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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第5章 キルケットオークション編(後編)〜キルケットの錬金術師編〜
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30 晩餐会①

俺は数分後に目を覚ました。


「ガンドラ…」


「旦那、目が覚めましたか」


「悪かった…気絶するとは情けない」


ここ数ヶ月分の疲労が一気に襲ってきたような感じだ。

頭がガンガンして身体はもうヘトヘトだった。


息をするのさえ苦しく感じる。


そしてオークションはまだまだ続いていた。

ウォーレン卿はピンピンしながら、今度は魔剣か何かの競りに参加していた。


そして、俺はガンドラに。

何度も何度も、俺がちゃんと離れ屋敷を買えていたことを確認した。


夢じゃないよな!

あれ、現実だよな!


本当に、今でも。

夢でも見ていたんじゃないかって思えてくる。


たった1年前。


ライアンに手渡された5万マナから始まった商人としての俺。


その俺が、つい先程。

キルケット中央オークションに参加して、1,400万マナに近い額で望みの商品を競り落としたのだ。


あの当時の俺に。

『たった1年後にそんなことが起きる』なんて話をしても、たぶん絶対に信じないんだろうな。



→→→→→



そして全ての品のオークションが終了した。


時刻はすでに夜半過ぎ。


「では、ここからは恒例の晩餐会とさせていただきます」


オークショニアが恭しくお辞儀をして下がり、会場はざわざわとざわめき出した。


「晩餐会か…たしかに腹が減ったな」


「この晩餐会は、オークションの延長みたいなものですじゃ」


「どういうことだ?」


ガンドラによると、オークション本部に預けていたマナが足りなくなったりして、欲しいものを競り落とせなかった者達が、別口で交渉を持ちかけあったりするらしい。


そういう意味で「オークションの延長戦」と位置付けている貴族や商人もいるという話だ。


そして、会場を移して晩餐会が始まるや否や、何人かの商人が俺の方に近づいてきた。


「遺物商人のアルバス殿ですな」


俺は誰に何と言われようが、あの屋敷を売る気はない。


聖拳アルミナスも、こうなった以上ロロイに装備させて護衛の戦力強化に使うのが良い。


残念ながら、彼らに売れるものはない。

そう思い、俺は身構えた。


「出品した3つの他に、スキルのついた遺物などはお持ちではないですか? 内容によっては、是非買い取らせていただきたい」


だが、商人達の興味はそれらではなかったらしい。


「なるほど、そういうことなら…」


願ったり叶ったりだ。


俺が会場の端で簡易な露店台を出して露店を開くと、他にも何人かの商人が集まってきた。

そして、俺の余り物の遺物をその場で何点も買っていった。


見れば、会場のあちこちで同じような光景が繰り広げられているようだった。


せっかくなので儲けるつもりだったが。

流石はキルケットオークションに参加するほどの商人達だ。


各スキルタイプ毎にしっかり相場を見極められ、きっちりと値切り交渉をされた。


また、荷馬車行商広場での販売と違って、相手は冒険者ではなく商人だ。

自分で使うのではなく、俺から仕入れて他で売るつもりなので、やはり末端の相場よりも低い値段で交渉してきていた。


俺としても、今は全く手持ちがなくなってしまった状態な上。

今、手元にある遺物はこれまでに買い手の付かなかった売れ残りたちなので、多少の値引きは許容して売り切ってしまうことにした。


しめて62万マナなり。


まぁ、悪くない。


そんな感じで商売をしている俺に、1人の大柄な男が近づいてきた。


一際豪華な衣装を着て、以前見た時と同じく2人のお供を左右に連れている。

その男の出現に、俺は思わず身構えてしまった。


「ウォーレン卿…」


ミトラとクラリスの兄であり。離れ屋敷をオークションに出品して今回の件の発端を作ったその男は、満足そうな笑みを浮かべながら俺の前に立った。


「悪くない商談だっだぞ、アルバス。まさか初期資金を500万マナ以上も用意してくるとはな」


「俺は追い詰められすぎて、ずっと吐き気がしてたけどな…」


俺がそう応じると。

ウォーレン卿はニヤリと口元を歪めた。


…ムカつくやつだ。


そして1番ムカつくのは、俺がやったときには大バッシングを受けた「自分の商品への申し入れ」が、大貴族様がやったときにはみんなして綺麗にスルーだったってことだ。


「……」


でもまぁ、世の中そんなもんか。


自分もそうなりたければ、圧倒的な(マナ)や権力を手に入れるしかない。

俺とウォーレン卿とでは、手にしているそれらの量が比較にならないほど違うから、当然と言えば当然につけられた対応の差なのだろう。



「ところであんた、何で俺の手持ちがわかったんだ?」


そして俺は。それが、ずっと疑問だった。


