39 祝福と、新たなる門出
クラリスはしばらく固まった後。
すぐに状況を理解したらしい。
「よかったじゃん。姉さん…」
そう言って、顔を真っ赤にしながら部屋を後にしていった。
俺の方も、びっくりしすぎて心臓がバクバクで、色々と萎んでしまったので…
ミトラと2人、身支度を整えて食堂へと向かった。
部屋を出るミトラは、やはり目隠しをした。
ロロイとバージェスを信用していないわけではないらしいが。
「この屋敷に使用人がいる頃から、ずっとこうして生活してきました。今更不便もございませんよ」
やはり、そこはミトラ次第な部分だ。
俺が特に口出しするようなことではないだろう。
ちなみにクラリスには、外見的なエルフの特徴は何も発現していないらしかった。
「そのかわりエルフ特有の高い魔術の力も、全く母からは引き継がれていないようですが…。あの子まで、私と同じようにならずによかった」
そう言いながら、ミトラはその翡翠色の瞳を、再び分厚い布で覆ったのだった。
→→→→→
俺とミトラとの結婚について。
バージェスもロロイも祝福してくれた。
そしてお祝いだと言って、再び酒を煽りだしたクラリスが…
「で、バージェス! いつになったら私と結婚して……」
とガンガンに絡み出したのをみんなで煽りまくって、それはそれで楽しいひとときを過ごした。
クラリスは、実際そろそろ必死っぽい。
バージェス、そろそろ覚悟を決めろよな。
なんか、俺の方がいろいろと先を越しちまったぞ。
「バージェスはもう放っておく。アルバス義兄さん!今後ともよろしく頼むな!」
「あぁ…、そーいうことになるのか!?」
ならば。
義妹の恋路は、これまで以上に、全力で応援してやらないといけないな!!
「バージェス!いい加減に覚悟を決めろよな!」
「そーだそーだー!なのです!!」
俺とロロイが囃し立る中。
結局はあーだこーだと言い訳を続けるバージェス。
「本当に悪い。まだ、ちょっと覚悟が決まりきらなくて…」
「……」
いい年したおっさんが、いったい何言ってんだ?
成人したての男女じゃねーんだぞ!!!
と、さすがに頭を抱えて呆れ果ててしまった。
→→→→→
結局は2人はなかなかくっつかないのだが。
クラリスとバージェスは相変わらず2人でクエストに出かけ、たまにロロイと俺がアース遺跡表層でのトレジャーハントをするためにそれに加わった。
コドリス焼きは。
販売時の手数を減らすため、焼き鳥ではなくその『調味料』を売るという形で継続した。
しかも、ミストリア劇場の売店で土産物として売ることで、劇場の集客にも大きく貢献する形となっていた。
ミトラが作り出した蓋付きの精巧な木箱に入った『コドリス焼きの素』は、ミストリア劇場の名物として、かなりの勢いで売れていった。
そう…、アルカナとミトラのコラボ商品だ。
そして、木箱に刻まれた6つの魔法属性をかたどった模様は全部で6種類あり、それをコンプリートしようとして必要以上に買っていく客もいるのだった。
…完全に俺の狙い通りだ。
アルカナからは第2弾、第3弾とブレンドを変更した別味バージョンも届けられ、それらも次々に売れて行った。
売上自体は多少減ったが、焼き上げる手間や人手などを考えると凄まじく効率が良い。
それに、コドリスの香草焼きの素は、まだまだいくらでも在庫があった。
そんな劇場の片隅で、再び売れない遺物売りに戻ったロロイが、ニコニコしながらそれを見ているのだった。
そして…
→→→→→
「さぁ! 北の街の大遺跡『トトイ神殿跡地』に出発なのです!!」
ロロイの拳が振り上げられ、声が高らかに響く。
「期待するほどのもんじゃないぞ…」
大遺跡というか…小遺跡というか…。
そもそもあそこは、ほぼ観光地だ。
何度そう言っても瞳をキラキラさせているロロイを先頭に、俺たちの商隊は北に向けて旅立った。
俺の目的は仕入れだ。
西大陸最北の漁師の村、ポッポ村には海獣がよく出没するらしく、そのモンスター素材は様々なものに加工されているらしかった。
腕の良い職人が加工すると、素材が海獣のものだけに水属性関連のスキルなんかがつくこともあるらしい。
貯めた元手で、それら北の村の特産品を仕入れにいくのだ。
これから俺は。
劇場施設として軌道に乗ったミストリア劇場を拠点&資金源としながら、この西大陸全土を股にかけ、様々な商品を取り扱う行商人として、更なる高みを目指す。
妻と、劇場の従業員たちの見送りを受けてお屋敷を旅立ち。
護衛のロロイ、クラリス、バージェスと共にキルケットの外門を通り抜けた。
そして俺は、大商人としての更なる第一歩を踏み出したのだった。
「キルケットの錬金術師編」メインストーリー終了でございます。
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。
内容については、一部なかなかに賛否両論巻き起こっておりましたがw
そもそもが「若干ご都合主義のファンタジー創作」なのでご容赦いただけますと幸いです。
あまりに整合性取れないようなのは、後々修正するかもですが…
作者も基本、なろう小説とかほとんど読んだことのないど素人なので、色々と反省点ありました。
さて今回はアルバスの2人目の妻が出来ました。
やはりアルカナさんの存在感が圧倒的にデカい上。2章のラストからいつのまにかかなり話数が増えてしまっていたので、このまま妻は1人だけの方がいいのかとかかなり悩んだのですが…
もともとのコンセプトが「各地に何人もの妻を持つ大商人」だったので、軌道修正はせずにそのまま突っ走りました。
残るはいつも通り「余談」と「目録」です。
余談は元々「錬金術師」と「ジミーのざまぁ」の2つの予定だったんですが。ジミーのは膨らませてもあまり面白くなかったし、最後まで引っ張るほどのことでもなかったので、縮めてサクッと本文に盛り込んでしまいました。
なので、余談は1つです。
1話目の最初に書いた前書きと違ってしまい、申し訳ないです。




