24 マーカスの焦りと、新たなる謀略
バージェスが海竜ラプロスを討ち取った翌日の早朝。
城塞都市キルケットにある西大陸商人ギルド本部には、早くもその知らせがもたらされた。
知らせを受けたギルド長のマーカスは、休むことなく20時間以上も移動し続けた偵察の者に労いの言葉もかけず。怒りのまま拳を机にたたきつけた。
「ジャハルよ、これは一体どういうことだ!?」
そう言って、わきに控えていた秘書官のジャハルを睨みつけた。
「も、申し訳ございません。まさかアルバスが、特級モンスターを倒すほどの護衛戦力を持っているなど、思ってもみなかったことで……」
しどろもどろになりながら言い訳を繰り返すジャハルに、マーカスはさらに怒りを募らせた。そして、さらに強い力で机を殴りつけた。
元勇者パーティとはいえ、アルバス自身の戦闘力は皆無。
商人としての嗅覚はそこそこあるようだが、商隊としての戦力はそこまで高くはないと分析されていた。
アース遺跡群の攻略についても様々なうわさがあるようだったが、おそらくは迷宮の罠を避ける何らかのスキルを持っていただけ。
そしてそもそもの話が、勇者パーティで一度通った道をもう一度通るだけなのだから簡単なことだったはずだ。
と、マーカスは思っていた。
「それだけではない! アルバスはなぜかすでに約束の数の素材を集め切り、今この時まさにポッポ村を立とうとしているという話ではないかっ!? このままでは、アルバスが大商人シャルシャーナの到着に間に合ってしまう!」
「も、申し訳ございません」
「言い訳や謝罪など聞きたくもない!!」
そしてマーカスは、ジャハルに近づいていってその襟首を捕まえ、その小柄な身体を壁に叩きつけた。
「ぐうぅ!」
背中から壁に激突し、苦しそうに身を捩るジャハル。
「このままではクドドリン卿の逆鱗に触れてしまう。そうなれば、わしもお前も終わりだ。なんとかして、残りの2日間あやつの足止めをせねば」
「し、しかしマーカス様! そもそもアルバスは、自身の仕事が大商人シャルシャーナ様の到着に合わせて素材を用意することだとは知らないはずでございます」
「だが、奴は明らかにそれに間に合うように予定を組んでことを進めている。……感づいているのだろうよ」
「ウォーレン卿の入れ知恵やもしれませんが、やはり侮れんやつですな」
「ならば、こちらもそのつもりで動く。もうなりふりは構ってはいられないぞ」
「マーカス様。たしか1週間前に、トトイ神殿跡地の衛兵からアルバスの内部見学の許可証の真偽を確かめる使者が来ておりました」
「適当に追い返したアレか」
「はい。おそらくは、アルバスたちは帰りもトトイ神殿跡地の宿場で一夜を明かすでしょう」
「あそこは、もともとは大戦中にエルフたちを閉じ込めた大牢獄であったな」
「ええ、そうでございます。ただ、この状況ではアルバスが帰り道を急いでトトイ神殿を素通りする可能性がございます」
「それはいかん。何か策があるのか?」
「ええ。ですから、トトイ神殿内部見学許可の期限を明後日までと区切るのです。そうすれば一度キルケットに戻ってからの再訪することはできなくなるし、ついでにトレジャーハントの許可なども付け足してやれば、アース遺跡で得た富と名声を再び夢見て遺跡に立ち寄ることは間違いないでしょう」
「よし、そうしよう」
2人は、顔を見合わせてにやりと笑った。
「アルバスをトトイ神殿跡地にて、地下の大監獄に閉じ込めて足止めするのだ。なんとしてでも、大商人シャルシャーナの到着に間に合わせるな!」
そして、大きくうなずいた秘書官のジャハルが、足早にその部屋を出ていったのだった。




