6話 日菜ちゃんと卵焼き
学校。お昼。みんなお弁当の準備をしている。
私の通う小学校では給食は出ず、みんなそれぞれお家からお弁当を持ってきてお昼に食べる。でも、私は違う。私は……
「お嬢様、こちらが本日のランチとなります」
「……ん」
「それではごゆっくり」
シェフがわざわざ学校に来て、その場で調理してご飯を出す。お父様が学校のルールを変えて、私のために特例を作った。
……私も普通にみんなと同じようなお弁当が食べたい。なんて口に出しても言えない。
「相変わらず神舌さんのご飯はすごいわね!」
隣の席の女の子、有馬日菜ちゃんがいつものように感嘆を漏らす。みんなこの時間になると私のことを避けるけど、この子だけは私を見てくれる。
「お弁当って、美味しい?」
私は素朴な疑問をぶつけてみた。
「もちろん! お母さんの料理はすっごく美味しいんだから!」
胸を張って日菜ちゃんは誇ってみせた。お母様の料理……そんなもの食べたことない。もちろん、お父様の料理も。
「いいな」
私は口に出してハッとした。
人によってはこの言葉は嫌味になる。客観的に見ればご飯に恵まれているのは私の方だ。それは日菜ちゃんの反応を見てもわかる。それなのに日菜ちゃんのご飯に対して「いいな」なんて言ってしまった。
反応が怖い。お昼ご飯の時間に話しかけてくれるのは日菜ちゃんだけだから、もしかしたらもう話しかけてくれないかも。そう、思っていたけど……
「羨ましい? だったら卵焼き、あーんしてあげる!」
そう言って日菜ちゃんはピンク色の箸で卵焼きを挟み、私に向けてきた。
「い、いいの?」
「もっちろん! 神舌さんの口にも合えば、お母さんの料理は世界一って証明できるもの!」
「じゃ、じゃあ……いただきます」
長い髪を手でよけて、ピンク色の箸に挟まれた卵焼きを食べる。
ジュワッと、出汁の味。それから甘味が広がった。この出汁はたぶん、化学調味料。ゼロから取った出汁ではない。でも……
「どう? 美味しい? 美味しいわよね?」
「……うん。すっごく美味しい」
今日のメニューの中で、1番美味しいものだった。