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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第5章 キルケットオークション編(後編)〜キルケットの錬金術師編〜
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23 手遊びの成果

翌日、俺は早速ミトラに『勇者』と『魔術師』と『荷物持ちの商人』の木人形の作製をお願いした。


どう考えても数日間はかかると思っていたのだが。その日の夕方には10体×3種類の木人形が出来上がってきていて、かなり驚いた。


今度は細工はそこまで上等にはしなくて良いと、少しデフォルメされたような仕様を頼んだのだが…

実物はやはりかなり上等なものに仕上がっていた。


そんなものを30体。

半日で作りあげるというのは、たとえ普通の職人であってもありえないような速さだ。


盲目のミトラが、一体どうやってそんな神業をやってのけているのかと聞いたら。


「風の魔術を使って、木を削っています」


とのことだった。


俺の知る風魔術は、他の全ての基礎魔術を凌駕して喰らい尽くす、最高に荒々しいものだ。

周囲の地面や建物を抉り取りながら弾けて行った、以前ロロイが放った風属性の遠隔攻撃などがまさにそのイメージするところだ。


繊細な木人形細工作りに風魔術を使うなど、聞いたこともない。


やって見せて欲しいと頼んだが、ミトラはそれはできないという。


「母から教わった、秘密の技術ですので」


「そうか…」


ならば、別に無理強いするようなことでもない。


「魔術の使いすぎで疲れてはいないか?」


「多少は…。ただ、アマランシア様は非常に唄が上手く、聞いているうちにどんどん想像が膨らんできておりました。だからわたくしも、新たに膨らんだイメージを木人形(かたち)にしたくて仕方がない気持ちになっておりましたので…」


そしてミトラは、改めて俺に向き直った。


わたくしの作った木人形が、本当に売れたのですね…。そんなことはあり得ないと…わたくしの手遊びなどにはなんの価値もないと…、そう思っておりましたが…」


「あぁ、ちゃんと売れると言ったろう?」


「えぇ…。アルバス様は、言ったことを本当にしてしまうのですね」


「まぁな」


正直言って、かなりヒヤヒヤしていたのだが。うまく行った後なら何とでも言える。


わたくしは今でも、とても信じられないような気持ちです」


そう言って、ミトラは俯き加減になって、上向きに開いた自分の手のひらに、ずっと顔を向けていた。



→→→→→



また、『断崖の姫君』以外の唄を聞いたことがなかったというミトラは、昨晩の勇者の逸話が大層気に入ったそうだ。


「多くの方は、力強い勇者様や賢い大魔術師様がお好みなのでしょうけれど。わたくしは…戦うことのできない荷物持ちの方が、それでも必死にパーティのために尽くそうとしているところに、痛く感動をいたしました」


そう言われて、改めて人形を見ると『荷物持ちの商人』が、心なしか一番手がこんだ作りになっているような気がした。


「最強の戦闘メンバーが集っていたと言われる勇者様のパーティにも、そのように戦えない人物がいて。その方もまた、仲間のためにとキチンとそのお役目を果たしているのですから、わたくしのようなものにとっては、それが希望の光のようにも思えました」


なんか気恥ずかしかったが。

そのあたりは、アマランシアが上手く唄ってくれているからこそだろう。


実物は『役立たずだ』と言われて、その後パーティを追放されているんだけどな。


俺はミトラに改めて礼を言って、30体の人形を自身の倉庫に収納し、部屋を出た。


俺の認識に基づき、

『勇者ライアンの人形』×10

『黒魔術師ルシュフェルドの人形』×10

『荷物持ち商人アルバスの人形』×10

の3項目が、俺の倉庫のインベントリーに追加された。



→→→→→



そしてミストリア劇場は、それからも連日満席が続いた。

客の数に合わせて多少席の数を増やしたり、時間別に一番混む店の手助けに入ったりなど、俺たちは連日対応に追われていた。


アマランシアの演目は『断崖の姫君』や『勇者ライアンの風魔龍討伐譚』だけにとどまらず、日々様々に変化した。


そしてミトラは、いつも屋敷の入り口あたりで静かにそれに耳を傾けていた。

ここ最近は、シンリィが付き添ったりもしてくれているようだ。


ミトラの人形は日を追うごとに種類が増えていき、日々かなりの数が売れていく。


それにはクラリスも、ミトラ自身も驚愕していた。


以前、クラリスが道端で売ろうとした時には見向きもされなかった木人形が。その時よりも高値な価格設定にも関わらず、それこそ飛ぶような勢いで売れていくのだ。


俺の劇場(仕掛け)は、しっかりと、思った通りの役割を果たしてくれていた。


そしてバージェスたちも。

昼夜のダブルワークで疲労感がかなり蓄積されているようだったが。誰からも不満が出ることはなく、必死に働いてくれていた。


バージェスは、クラリスやロロイに声をかけながら、彼女らの体力管理もしているようだった。

元々の戦闘パーティでも、年長者としてそういった役割を担っていたのだろう。現場のメンバーの体力の管理は、バージェスに任せておけば問題なさそうだ。


ロロイはスキルのスタミナは桁外れに低いが、こう言う普通の体力はめちゃくちゃにあった。


だがクラリスは、元々そこまで体力のある方でもないので、なかなかにキツそうだ。

比較的器用なので自分でも力の出し入れをコントロールしながら上手く回しているようだったが、やはり慣れない客商売での長期戦となると、少しずつ消耗しているようだった。

そんなクラリスの分を、ロロイとバージェスがうまくカバーしながら色々な作業に当たってくれている。


みんな、少しずつ蓄積されていく疲労感に苛まれながらも。日々増えていくマナを見て、オークションに向けての期待感がどんどん膨らんでいくのを感じていた。

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