16話 しずくとコラコーラ
「お嬢様、本日のお夜食……もといお飲み物をお持ちしました」
「ん……泥水?」
しずくが持ってきたのはペットボトルの中に入った黒い水。何かしずくに恨まれるようなことをしたかな……と反省してみるけど思い当たる節はなかった。
「何をおっしゃいます! これは世界で1番売れているドリンクと言っても過言では無いコラコーラ社のコラーですよ!?」
「世界で……1番!」
神舌家の者として、世界一売れている飲み物を知らなかったのは恥ずべきこと。こちらを反省しなければならない。
そしてしずくは何の躊躇もなくそのコラーという黒い水を私の前に置いた。……味の想像がつかない。甘いのか辛いのか、さらには臭いのかそもそも体に害はないのか……
「お嬢様、何か深くお考えすぎていませんか?」
「うっ……」
何でしずくは私の考えていることがわかるんだろう。専属メイドだから私のことをしっかりと観察してくれているのかな?
「たしかにコラーを初めて見た日本人はこんなもの飲めないと拒否をしたという話は有名です。しかし、今や日本の若者のほとんどがコラーに親しみを持って接しています。主に引きこもってポテトチップスと一緒にいただく方向性で!」
……この国、大丈夫かな。
「そんなに心配なら私から飲みますね!」
そう言ってしずくは黒い水をガブガブと飲んでしまった。ずいぶん飲み慣れているように見える。
「ぷはーっ! ヒキニート時代を思い出しますねぇ〜」
しずくが飲めたらなら……私も。
「んぐっ……んんっ!?」
ゴホゴホとむせてしまった。口に入れた瞬間、泡が発生したのと同時に痛みが走った。やっぱりこれ、危ないものなんじゃ……
「炭酸は受け入れることが大事です。抗ってはいけませんよ」
「受け入れる……受け入れる……」
そう自分に言い聞かせてもう一度飲んだ。すると今度は甘さを感じられて、しゅわしゅわとした痛みは爽快さに変わっていった。
「……美味しい」
「ふふっ、ですよね〜」
「ところでしずく、ヒキニートってなに?」
「えっ!? そ、それは……お嬢様、この世界には知らない方が良いこともあるのですよ」
よくわからないけど、はぐらかされたことだけはよくわかった。




