21 商人としての協力②
「予定通り2日後の朝、キルケットに向けてこの村を発つ」
晩飯を食いながら、俺はほかの3人……特にバージェスに向けてそう宣言した。
今日の1日を使い、俺は解体まで含めたすべての準備を完全に完了していた。
実際、今からでももう出発できる状態だ。
「つまりは。実質、明日が最後の滞在日ってわけだな」
バージェスは、あれ以降も毎日のように森へ行き、一日中精霊魔術の精度を高めているようだった。
「ああ、必要な数の素材はもう集まった。あとは、期日までにキルケットへ素材を持ち帰れれば、依頼完了だ」
バージェスは「わかった」とだけ呟いて、黙々と夕飯を食べ続けた。
ここ数日の飯は、俺が宿屋に提供したトドロス肉だ。
多少臭みはあるが、脂がのっていて旨い。
しばしの沈黙。
バージェスが何を考えているかなんて、もうだいたいわかる。
「言っていた『土の属性付与スキル付きの大型武器』は、結局見つからなかった」
「もともとそれだけを頼りにするようなつもりはなかった。問題ないさ」
「悪いな……。だけど、その上でもう一度聞くが。実際のところ、勝算はあるのか?」
俺がずばりとそう切り出すと、ロロイとクラリスが夕飯の手を止めてバージェスのほうを見た。
バージェスだけは、黙々と夕食を食べ続けている。
「勝ち目がないのならやめておけ。結局武器を見つけられなかった俺がこんなこと言える立場じゃないんだろうが……。少なくとも、有能な護衛であるあんたに死なれると、俺は困る」
「アルバス。もし俺が『勝ち目が薄い』と言ったら、お前は俺を止めるのか?」
「勝ち目が薄いのか?」
「ああ、そうだな……」
そうは言いつつも、バージェスの目には闘志がみなぎっているように見える。
完全に、やる気満々だ。
それを見て、俺は小さくため息をついた。
「俺は……ロロイやゴルゴのようにあんたと肩を並べて戦うことはできない。俺は……武具収集でしか戦いに関われない」
そう言いながら俺は、隣のテーブルに向けていくつかの武具を取り出した。
『赤い輝聖石の腕輪(力強化【大】)x1
『閃光鳥の含魔石(魔力精製・光)』x1
『閃光鳥の含魔石(属性魔術強化・光)』x1
『白い含魔石のペンダント(属性魔術強化・光【大】)』x5
『研ぎ師ミタルのナイフ(属性魔術強化・光【大】)』x2
『白銀石の腕輪(属性魔術強化・光【大】)』x3
机の上にずらりと並んだ高性能スキル付きの武具に、バージェスが驚いて目を見開いた。
まぁここまで行くと、キルケットの高級商店でもそうそうお目にかかれないような品ぞろえだ。
並みの冒険者のパーティならば……
日々真面目にクエストをこなし続け、数年がかりでやっと揃えられるかどうかと言ったところだろうか。
バージェスの食事の手が、止まっていた。
「バージェス。これは、あんたのために用意した。あんたが海竜を倒すための武具だ」
俺は、弱い。
だから、バージェスと肩を並べて海竜と戦うようなことはできない。
でも、そんな俺にも……
俺にしかできないことがある。
「もし、あんたの勝ち目が薄いというのなら……、俺が、商人の力であんたを勝たせる」
それこそが……
このパーティにおいて俺が果たすべき、商人としての役割だろう。
→→→→→
「無印の魔術強化スキル2種に、基礎能力向上系のスキルまであるじゃねぇか。……いったい全部でいくらかかったんだこれ!?」
やがて、その意味を理解したらしいバージェスが、驚きのあまりにそう叫んだ。
「護衛の戦力強化は、雇い主である俺の安全のためでもある。黙って受け取ってくれ」
そして、できればあまり下世話な話はしないでほしい。
ざっと見た感じ、相場通りであれば全部で80万マナくらいだろう。
だが多分、無理矢理に集めさせたためそれ以上のマナがかかっているだろう。まさに、金にモノを言わせた形だ。
今更ながら、少し胃が痛くなっている。
これらの武具は、海竜ラプロスへの対応方針が決まった後、キルケットでガンドラに集めてもらったものだった。
『土の属性付与スキル付きの大型武器』の探索依頼を出すと同時に、俺はそれが見つからなかった時に備えた二の矢として、これら光魔術強化のスキルが付いた武具の探索を依頼していた。
そして実は。
そのための軍資金として、出発前に「100万マナ」をガンドラへと手渡してあった。
モンスター討伐の必要が見込まれている以上、討伐のために何かしらの特殊なスキルが必要になることを見越して、事前に手を打っておいたのだ。
『武具が必要になった場合には、欲しいスキル系統を劇場の者を通じて伝える。予算内であれば、金に糸目はつけなくていい』
そう言って、俺が100万マナの入ったマナ袋を手渡した時、ガンドラは号泣していた。
こういう形で俺に頼られたのが、どうやら相当うれしかったらしい。
結果的に、一番欲しかった『土の属性付与スキル付きの大型武器』は見つけられなかったようだが、それ以外の物についてはかなりの上物が揃っていた。
特に『基礎能力向上系』と呼ばれる、力や俊敏性などの基本的な身体能力を引き上げるタイプの付与スキルは、相当のレアものだ。
これらの系統の武具スキルは、一度その持ち主が完全に定まると他人には使用できなくなる。ゆえに、市場に出回る数が極端に少ない。
実際、今回手に入れた『紅い輝聖石の腕輪(力強化【大】)』は、探していたような武器よりも高額で取引されるような品だった。
正直言って、よく見つけてこれたものだと思う。
ガンドラは、やはりキルケットではかなり顔が効くのだろう。
「あんたが討伐した海竜の素材を売るのを、今から楽しみにしてる。でもそれ以上に、俺にはまだまだあんたの力が必要なんだ」
だから、絶対に死ぬなよ。
そう、最後まで言わずとも伝わるだろう。
「ありがとよ、アルバス。今からちょっくら、身体にスキルをなじませてくるぜ」
バージェスはそう言って、ちょっと涙ぐみながら鼻をこすった。
「もし相性が悪くて使えなかったり、重かったりして動きの邪魔になりそうなら戻してくれ」
その場合はまた売って、またマナに戻すから……
「わかってる。絶対に無駄にしねぇからな」
そういって、バージェスは俺が用意した武具をすべて身につけ、外に出ていった。
→→→→→
バージェスの去った食堂にて。
クラリスが少しうるんだ瞳で、バージェスの消えた扉を見ていた。
「筋肉とは、また違った形の友情なのですね!」
そしてロロイも、とても嬉しそうだった。
なんか、いつにもまして目がキラキラしている。
「金で繋がる、友情なのです!」
その言い方は、マジでどうかと思うけどな……