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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第5章 キルケットオークション編(後編)〜キルケットの錬金術師編〜
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21 集客の施策①

「ありがとう。あまり人が集まらなくて申し訳なかった」


俺は、公演を終えたアマランシアに10人分の入場料「50マナ×10人=500マナ」から、約束の1/5である100マナを手渡した。


「こちらは俺からだ」


そしてそこに、100マナを追加する。


計200マナだ。

アマランシアが普通に道端で1回唄う分と比べても、おそらくは少ないだろう。


「あまりお気遣いなさらないでください。私も楽しく唄えましたので…」


「そういうわけにはいかないだろう」


「話に乗ったからには、最後まで付き合いますよ。明日からに、期待しています」


そう言って、アマランシアは本当に100マナを俺に返してきた。


実を言うと…


初日がこんな感じの集客になってしまったので、劇場の案自体を考え直す必要があると思っていた。


今からでも全く別の商売を考えるべきなんじゃないかと、色々考えていたのだが…

アマランシアのこの言葉で、すこし前向きになれた。


「ああ、やれるだけのことはやろう」



→→→→→



そして俺は、ひたすら悩んでいた。


皆が寝静まった後の食堂で、一人でうんうん唸りながら歩き回っている。


元々この劇場は、精巧なミトラの木人形を売るための仕掛けの一部のつもりだった。

だから、呼び込む客は大人のみを想定していた。


それで荷馬車広場に集まる客に声をかけまくったのだが…


結局、それでは劇場の客は集まらなかった。


「どこが悪かったのだろう?」


色々と考えを整理してみると、何もかもが悪かったようにしか思えない。


宣伝した場所と相手、そして開催場所と開催時間が悪かった。


…だから、ほぼ全てだ。


「じゃあ…どうすればいいんだ?」


自分が失敗を犯しているのは明白だったが、どうすれば改善されるのかはなかなか浮かばなかった。


そんな折。


「まだ、起きていらっしゃるのですか?」


そう、後ろから声をかけられた。


「ミトラか…」


「はい」


気配もなく、ミトラがそこに立っていた。


「何かお困りごとですか?」


「今日は、劇場に客も集まらなかったし、人形も売れなかった。それを、なんとかしたい」


「やはり、売れませんよね」


すこし、投げやりな感じでミトラがそう言った。


「なに?」


「所詮は小娘の手遊びです。そんな物が価値を生むなど、本来はあり得ない話でしょう? 以前にクラリスも、あの木の人形を売ろうとしたことがありましたが、結果は酷いものでした」


「クラリスの話は聞いているが。…そんなことはない」


「そうでしょうか?」


「ああ。あの人形の出来は素晴らしいと思う。物によっては、人形の持つ武器の柄や盾の裏にまで装飾が施されている。凄まじい程の細かさだ」


そんな場所を、どうやって削っているのかと疑問符が浮かぶほどの手の込んだ作りだ。


「でも、やはり売れなかったのでしょう?」


だが、ミトラの言う通り。

俺が売ろうとしてもがいた結果も、今のところは惨敗だった。


「俺が、売ってみせる」


「……」


「俺は『売れる』と思ったから、あの人形を仕入れると決めた。元手がかかろうがなかろうが、簡単に諦めてたまるか!」


ミトラはそれ以上何も言わず。

少し困ったように口元を歪めて、去っていった。


誰がなんと言おうが、俺が商人として『仕入れて売る』と決めたのだ。

数日試して結果が出なくても、手を引くのはまだ早い。


明らかに、俺が何かを失敗しているのだ。


アマランシアに焚き付けられたように、このまま劇場を続けるのが1番良いのかどうかはまだわからない。

だが、何かしら方法はあるはずだ。



→→→→→



翌日。


一晩中知恵を絞り、必死に状況を整理し続けて。

少しずつ考えがまとまってきた。


そして俺は、今日からは集客のターゲットを変えることにした。


一昨日ほとんど寝ていないにも関わらず。

昨日ミトラと話した後もさらに夜中まで起きつづけて、必死に考えをまとめていた。


悪かったと思われる点は、

宣伝した場所と相手、そして開催場所と、開催時間だ。


だが、そのそれぞれというより、その組み合わせに問題があったように思う。


俺たちが主に客を募るために宣伝を行っていたのは、荷馬車広場だ。

そして、荷馬車広場に集う商人と客は、たいていはキルケットの住民ではない。


荷馬車広場に集う商人や客は、広場の営業時間が終われば、たいていは外門近くの宿屋街の方に引き上げていく。


そして外門近くの宿屋街は、内門近くのミトラのお屋敷やキルケット住人の住居のある区画とは、広場を挟んで正反対に位置している。


つまりは、この劇場は宿屋街から遠いのだ。


そしてさらには、今回の開催時間は夕方から夜にかけて。

日が暮れた後に、自分の寝床から遠く離れた場所に行くのは当然面倒だし、危険も伴うかもしれない。


つまりは今回の集客失敗の原因は…

宣伝した相手と、開催場所と開催時間のアンマッチだったのだと考えられる。


ならば。どれか一つでも変えれば、また違った世界が見えてくるはずだ。


開催場所と開催時間は変えることができない。

だから、今日からは集客のために宣伝する場所を変え、宣伝対象にする相手を変えることにした。


そうと決めた後、俺はそれに付随した仕掛けを2つほど考案して、早速準備に取り掛かった。



→→→→→



「今日は、いつもより2時間ほど早く荷馬車広場を引き上げる。そしてお屋敷の近隣住宅に、劇場を宣伝して回る」


ターゲット層が大人であることには変わりないが…

今日は宣伝の対象を、荷馬車広場の客や商人から、キルケット西部地区の住民へと移すことにした。


それならばミストリア劇場から自宅までの距離もさほどないから、アクセスの問題はクリアできるだろう。

そもそもあのお屋敷自体、住宅区画の中にあるのだ。


さらに、俺は集客数を重視したある仕掛けを用意していた。


「宣伝の際にはこの木札を渡して、『この木札を持って2人以上でくると、1人当たりの入場料が50マナから25マナになる』と必ず付け加えるんだ」


そう。

俺の施したひとつ目の仕掛けは『多人数割引き』だ。


夫婦や家族などで住んでいるパターンが多いキルケットの住人達だ。複数で連れ立って来ると安くなるという仕掛けは有効だろう。


そして俺たちは、ミストリア劇場の近隣の家々を回って木札を配り歩いた。


ちなみにこの木札は、ミトラが昼間のうちに全て削りだしてくれたものだ。

勝手にウォーレン家の家紋を崩したようなマークを使用しているが、まぁいいだろう。


紋章付きを頼んだ覚えはなかったが。

この短時間でよくこれだけのものを用意できたものだ。


家では、誰も出てこなかったり、無碍な対応をされることもあったが。とにかく1時間半は必死に木札を配り続けた。


この施策がどうでるか…

それは30分後。劇場の開催時刻になればわかることだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん? 盲目のミトラが精巧な人形を作る、木札をあっという間に作る… 鑑定士のジジイが言っていたあの失われたスキル?
[一言] あと、置き物は、宿屋に泊まる家がない人より。 置いとく物だから持ち家もしくは、定住してる人しか買わないかも?荷物になるし
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