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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第5章 キルケットオークション編(後編)〜キルケットの錬金術師編〜
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27 キルケット中央オークション③

「…93万マナ。他にございませんか? では、決定とさせていただきます」


俺の願いとは裏腹に…


「商人アルバス様の出品『古代の公爵ガロン卿の装備品武具の数々』は、23番札のクドドリン卿が93万マナで落札されました! おめでとうございます


俺の1品目の品物である。

『古代の公爵ガロン卿の装備品武具の数々』

は…


見込んでいた200万マナを大きく下回る93万マナで落札されてしまった。


そこから1割を引いた83.7万マナが、俺の所持マナとして増える。

だから、今の俺の手持ちは、545+83.7=628.7万マナだ。


「くっ…」


ふざけるな。


こんなことがあってたまるか。


「ちょっと待て! 今の品物は歴史書にも名が残る古代の公爵『ガロン卿』の武具だぞ」


俺は思わず立ち上がり、そう叫んだ。


「それが100万マナを下回るだと!?」


力の限り叫ぶ俺に、オークショニアは困ったような顔をしていた。


「申し訳ございませんが。これは正式なオークションのルールに則って値決めがなされたものですので…」


「くっ…」


吐き気が襲ってきて、少しよろめいた。


そんな俺に追い打ちをかけるように、方々の貴族からヤジが飛んでくる。


「見苦しいぞ商人!」


「自分の品を過大評価していたのか?」


「品物の価値はお前が決めるものではない」


「それは、我々が決める」


俺は、それ以上何も言えなくなってしまった。


相場はあくまでも相場。

見込みはあくまでも見込み。


甘かったといえば、そうとしか言いようがない。


その額を出してでも欲しいという相手がいなければ、売買は成り立たない。



うなだれる俺を無視して、オークションは俺の2品目の商品『聖拳アルミナス(遠隔攻撃・風/打)』へと移っていった。


武器に付く戦闘用のスキルとしては最高峰のものの1つである「遠隔攻撃」のスキルがついた最高級の武器は…

135万マナで、ウォーレン卿によって落札されそうになっていた。


それでも売れれば、手持ちは750万マナを超えるだろう。

だが、ここでそんな見込み違いをしてしまっていては、ジミー・ラディアックとの競り合いに向けて、この先が危うすぎる。


この調子では、次のグリルシリーズもどうなるか知れたもんじゃない。

このままでは、900万マナ程度の手持ちで、本命のお屋敷の競売に臨むことになるかもしれない。


このままじゃダメだ!

