20 商人としての協力①
バージェスが海竜ラプロスと対峙してから、3日が経過した。
「切り札は光の魔法剣だな……。勝算はあるのか?」
朝飯時。
朝と晩の飯の時だけ宿に戻ってくるバージェスに、俺はそう言って声をかけた。
「モンスターとの戦いは、いつだって想定外の連続だ。相手が思い通りに動いてくれることなんざ、まずないと言っていい」
「弱気だな。勝ち目がないと言うのなら、俺はあんたを止めるぞ」
バージェスは護衛として、相当優秀だ。
こんなどうでもいい場面で死んでもらっては困る。
それに、いずれ俺が商人として中央大陸に進出するようなことがあった場合。
元聖騎士のバージェスが一緒だと、そのことが色々と有利に働くであろうことは、想像に難くなかった。
「こんな所であんたに死なれると、俺が困るんだ」
バージェスは「こんな所、か」と呟いて黙り込んでしまった。
バージェスは、自身の特訓とは別に。
ポッポ村の漁師たちに言って、『魔力精製・光』や『属性魔術強化・光』付きの武具、それに『属性防御・水』付きの武具などをかき集めようとしているらしかった。
「勘違いするなよ、バージェス」
「なにがだ?」
「2日前、ガンドラに手紙を出して武器の探索を依頼した。一番の要望の品は『土の属性付与スキルが付いた大型武器』だ」
ちなみに『大型武器』というのは、大剣、もしくは斧などを想定している。
「……」
バージェスが少し驚いたような顔で俺の方を見た。
「てっきりお前は、もう海竜ラプロスの討伐には興味がないもんだと思ってたぜ」
「あんたが海竜の討伐にこだわっているみたいだったからな。何度も言うが、俺はあんたに死なれると困るんだ。どうしてもやる気だっていうのなら、あんたが生きて帰るための協力は惜しまないつもりだ」
「……悪いな」
「気にするな。ただし、格付けを【オリジナル】に限定しているから、期間内に見つかる可能性はそれなりに低いと思ってくれ」
武具に付く付与スキルには、格付けというものが存在し、格付けには【小】【中】【大】【オリジナル】の4種類がある。
最も効果が高い格付けである【オリジナル】のスキルは、別名【無印】とも呼ばれ、主に古代遺跡などから発掘される遺物などに付いている最高級の性能のものだ。
スキル鑑定の際、特に性能についての記載がないものが【オリジナル】のスキルだ。
発掘される遺物のほかにも、極まれに腕のいい職人が加工した武具に発現することもあるが、基本的には相当なレアものだった。
そういった【オリジナル】のスキルは、【大】効果のスキル10個分の性能だ。
そして【大】効果のスキルは【中】効果のスキル10個分。【中】効果のスキルは、【小】効果のスキル10個分。と、およそ10倍ずつ性能に開きがあるとされていた。
土属性付与のスキルに関しては、土属性を副属性に持ったバージェスであればスキルの力をある程度まで引き出すことができるだろう。
だが、【小】や【中】や【大】といった最高級でないスキルでは、使い慣れていない以上は特級モンスターにダメージが通らない可能性が高いため、今回の依頼からは省いていた。
まぁこのあたりが、戦闘に関して俺ができるわずかな後押し……
『商人としての協力』だ。
「なら、期待半分で待ってるぜ」
そう言って天を仰ぐバージェスの口元は、わずかに笑っているように見えた。
「だな。正直、見つけられる可能性がそこまで高くない以上、あまり期待されても困る」
期待半分くらいでちょうどいい。
一応、他にも手は打ってある。
「なら俺は、俺にできることを最後まで続けるだけだ」
バージェスはそう言って、そのまま今日の特訓に出かけて行った。
→→→→→
そして、さらに4日が経過した。
クラリスによると、特訓中のバージェスの剣の周りに、光の粒が集まってきているのが見え始めたらしい。おそらくは、バージェスが相当な高密度で精霊を集めているのだろう。
あちらの特訓は順調のようだった。
そして俺の方の素材集めについても、かなり順調に進んでいた。
バージェスが海竜ラプロスと対峙してからは6日が経過しており、そのうちの2日が船を出せるような海の状況だった。
俺とロロイはその2回の漁で、さらに52体のトドロスを討伐していた。
他に14体のトドロスの亡骸を漁師から買い取り、初日の15体と合わせて合計81体になっていた。
つまりはすでに必要数のトドロスの亡骸は集め切っており、あとは解体を終えるだけだという状況なのだ。
その解体についても、おそらくは今日中には全て完了できるだろう。
大商人シャルシャーナの到着予定は4日後。
このまま予定通り2日後の朝にポッポ村を出発すれば。今から3日後……つまりは大商人到着の前日の夕方ごろまでにはキルケットに戻れる見込みだった。
ただ、行きの道で仕掛けられていた様々な妨害工作を思うと、必要な数の素材が集まったのならば今すぐにでもキルケットに向けて出発したい気持ちだった。
だが、そこはバージェスのために俺がリスクを負う場面だろう。
もし本当に、この状況で特級モンスターを討伐できるほどの男ならばなおのこと、まだまだ俺にはバージェスの力が必要だ。




