最終話 しずくと、お父様お母様へ
「いいですかお嬢様、今からそのお弁当をお父様とお母様にお届けください」
「え……2人に? これを?」
2人は一流シェフの作ったものしか口にしない。だからこんなもの渡しても、何の意味もないと思うんだけど……。
「大丈夫です、自分の娘から渡されたお弁当を拒否する親などいるでしょうか。きっとお父様もお母様も、温かく受け入れてくれますよ」
「……うん、わかった。行ってくる」
1人だったらきっとそんな行動できなかった。でもしずくが背中を押してくれる今なら大丈夫だと思える。
私はお父様とお母様の部屋へと向かった。頑張って作ったから受け取ってくれるかどうか、食べてくれるかどうか、美味しいかどうか。色んなことが気になってしまう。
ようやく辿り着いたドアの前で一度深呼吸をして、お父様とお母様の部屋に入った。15時に2人に会いに行くなんて珍しいから、2人とも驚いた表情だ。
「どうしたんだいあやか。何か用事かな?」
お父様は不思議そうに私に尋ねてきた。
「えっと……お弁当を作ったから2人に食べて欲しい。上手くできたかはわからないけど、一生懸命、作ったから」
「お弁当? あやかが?」
お母様は心底驚いたように目を見開いた。その視線のプレッシャーが痛い。
「ありがとうあやか。その気持ちは嬉しいよ。ただね、私たちは神舌家の者だ。日本のグルメのトップに立つ者なんだよ。そんなものが一流シェフの作ったもの以外で腹を満たす。そんなことが許されるかな?」
「そ、それは……」
私は答えることができずに黙ってしまった。やっぱりお父様には私のお弁当なんて見合わないんだ……
そう肩を落とした瞬間、バン! とドアが勢いよく開かれた。
「聞き捨てなりませんね旦那様!」
「し、しずく!?」
「……誰だい、君は?」
「宵街しずく。お嬢様の専属メイドです」
「あぁ、いつもミスばっかりするとメイド長がぼやいていた子か」
お父様の言葉にしずくはがっくりと肩を落とした。
「わ、私のことはどうでもいいんです! 旦那様、どうかお嬢様のお弁当を食べてみてはくれませんか?」
「……それはできない。神舌家の当主として、小学生が作ったものを口にすることは責任から逃れることとなる。ましてや料理をするのは初めてだろう? そんなものを口にするわけには……」
「うるさーーーーーーい!!!!」
しずくは屋敷に似合わぬ大声でシャウトした。
「ごちゃごちゃ理屈を並べてなんですか! はっきり言いましょう、お嬢様は一流シェフの作る料理も私が勝手に持ち込んだハンバーガーも両方美味しくいただける才能を持った方です! あなた達は一流にこだわり、庶民から逃げているだけです! さっさと世界を、一般社会を、庶民のご飯を見なさい! この二流貴族が!」
「なっ……」
まさかメイドに怒鳴られると思っていなかったお父様。
「お嬢様、お弁当をお借りしますね」
「え? あっ……!」
私の手から弁当を奪ったしずく。そしてからあげを箸でつまんで、えいっ! とお父様の口へ突っ込んでしまった。
「な、何を………………う、美味い?」
「そうです! あなたの娘が作ったからあげは美味しいんですよ! ごちゃごちゃ理屈を並べてないでさっさとお弁当を平らげてください!」
すごい圧で気圧されたお父様はぱくぱくとお弁当を食べ進めた。驚愕の表情を浮かべるお母様も、ゆっくりと私の作ったお弁当に手をつけ始めた。
「……美味しいわ」
「当然です! お嬢様は天才なんですからね!」
しずくは胸を張ってドヤ顔だ。
「私たちは大切なものを忘れていたのかもしれない。あやかはその心を捨てていなかったんだね」
「うん。しずくがその心の持ち方を教えてくれていた」
「そうか。……ありがとう」
そう言うお父様の顔は穏やかだった。
私の部屋に戻ると、しずくは床に伏せてバタバタとし始めた。
「あぁぁぁぁ! 私はなんてことを……」
「……でもよく言ってくれた。ありがとう」
「い、いえ……ただ大変なことをしてしまいましたねぇ。クビでしょうか」
「そんなことにはならない」
「えっ?」
私はふふっと笑ってみせる。
「もしそうなったら、今度は私がお父様を叱るからね」
「お嬢様……いたずら笑顔も素敵ですぅぅぅ!」
「はいはい」
今日もしずくと過ごす1日は最高だ。
それはきっと、これからも変わらないだろう。
初の中編作品でした。ご読了ありがとうございました(*´ω`*)
また、今日から新連載、『姉妹契約で結ばれた魔法少女たちは特別な感情を抱いてしまうかもしれませんよ』が始まっております!
原点に立ち、魔法少女×百合で書かせてもらいました!
引き続き私の作品を読んでいただけたら嬉しいです♪