少しでも、もっと高額で競り合う流れを作らなくては…


「150万マナだ!」


俺は、そう声を張り上げた。


「76番札、商人アルバス様から150万マナ!? って……なんと!!ご自分の商品をご自分で!?」


オークショニアが困惑の声を上げた。


「そうしてはならないと言う規定はなかったはずだ」


そう。

そういう規定はない。


だが、それをやる者はまずいない。


なぜなら、自分の品を自分で競り落としてしまった場合には、ペナルティとしてオークション運営本部に購入金の9割のマナが持っていかれるからだ。


そしてそれ以上に。

その行為は詐欺に等しく、蔑むべき行為だとされているらしかった。


自らも参加して金額を吊り上げようとすることや、一度出品した品を買い戻そうとする行為が可能である反面、その代償は相当にデカい。

マナと共に、信用すらも失いかねない。


ちなみに、最低落札価格の設定などもない。

『自信のある品だけを出品する』という理念のもと『そんな保険をかけなくてはならないようなものは出品するな』ということらしい。

それもまた、今は主に買う側である貴族たちにとって都合がいいだけのルールだった。


なんにせよ俺は。

あまりにも焦っていたので、自ら聖拳アルミナスの競りに参加してしまっていた。


これでなんとか。

少しでも値段が吊り上げられれば、と…そう考えていた。


「76番のアルバス様から150万マナ。さぁ、他にはございませんか…?」


そして。


そんな俺の行為に対し…


ウォーレン卿を初めそのほかの貴族や商人たちは、それ以上競り合ってこなかった。


「なっ…」


これはまずい。

本当にまずすぎる。


「では、『聖拳アルミナス(遠隔攻撃・風/打)』は、商人アルバス様が自ら150万マナで落札されました」


そしてそのまま、本当に俺が落札してしまった。


「なお、規定によりアルバス様は支払い金額150万マナに対し、取得金額は1割の15万マナ。差し引き135万マナのマイナスとなります」


わざとらしく俺の損失額を告げるオークショニア。

周りの貴族達や商人達から、失笑が起きた。


自らの商品の競りに自ら参加し、値段を吊り上げようとした愚か者の末路。


禁止されてはいないが、蔑むべきとされるその行為を行い。その挙句に130万を超えるマナを失った、哀れで間抜けな弱小商人。


「くっ…そぉ…」


「旦那…」


隣では、ガンドラが苦虫を噛む潰したような顔で俺を見ていた。


「まだ、次がありますぜ…」


「…わかってる」


お互いに、それが何の慰めにもならないことはわかっていた。


これで俺の手持ちは、493.7万マナまで下がってしまっていた。


もはや俺には、絶望感しかない。


それでも。


俺がそんな状態でもオークションは続いていく。


次は俺の最後の商品。

『大商人グリルの手紙と、グリルが妻サリィに贈った宝飾品の数々』だ。


350万マナは下らないと見込んでいたこの商品も。

やはりなかなか値段は吊り上がらず、250万マナ程度のところで止まりかけていた。


数字上、他の2つよりも健闘しているとは言え、やはり見込みよりもはるかに安い。


やはり、トレジャーハントの成功で俺が舞い上がりすぎていたということか?

この程度の珍品は、貴族たちにとっては、毎年のようにお目にかかっているものの一つに過ぎないということなのか?


「くっ…うぅっ…」


それにしても、先程の失態が痛すぎる。


このままでは750万マナにも手持ちが届かない状態でお屋敷の競売に望まなくてはならなくなる。

そうなればもう、可能性はほぼ潰えたようなものだ。


聖拳アルミナス。

それをあそこで135万マナで妥協して売っておけば、手持ちは今よりも250万マナほど多かったはずだった。


完全に俺の失態だ。


この数ヶ月のみんなの思いを。最後の最後で俺がぶち壊してしまった。


俺が焦って判断を誤ったせいだ。


俺は、目の前の成り行きを呆然と眺めていた。


このまま。

ジミーの手持ちが思ったよりも少ないというわずかな可能性に、全ての望みを賭けるしかないのだろうか…


なにか…

少しでも他にできることはないのだろうか…



→→→→→



「1番ウォーレン卿の252万マナ。他にございませんか?」


「待てっ!」


俺は、再び声を上げた。


少しでも…、何か足掻けることはないか?

何でもいいから、何か糸口を掴みたい。


「それは、大商人グリルの行商行脚の、その第5章に唄われる伝説の品だ!? たしかに、その章は他の章に比べると知名度は低いかもしれないが、その価値は十分に…」


絞り出すようにして、俺は少しでもその商品の価値を伝えようとした。


だが…


「他には、ございませんね?」


そんな俺の言葉を遮り。

有無を言わさぬ口調でオークショニアがオークションを進行していく。


「ま…」


待て!


待ってくれ!


「ございませんようなので、それでは…」


そう言って、オークショニアがウォーレン卿の落札を宣言しようとした。


その時…


突然…


プツン、と会場の明かりが消えた。


「何が起きた!?」


「照明係のエルフは何をしている!?」


「衛兵!? すぐに対処を!?」


ざわざわとざわめく貴族や商人達。


そんな中。

壇上の一部だけが、ぽっかりと丸い明かりに照らし出された。


そして…


「あら。何やら変なタイミングで合図がきましたが……私の出番ということでよろしいのでしょうか?」


そんなことを言いながら、そのあかりの中に1人の吟遊詩人が進み出てくる。


「ええと、なにやら手違いがあったようですが。出てきてしまったので、このまま唄わせて頂きますね」


その吟遊詩人は、オークショニアが何かを言いかける前にどんどんと話を進めていく。


その、踊り子のような衣装を纏い。


浅黒い肌をした女は、アマランシア。


本来ならばもう10品目ほど競売が済んだ後に、オークションの間で余興公演を行うはずだった。


吟遊詩人のアマランシアだった。

オークションのシステムについては、色々とツッコミどころあるかもしれないですが。

この街ではそういうもんだと思っていただけると助かりますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] ガバガバ素人オークション
[一言] ぶっちゃけオークション部分のアルバスの価格の釣り上げ行為は消した方がいいのではないかと思います オークション自体の質も「あの悪名高きキルケットオークション」とか言われても仕方ない分類ですし、…
[一言] やりたい放題できるシステムに手出すとどうなるのかを教えてくれるから凄い勉強になるな 馬鹿が馬鹿を見るってのが凄い伝わるから気を付けよう
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