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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第5章 キルケットオークション編(後編)〜キルケットの錬金術師編〜
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32 特別ゲスト

ウォーレン卿が去った後。

何やら会場の端の方が騒がしくなりはじめた。


少し注視していると、どうやらジミー・ラディアックが付き人を怒鳴りつけて引っ叩いているようだ。


エルフ奴隷がどうとか。逃げ出しただとか。そんな話が聞こえてきて、しばし会場は騒然としていた。


「俺には関係ないな…」


ジミーがどうなろうと知ったこっちゃない。

正式な手続きを踏んで正式に俺のものとなるあのお屋敷について、これ以上何かを仕掛けてくるようならば、自警団でもウォーレン卿でも、なんでも使って追い詰めるだけだ。



→→→→→



「ここで、特別ゲストのご紹介がございます!」


オークショニアが引き続き司会を担当し、ジミー周辺の喧騒を打ち消すように声を上げた。


俺は再びガンドラと合流し、普段食べられないような貴族向けの料理に舌鼓を打っていたところだった。


正直、ゲストとか興味ないし。

それよりも、こっちの酒とか料理とかの方に興味がある。


キルケットや他の町々の一般住民相手に、似たものを安価に作れれば、いい商売になるかもしれない。


ただ、コドリスの香草焼きもどきがあったのには、思わず笑ってしまった。

しかも、アルカナのブレンドの方がはるかに出来がいい。



「はるか中央大陸より、王族がお見えです!」


オークショニアがそんな掛け声を出すと、会場中がざわざわとざわめいた。


キルケット貴族は、貴族とはいえ辺境貴族だ。

そしてそのほとんどが、この数十年の間に(マナ)で貴族の称号を得た、元商人の家系。


(マナ)を持ってはいるが。

王都の貴族とは違って、王族などにはなかなかお目にかかれない低ランクの貴族。

それがキルケット貴族なのだった。


王族というのは。正直言って俺のような一介の商人なんか、言葉を交わすどころか顔を見ることすらも畏れ多いような相手だ。


一応、商売上なにかの役に立つかもしれないので名前くらいは覚えておこうと思って、俺は耳だけを澄ましていた。


「ご紹介いたします! リオラ・ウイ・ノスタルシア殿下でございます!」


「ごふぅっ!」


俺は、飲みかけていた酒を吹き出しそうになった。


思わず壇上を見ると、そこには見知った顔。

ビシッとした服装のアークに誘導され、上等なドレスを纏ったリオラが前へと進み出るところだった。


「キルケット貴族の皆さま。そして商人の方々。ご機嫌麗しゅうございます。今宵は各々に望みのものは手に入れられましたでしょうか? この西大陸の中心地、キルケット中央オークションの歴史は古く、200年も前から脈々と続くものと伺っております」


そう言って、リオラが話し始めた。


これだけの貴族達を前にして一歩も物おじしていない。


まぁ、当たり前だ。

これが、王族であるリオラの本来の姿だ。


支援魔術師として遺跡を駆けずり回るようなのは、仮初めの姿に他ならない。


そしてリオラは、今回の訪問がお忍びであること。そして、1年前から行方しれずとなっている妹のフィーナの行方を追っていることなどを語りだした。


そういった話をはなしきって…

小さく一礼してから、リオラは壇上から降りた。


内容はともかく。

リオラがああいうドレスを纏って、演説をしている姿を見ると。

やはり雲の上の人間なのだと思ってしまう。


本来俺なんかは口をきくことすら恐れ多いような相手だ。


周りの貴族や商人達がリオラの勇気を讃える声をあげる傍ら。


「姫の身分でそんな無謀なことを…」とか、「どうせ護衛を引き連れた遊びのようなものだろう」とか、小馬鹿にしたようにヒソヒソ話をしている連中もいた。


リオラの覚悟を嘲笑っているそいつらは。

リオラとアークが、そのために命を懸けてアース遺跡群の最深層まで潜っていただなんて、夢にも思っていないんだろうな。


そして、喝采を浴びながら壇上から降りたリオラは次の瞬間…


「アルバスさん!!」


と、普通に俺の名前を呼びながら駆け寄ってきた。


「壇上から見えました! 初めは見間違いかと思いましたが…」


周りの貴族、商人達の目が、一斉に俺を向く。


「お、あぁ…」


戸惑いすぎて、変な声が出ちまった。


「まさか、このようなところでお会いできるなんて。もう、本当に何と申し上げて良いか…」


俺は、息を切らして走り寄ってきたリオラが少し落ち着いてから声をかけた。


「リオラ…様も、お変わりないようで」


俺がそう言うと、リオラはちょっと怒ったような顔になった。


「以前も申し上げた通り『様』などとつけないでくでください。あの時のように『リオラ』と呼び捨てになさってください」


そして、くしゃっと顔を歪めた。


「あぁ、本当に、またお会いできるなんて…」


そんなことを言いながら、なんと手まで握ってきた。


王族の未婚の姫君に『あの時のように呼び捨てに…』なんて言われて手を握られてる俺は、周りからいったいどんな風に見られているのか。


もう、想像するだけで恐ろしかった。


変な噂が立って、後で王様に処刑とかされないよな?

