが度々壁の向こう側を気にしていた。
「ここって、山の中なのですよね?」
歩きながら、ロロイがそんなことを質問してきた。
「そうだな。たぶん、ここはかなり入り込んでるな」
このトトイ神殿は、シトロルン山脈の中腹に位置している。
山肌にへばりつくようにして建設されているが、その大部分は山の中をくり抜くような洞窟の形で建設されていると思われる。
これほどの地下空間を掘ることは、現在の技術では相当に困難なことだ。
ちなみにアース遺跡群レベルの規模のものに至っては、どう考えても不可能だ。
おそらくは突如出現するダンジョンなどの構造物と同じく、古代の超技術によって作り出されたものなのだろう。
他にも、ただ存在するだけの巨大なエネルギー体である『アーティファクト』もまた、それがなんなのかということさえ俺たちの文明では解き明かせてはいない。
ちなみにエルフ達にも無理だ。
おそらくこのトトイ神殿は、すであった古代遺跡をエルフ達が改築して作ったのだと思われる。
2000年前の古代人というのは、本当に何者なのだろうか?
『古代文明の王はこの世の全てを支配する力を持っていた』などという言い伝えも、あながち冗談とも思えないことだった。
「アルバス。最初のところ、もう一度見に行ってもいいですか?」
「そうだな。でもその前一回上に戻って番兵のおっさんに『もうちょっとかかる』って言ってくるか」
「了解なのです!」
そして俺たちは、明かりを魔宝珠から松明に切り替え、曲がりくねった階段を登り始めた。
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「あ! アルバスたちが戻ってきたぞ!」
クラリスの声が聞こえた。
「悪いアルバス。アルバス達は、ここに閉じ込められたみたいなんだ」
「えっ……?」
そして、俺は。
自分のおかれた状況を知ることになったのだった。