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17 ロロイのトドロス狩り

海竜ラプロスの討伐に失敗し、港へと戻る道中の船上にて。


「海竜の討伐ができなかった以上、明日からは海竜の活動範囲を避けて漁を行ない、なんとかして1週間の内に80頭分のトドロス素材を集めたい」


俺がそんな要請をすると、バリスが首を横に振った。


「今のこの状況では、この村にあるすべての船と漁師を総動員したとしても、それは無理でしょう」


浅瀬を離れたトドロスは、船が近づくと海中深くに逃れてしまうらしい。

そしてそれを木材のしなりを利用した固定式ボーガンで狙い撃ちするのだが、海中深くに行くほどに威力も精度も低くなる。

水深にして15mも潜られれば、もうほとんどヒット率はゼロだそうだ。

正直言って、浅瀬以外ではまともな漁にならないとのことだった。


バンバ島付近の浅瀬であれば海底にいても難なく狙えるものが、浅瀬を離れて水深が深くなるほどに狙いづらくなる。


ちなみに西大陸側の砂浜には、トドロスはあまり近づいてこない。これには潮の流れや、トドロスの餌となる小魚(サマー)の生息地などが関係するとされている。


とにかく、1週間でそれだけの量の素材を集めるのはどう考えても無理があるとのことだった。


「なんで1週間なのですか?」


ロロイが小首を傾げながら尋ねてきた。

スキルで消耗したロロイは、さっきから体力回復薬と魔力回復薬をドリンクにしながらモーモー焼きを食いまくっている。


「ギルドからは、特に期限なんかは言われてないんだろ?」


バージェスもそう言ってロロイに同調してくる。


「期限は言われてないんだが。ジルベルトからの手紙の中に『2週間後の大商人訪問に向けて色々と忙しい』ということが、雑談として書いてあった」


「それが、どうかしたのか?」


バージェスが眉間に皺を寄せる。


俺も、その手紙を読んだ時にはただの嫌味か雑談の類だと思っていた。

ただ少し気になったので、劇場の吟遊詩人たちを使って引き続きキルケットでその大商人についての情報集めていたのだ。


それによると……


「なんでも、その大商人が前回キルケットに来た時、トドロスの素材を80頭分買い取っていったらしいんだ」


それを聞いたバージェスの顔が、あからさまに曇った。


「それってつまり……」


「ああ。つまりは、マーカスギルド長から俺への依頼は『その大商人のために(・・・・・・・・・)トドロス80頭分の素材を用意しろ』ということなのだろう」


一見して無期限で依頼されたように見えたこの依頼は、実はその大商人がキルケットを訪れるまでが期限だと考えられるのだ。


その期限をあえて俺に伝えなかったということは……

『普通は間に合うだろう』と考えたか、もしくは『単純にハメようとしている』か、のどちらかだろう。

そして、これまでの経緯を考えるとどう考えても後者としか思えない。


ただ単に『忘れていた』というのは、まぁたぶんないだろう。


「参ったな……」


ここまでにもあからさまに俺たちの妨害となる要素があちこちに散りばめられていた。


ポッポ村においても、キルケットで聞いた『上級モンスター』ならば問題ないと踏んでいたのだが。その実相手のモンスターが『特級相当』だったというのはそれなりに想定外だ。


もし本当にマーカスギルド長が、俺にこの依頼を失敗させることを最終的な目的としているのならば。

ポッポ村の住民を苦しませてまで、いったい何がしたいのだろうか?