アサシンとか送り込まれたりしないよな!?


「なんだあいつ?」

「ただの商人…だよな?」


「だが、ウォーレン卿と品を競り合って、1,400万マナ近い値で競り勝っていた男だぞ」

「では…、相当な豪商ということか」


「姫君と知り合いのようだが!?」

「一体、どういうご関係だ!?」



「まさか、王族とのコネクションを持っているとは…。やはり侮れない男だな…アルバス」


かなり離れたところにいるはずのジルベルトの声が、なぜかはっきりとそう聞こえてきた。


ガンドラも…

「やっぱりアルバスの旦那は、とんでもねぇお方だ! あっしの目に狂いはなかった!」


なんて言いながら、なぜか横で涙を拭っていた。


俺の方が驚いてるよ…



→→→→→



そのまま、リオラとアークに連れられて会場の端に移動した俺は、2人からこの3ヶ月間のことを聞いた。


2人は俺たちと別れた後、西大陸南方の街、サウスミリアに行っていたらしい。


そしてそこでなんと…


「勇者様達に船を売ったという者に会いました。勇者様達はなぜか南の漁師街から船に乗り、王都のある中央大陸を目指したようなのです」


普通に考えたら、中央大陸の西側に位置するこの西大陸から中央大陸に行くには、東の港町セントバールから船を出すのが早い。

というか、中央大陸に向かう船は通常そこからしか出ていない。


ライアン達がなんでそんなことをしたのかは全くわからないが…


「その情報が真実ならば。勇者様達はすでに中央大陸に渡っているという可能性が出てきました」


俺の持つライアンやルシュフェルドのキズナ石も、リオラの持つフィーナのキズナ石も。その光はまだ消えていない。

それは、彼らがまだ存命であることを示していた。


大陸に辿り着けずに海で溺れ死んだのなら、とっくの昔に光は消えているはずだ。


そこで、リオラ達はここで王族の身分を明かし、中央大陸に戻るための船の手配が可能な者を探すことにしたらしい。


王家の紋章入りの証に加え、キルケット貴族の中には王都にて姫君達に商品を紹介したことのある者もいたため、リオラの顔を知っている者がいたそうだ。


ジルベルト・ウォーレンなどもその1人であったとか。


ただ、船での輸送については。

あまり大々的に輸送されると、港で王や王妃の息がかかった兵士に捕まって、王都に連れ戻されてしまう可能性があるため。その辺りを理解してくれる者に頼みたいとも言っていた。


「もし、アルバス様が船をお持ちでしたら…」


「すまない。さすがに船は持ってない」


リオラの中の俺って…

いったいどんなレベルの大商人なんだ!?


「そうですか…」


本気で、俺が船を持っているかもしれないと思っていたのか。リオラは少し沈んでしまった。


だがそこへ、ウォーレン卿が近づいてきた。


「申し訳ございませんがリオラ様。近くで話を聞かせていただいておりました。船は私の方で手配を致しましょう。息のかかった商船で、秘密裏に中央大陸までお連れいたします」


「本当ですか!?」


2人はそのまま打ち合わせに入り始めた。


ジルベルトがリオラにどんな条件を突きつけるのかと思って聞いていたが。

どうやら恩だけを売るつもりのようだった。


無料ただよりも高いものはないとか言うけど。王族との個人的な繋がりというのは、多分それくらいの価値があるのだろう。


俺は、そっと2人のそばを離れて会場を歩き回った。


何人かの商人や貴族に声をかけられ、いくつかの言葉を交わした。


どうやら、オークションでのウォーレン卿との一騎打ちがなかなかに話題になっているらしい。


実際のところ、俺はウォーレン卿に翻弄されただけだったのだが。

『一騎打ち』と『競り勝った』という部分だけがやたらと強調されてしまっていた。


ウォーレン卿は、自分で出品した商品に自分で申し入れをしていたのだから。普通に考えたら俺に勝ってしまってはダメなんだ。


だから普通に考えたら、ウォーレン卿は値段を吊り上げるだけ吊り上げた挙句、あのように競り負けるのが正解なのだ。

だから、誰からどう見ても、見事にしてやられたのは俺の方だった。


だが、白熱した値段の吊り上げ合いに目が行きすぎて、その辺りのことは忘れ去られているようだった。

そしてここでも、ウォーレン卿がしでかした「蔑むべき行為」についてはオールスルーだ。なかなかに腹が立つ。

ただ、代わりに俺のアルミナスの件も、相殺されて帳消しになってるっぽいからよしとするか…



そしてそんな折。


俺はふと、会場の出入り口付近で俺の方をじっと見つめている女に気がついた。


その女は、アマランシアだった。


「アマランシア…」


俺は、彼女にキチンと礼を言わねばならない。

そう思い。俺はゆっくりとアマランシアへと近づいていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い
[気になる点] リオラとフィーナの存在を完全に忘れてた そういえば姫の知り合いなんていたな [一言] 感想欄でいろいろ言われてるけどそれだけみんな興味を持って読んでるってことだと思うので折れずに続けて…
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