7話 お嬢様とタピオカミルクティー
「本日は上機嫌ですね、お嬢様」
「ん……そう見える?」
見えます、見えますとも! 私は自分で言うのもなんですが、お嬢様のことなら毛先の位置まで把握する変態……もとい最強の専属メイドですから!
「何かいいことでもありましたか?」
「うん、学校でお友達のお弁当を分けてもらった」
「なるほどなるほど、それは青春ですねぇ」
私にもそんな青春が……あったらよかったのになぁ。
いやいや、私の青春は今! nowです! お嬢様との青春バンザイ!
「それで? そのカップは何?」
お嬢様は我慢できなくなったようで、痺れを切らして私の持つカップについて尋ねられた。
「お嬢様……今、巷ではタピオカミルクティーが大流行しているのをご存知ですか?」
「……知らない」
そうでしょうね。お嬢様は神の舌をお持ちということで、半ば世界の食から隔離されているようなもの。下民の流行りなど知るはずもないでしょう。
でも! それを紹介してお嬢様の世界を広げて差し上げるのがこの私の存在意義! もったいぶらずに出しましょう!
「今日のお夜食、もといお夜飲み物……語呂が悪いですね、まぁとりあえず今日の庶民飯はこちらです」
私は溢さないようにそっとタピオカミルクティーをお嬢様の前の机の上に置く。
お嬢様は目をまんまるに開けて、タピオカミルクティーという未知との遭遇をなされた。かわええ……
「ストロー、太い」
「そうなんですよ。中に黒い玉がありますよね? それを飲むために太いんです」
「この黒い玉って本当に食べ物? 何かの……卵?」
うう〜ん、100点のタピオカ初心者の感想ですね。素晴らしいです。
「何かお芋さんのデンプンから作られているらしいですよ? 私が先に飲んでみますね」
不思議がるお嬢様に見せつけるように私はタピオカミルクティーを口にした。
ミルクティーの茶葉を感じつつまろやかに仕上がった甘みの中に、つぶつぶと確かなる存在感を持つタピオカ。写真映えだけじゃない、しっかりと味でも流行っているのだよと人間たちにアピールするように、タピオカミルクティーは全力でポテンシャルを発揮した。
「うん、美味しいですよ」
「……ん。しずくのその笑顔を信じてみる」
お嬢様はそうおっしゃってすぐにストローからタピオカミルクティーを吸引された。
タピオカがストローから口へと出てくるキュポッという独特な感じに驚きつつも、ミルクティーとの確かな調和を楽しんでいらっしゃるようだった。
「うん、美味しい。これが流行っているんだ」
「えぇもちろん。今の若い子たちはこれに夢中です。これしか飲んでいません」
「すごい強気な発言……しずくもプライベートでは友達と飲みに行くの?」
「えっ……………ワタシトモダチイナイノデ」
「……ごめん」
小学四年生に気を使われてしまいました。