俺がこの依頼を失敗した場合、その後に起こる事……

ここまで逆風が多いと、悪い予感以外には何もしなかった。



→→→→→



「トドロスの討伐がずっと進まなかったら、トトイ神殿の中に入るのもずっとおあずけなのですか?」


ロロイが、すでに泣きそうな顔をしながらそう尋ねてきた。


「悪いが、そうなるな」


「そんなぁ……」


「いや、まぁ。ちょっと後回しにさせてもらうかもしれないけど、後でちゃんとするよ」


「ロロイは悲しいのです」


ロロイにとっては、基本的にはトレジャーハントが全てに優先される。

許可証の件で既におあずけをくわせた後で、結局入れないなんてことになったら、ダメージはかなりデカいだろう。


「悪いなロロイ。俺はガイド失格かもしれないけど、もう少しだけ我慢してもらえるか?」


「仕方ないのです。アルバスのお願いならば、ロロイはそうするのです」


ロロイの目的のためにも、俺の目的のためにも。

とにかく1匹でも多くのトドロスを、1日でも早く討伐する方法を考えなくてはならない。


漁師達の船を総動員しても1ヶ月かかるのであれば。もうそれは諦めて、既に出回っている素材を集めるなど他の方法を考える必要があるだろう。


マルセラという商人が買い占めていったのならば、そいつから買うというのも一つの手だが……

そいつもマーカスの手先っぽいからたぶん無理だろう。


「ところで。なるべく早くトトイ神殿に戻るためには、とにかく早くトドロスをたくさんやっつければいいのですよね」


そこで、何かを閃いたらしいロロイが、そんな質問をしてきた。


「ああ、そうだ。でも、それができないから困ってるんだ」


「ふぅん。トドロスって、あの辺を泳いでいる手足のついたでっかい魚みたいなやつ?」


「んー……」


ロロイの指し示す方の海を見るが、俺にはなにも見えなかった。


「そうだ。嬢ちゃんはめちゃくちゃ目がいいな! これだけ離れた水中の獲物が見えるなんて、漁師に向いてるぜっ!」


それを見つけられない俺の代わりに、ゴルゴがそう答えた。


「ゴルゴにはごめんなさいですが。ロロイはトレジャーハンターでアルバスの護衛だから、漁師にはなれないのですよ」


そう言って、ロロイはおもむろに船の縁に飛び乗った。

そしてゆっくりと半身を引き、構えを取りはじめる。


何をするのかと思って見ていたら……


ロロイはそのまま海底に向かって思い切り拳を振るったのだった。


「なっ……」

「嘘でしょ!?」


俺からは何が起きたのか全くわからなかったのだが……

ロロイが拳を振るった次の瞬間、ゴルゴとバリスが目玉をひん剥いて驚愕していた。


そして数秒後。


意識を刈り取られたトドロスが、すこし先の水面にプカプカと浮かんできたのだった。


「水中では一発でトドメまで刺せなかったのですが。こうすれば早くトトイ神殿に行けるのですね!」


あっけらかんとそう言い放つロロイ。


恐るべしは、聖拳アルミナスの遠隔攻撃スキルか、それともそれを遥か海底の敵にヒットさせたロロイの技術力か。


ゴルゴとバリスは、口をあんぐりと開けたまま固まっている。


「ロロイ……」


マジで、とんでもない。

化け物級の能力値だった。


「あと、他のトドロスも水面に集まってきてるけど……」


どうやら、気絶した仲間をどうにかして助けようと、他のトドロス達が一緒に海面付近まで上がってきているようだ。


「そいつらも頼む! このまま全部討伐してくれ!」


慌ててロロイに指示を出す。


「了解なのです」


ロロイが再び構えを取り、ぶんぶんと連続して拳をふるった。



→→→→→



そしてロロイによって、あっという間に8体のトドロスが討伐された。


依頼達成のために必要なのは『トドロス80頭分』だが、ものの数分でその1/10が集まったのだった。


「これなら、トトイ神殿に早く戻れるのですねっ?」


「もちろんだ。ロロイはすごいな!」


俺はゴルゴと共に小船に乗りこみ、浮かんできたトドロスにトドメを刺してから自分の倉庫に収めて回る。

解体は、後ほど陸に戻ってからゆっくりとするつもりだ。


このままこれを続ければ、あと1~2回程度の漁で目的の数のトドロスが揃うだろう。


「これなら間に合いそうだ」



その後、もう1つのトドロスの群れを発見し、始めと同じような方法で7体のトドロスを討伐した。

だが、さらに3つ目の群れを見つけたところで海が荒れ始め、俺たちはそれ以上の狩りを諦めて帰港の途に着いたのだった。


ロロイの活躍により、この日手に入れたトドロスの亡骸は全部で15体に達していた。


ロロイ恐るべし。

マジで何者なんだこの娘は。


そんな俺の視線を受けながら、ロロイはニコニコしながらモーモー焼きを食べ続けていた。


「アルバスのモーモー焼きは、やっぱり最高に美味いのです!」


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