25 キルケット中央オークション①
遺物が安すぎるという声がありましたので。
オークション出品遺物の、アルバス見込み額を少し修正いたしました。
実際にいくらで売れるのかはお楽しみということで…
これ以上計算やり直すのは大変なので、もうこのままにする予定です!w
ところで、ちゃんと売れるのでしょうかね?
一筋縄ではいかない気がします。
オークション当日。
俺は朝早くからガンドラと、キルケットの内門の前で落ち合った。
オークションの開始は午後からだが、出品やマナの預け入れなど、事前にやることが沢山ある。
外門よりもさらに高く分厚い鉄の扉の前で。
ガンドラと俺の持つ許可証をそれぞれ門番に見せて手続きを進めた。
ここを通過できるのは、通行許可証を持った者だけだ。
すでに内門の中にいる貴族の付き人ならともかく。外から来る商人の護衛は、この門までしかついてくることができない。
内門の中…キルケット中央地区に眠る、何億マナという貴族達の資産を守るためなのだろうが。
商人にとっては、何があっても自分1人で対処しなくてはならないという、とんでもない話だ。
だが、それがこのキルケットのルールだった。
貴族たちが出資している中央地区の自警団もいるが。そいつらが守るのは主に貴族なのだろう。
とりあえず、ガンドラが一緒なことだけは心強かった。
→→→→→
そして、俺たちが今日までに用意できたマナは…
発起時点で、遺物売買などで既に手元にあった325万マナ。
そこからの商売で手にしたマナとして、広場でのコドリス焼きの店で約40万マナと、遺物販売での約110万マナ。
そして、劇場での飲食や人形販売を含めた全ての商売で得た収益で、約70万マナ
その合計は545万マナだ。
遺物は、やはり品揃えが悪くなるにつれて売れ行きが下がっていき、高めに見込んでいた150万マナには及ばない状況だった。
冒険者がスキル付きの高額武具を買う主な目的は『戦力強化』なのだから、自分自身のスキルや戦術にマッチするものがなければ購入することはない。
彼らにとってスキル付きの武具は貴重な武具であり、決してただのコレクションではないのだ。
やはり遺物の売れ行きが下がってきたので、劇場を開いておいて本当によかった。
「だがやはり、1番の鍵は当日のオークションでの売上だな」
内門通過のための手続きを進めながら、見送りに来た仲間達の前でそう呟いた。
「頼むぞ、アルバス!」
クラリスが大声で俺にプレッシャーをかけてくる。
クラリスからの期待が痛い。
緊張で息が苦しくなりそうだ。
「アルバス、緊張してるのですか?」
そう言って、ロロイが俺の顔を覗き込んできた。
「こいつがそんなタマか? 素手じゃゴブリンにすら勝てないくせに、遺跡の地下迷宮を平然と走り回るような肝の座った男だぞ」
バージェスがガシガシと背中を叩いてくる。
それとこれとは違うんだよ。
勇者パーティで冒険者をしていた頃から、いつ死んでもおかしくないかもと思って生きてきた。
だから冒険の中で、いつか死が訪れるかもしれないという覚悟はとっくにできているつもりだった。
でも。
今日失敗したら…
この2ヶ月間、仲間の期待に応えようとして必死になってきて。
結果それがダメだったら…
それでも俺は生きていかなくちゃならない。
どんな顔して皆に報告すればいいかわからない。
「ふぅ…」
「なんだ? ロロイちゃんのいうように、本当に緊張してるのか?」
「あぁ、失敗したらみんなに合わせる顔ないなって思ってた」
「その時はその時だ。手元に600万マナもありゃ、どうとでもなるだろーよ。みんなで引っ越すなりなんなり。冒険と違って、負けても命までとられるわけじゃねーんだからよ」
「…たしかにな」
本当にその通りだ。
バージェスに気付かされるとは、なんたる不覚。
つまりは俺が一番恐れているのは、仲間の信頼と期待に応えられず、自分自身の決めたことも達成できないかもしれないってことだ。
ようはプレッシャーを受けてビビってたわけだ。
いっそ、敗北したらそれで全てが終わりになってしまう冒険の方が、気が楽だなんて思ってた。
どう考えても、そんなはずないのにな。
「バージェスのお陰で少し気が楽になった」
運を天に任せる部分が多いとは言え、やれるだけのことはやる。
そして今日までそうしてきた。
ダメだったらダメだったで、次の一手を考える。
たしかに、生きてりゃなんとでもなる。
だが、初めから負けるつもりなんてどこにもなかった。