ウォーレン卿との競り合いで。

俺は、端数の7,000マナまできっちり。完全に手持ちを吐き出させられたのだ。


「わかるわけないだろう? だからアルバスよ。答え合わせをさせてくれ」


「?」


「お前は最後、いくら残した?」


「…ゼロだ」


俺がそう答えると。ウォーレン卿はさも楽しそう笑い出した。


「そうか! ゼロか! 本当にゼロだったのか!? もしあそこでもう一声出していたらと思い、今、背筋が凍ったぞ」


「……」


わかっててやっていたのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。


「だとしたら。あんた、なんであそこまで攻め切れた?」


一歩間違えれば、無駄に1千万マナを超えるマナを失っていたところなのだ。

これが勘や読みの類ならば、あまりにもぶっ飛んだギャンブラーだ。


「ただの勘だ」


ウォーレン卿はそう答えた。


マジで勘なのかよ…


「ただし、これまでに何度もオークションで読み合ってきた。その経験に基づく…な」


「だとしても、最後の最後の端数まで追い詰めることはないだろ?」


「1マナを軽んずる者はやがて、1マナに泣く。俺は取れるものばギリギリまで取る。販売が終了した3品の収益から、お前の手持ちに端数の7,000マナがあることだけは確実にわかっていた」


「あっ…」


俺が売った3品のうち、ガロン卿シリーズが93万マナで売れていた。

そのうちの1割がオークション本部に行くため、俺の収益は83.7万マナ。

そして他の2つの商品の売買では、端数はでていない。


さらに、初めにオークション本部に預け入れできるマナは1万マナ単位だから…


つまりは俺の手持ちに7,000マナの端数があることは、俺の品物の販売額を計算していればわかることだったというわけだ。


あの状況で。

数百人の参加者がひしめくオークションの最中に、俺の手持ち額を端数まで計算した上で、読み合いを仕掛けてきていたということか…


「あとは口調、呼吸、立ち振る舞い。ありとあらゆる情報から、相手の経済状況を割り出す」


「全部ひっくるめて、まんまとしてやられたというわけか」


商人としての格が違う。

わかっていたことだが、読み合いに関してはなるべくしてなった俺の完敗という結果だった。


今になって思い返せば、ウォーレン卿を出し抜くポイントはいくつもあったように思う。


例えば、俺が最初に手持ちが尽きたと宣言した時。俺の「1324万マナ」に対し、ウォーレン卿は「1324.5万マナ」を宣言した。


あそこで俺が「1324.7万マナ」を被せていれば、おそらくはそこで終わっていたのだろう。

端数を超えて「1328万マナ」を宣言することで、俺はウォーレン卿に、自らの嘘をバラす形になっていた。

それは、俺の読み合いにおける反省点だった。


「どうしたアルバス。後悔でもしているのか?」


「いや、全然」


「ほう?」


ウォーレン卿が少し驚いたように唸った。


「それはなぜだ?」


「いくら出してでも買いたいと思っていたものを、結果的に手持ちの額のマナで買えた。それを後悔なんてするはずないだろ。あんたにしてやられたのは悔しいが、それはまた別の話だ」


そう。

どんな経過を辿ろうと、俺は目的を果たした。

今はそれに勝るものはない。


読み合いに関する反省点は精査すべきだが。

『もっと安く買えたかも』などといって後悔だけをすることに意味はない。



そして…

実際のところ。

あの屋敷は既に、ただのだだっ広いだけのお屋敷ではない。


オークション開始前の2ヶ月間。

俺は、あの屋敷の庭を用いた劇場公演で、70万マナもの大金を稼ぎ出していた。

夕方の2公演のみで、だ。


これに本腰を入れて取り組み、1日6公演まで増やした場合。

1ヶ月にあの劇場が稼ぎ出すマナは100万マナ程度と見込まれる。そして公演日程を日中に移せば、当然キルケット西地区以外の住民や、行商人なども呼び込め。更なる規模の拡大も見込める。


俺が先程、あのお屋敷を買うのに使った1400万マナという大金も。これならば1年余りで元が取れる試算だった。


先行投資として、なんの問題もない。


「俺は、何も後悔なんかしてないさ」


そう言って俺がニヤっと笑ってやると。

ウォーレン卿はさらに少しばかり口元を歪めていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そもそも少額の吊り上げは可能なの? 最低額は決まってなくても吊り上げ額は一定だったりしないの?
[良い点] オークション編に入るまで [気になる点] 美味しいものが毎日でも売れるのも 心地よい湯が連日満員なのもわかりますが、 一人の歌姫に依存し、非日常の世界である劇場に継続的に人が入る根拠はどこ…
[一言] 話の展開やキャラの性格付けについては作者は神なので好きにすればいいと思うけど歌い手の喉は消耗品だから連日歌い続けてると喉潰すよ 毎日回復薬を飲ませれば平気かもw
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