8話 しずくとポテトチップス
「はぁ、はぁ……」
しずくが私の部屋に入ってきた。
今日も秘密のお夜食の時間……と思ったんだけど、なんだがしずくは息を切らしている。たまにハァハァ言ってる時はあるけど、それとはまた違う様子。走ってきた、そんな感じ。
「お待たせ……はぁ、いたしました……はぁ」
「う、うん……何でそんなに疲れているの?」
聞いていいのかわからないけど、流石に息を切らしたしずくをそのままに夜食を食べる気にはなれない。
「いや〜……今日は仕事で大ミスをかましまして。それでお夜食の支度をする時間がなくてコンビニまで走って行った結果コレですよ」
しずくの仕事でのミスは私の耳にも入っている。なんでも私のその日の食事を記録したパソコンデータを無くしたとかなんとか。大変なことなんだ。
「それでもお夜食を持ってきてくれたんだ。ありがとう」
「うっ……お嬢様の優しさが尊さに変換されて心臓を包む……!」
ちょっと何言ってるかわからない。
「今日のお夜食は?」
「今日は時間がなかったので申し訳ありませんが、こちらです!」
しずくが机に置いたのは赤いパッケージの袋。じゃがいものキャラクターがポップに薄切りされた黄色いものを持っている絵がついている。
「これは?」
「ふふ……これはポテトチップス! スナック菓子の大王道です!」
「ポテトチップス……」
名前からして間違いなくお芋を使ったお菓子。
袋の上部を引っ張って開けてみると中の袋は銀色で、底の方に黄色くて丸いチップがたくさん入っていた。
「食べたことないですよね? たぶんこういうのは禁じられているのだと思いまして」
「お芋のお菓子といったらスイートポテトしか食べたことないかも」
「ふふ、こちらはなんとじゃがいもを揚げているのですよ」
「揚げる……なるほど」
どんな味がするのかは大体想像できた。でもしずくの持ってきてくれるご飯はその想像を超える何かがある。
「いただきます」
「はい♪ 召し上がれ」
口に入れて噛んだ瞬間、パリッと爽快な音を奏でてじゃがいもの味と強い塩の味。それからこれは……出汁の味だ。繊細とは言えないけど、これは……
「……美味しい」
作り手の心とか、そう言うものを感じるものではないけど舌に直接美味しいよと語りかけてくる。しずくの持ってきてくれる料理はそういったものが多い。
「ふふ、お嬢様の開け方もいいですが、複数人で食べる時はこう開けるといいですよ」
そう言ってしずくは袋の腹を裂くようにポテトチップスの袋を開けてみせた。
「これぞパーティ開け! シェアしましょうお嬢様! 何から何まで!」
「……プライベート空間、大事」
頬をすりすりしてくるしずくを手で押しのけた。