自分でやると決めたからには、やってやる。
だから今は…
「絶対に競り勝つぞ」
それだけに全神経を集中しよう。
俺の歩みに、もう迷いはなかった。
俺は、仲間達に視線を向けて頷き合った後。
ガンドラと共にキルケットの分厚い内門をくぐり抜けた。
→→→→→
内門から会場までは、30分ほど歩いた先だった。
どちらかと言うと東の方にあるので。
西側の内門から中に入った俺たちは、かなりの距離を歩かされた。
その途中の各所で、鎖に繋がれた鉄球を引き摺りながら、街灯の手入れなどをしているエルフの奴隷を見かけた。
内門の外ではほとんど見かけることのないエルフの奴隷も。ここでは頻繁に目につき、貴族たちの日常に役立つ歯車の一つとなっているようだった。
「エルフだから奴隷だなんて、馬鹿げた話だ…」
貴族たちの横暴。
そんな言葉が浮かんだが、俺にはそれをどうにかするような力はない。
「あっしらには、馴染みがなくてよくわからない話ですがね…」
ガンドラがそう応じてきた。
キルケットの一般住民にとっても、エルフ奴隷などはそのくらいの感覚なのだろう。
「まぁ、財力のあるものの道楽の一種。なのだろうな」
腹立たしいがどうにもならない。
俺が凄まじい額のマナを稼いで、この街の全ての奴隷を買い取るような財力を持てればなんとかできるのかもしれないが…
貴族でもなんでもない一商人には、夢のような話でしかない。
→→→→→
そして、ガンドラと俺は会場へとたどり着いた。
その建物は、巨大な半球状の建物だった。
ぐるりと周囲を回ってみたが、かなり巨大。
そして入り口から入場して、長い廊下を抜けた先にある会場は、そこもかなりの広さの劇場ホールだ。
会場のそこかしこには、屈強そうな警備の者が控えていた。
「しばらくは、ここで色々と手続きがありやす。あっちでマナを預けて、あっちで出品商品を預けるっちゅう流れです」
ガンドラに促されてみやると、すでに会場の端の方で商人達が長蛇の列を成していた。
「これに並ぶのか?」
「昼の規定時間までに間に合わないと、出品は取り消し扱いになっちまいますぜ」
「はぁ…、並んでくる」
どうせ貴族達は、あんな列には並ばずに済むようになっているのだろう。
頭にくるが、特権階級というのはそういうものだ。
→→→→→
そして夕刻。
すでに日は傾きかけていて、建物内はかなり薄暗くなってきていた。
そして、ある時間を境に、支援魔術の一種である「照明点火」により、会場は煌々と照らし出されはじめた。
どうやら、何名かで分担して照明点火を使い、巨大なドーム状の会場全体を明るく照らしているようだった。
天井に近い場所の足場に、チラリと銀髪の人影が見えたから。きっとそんなところにも奴隷のエルフが使われているのだろう。
胸糞悪い。
ふと、ある光景が頭をよぎった。
かつて勇者ライアンのパーティにいた頃、中央大陸のある都市で見た光景だ。
そこでは、奴隷エルフが獣使いの操る魔獣と戦わされて、その勝敗が賭け事の対象とされていた。
魔獣に喰い散らかされるエルフたちや、反対にエルフにやられて断末魔の悲鳴をあげる魔獣を見て、なぜか観客たちは笑っていた。
賭けに負けた奴らでさえ、それを見て楽しそうに笑っていたのだ。
そして余談だが。
その時。
結果的にという話だが、ライアンのパーティはそれらのエルフ奴隷の解放を行った。
白魔術師ギルドからの使者の前で思い切り偽善ぶる白魔術師のジオリーヌと、珍しくそれに同調した黒魔術師のルシュフェルドに、ライアンが焚きつけられた形だった。
結果。
ライアンが無茶苦茶な作戦をたてて、元々の討伐対象だった土魔龍ドドドラスを闘技場会場にまで呼び込んだ挙句。
戦闘でそこをメチャクチャに破壊して奴隷エルフたちを解放していた。
流れでそれなりの数の死者が出ていたのを全く気にしていないあたりが、ライアンがクソ野郎たる所以だろう。
ただ、ライアンの本当の狙いはそれをネタにして高飛車で気位の高いジオリーヌに結婚を迫ることだったから。それ以外のことはどうでもよかったっぽい。
『俺は、惚れた女のためならここまでのことが出来る!』っていうのを見せつけたかっただけみたいだ。
結果的に『突如街中に現れた土魔龍を、話題の精鋭パーティが討伐した』って話で、手柄だけごっそり掻っ攫っていた。
「……」
ついつい思い出に耽ってしまったが、今それは関係の無い話だ。
エルフ達には悪いが。この街の奴隷エルフについて、今の俺にできることは何もなかった。




