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マミさん 2

「――やられたわ。お母さん、懲りてなかったのね」


マミさんは思わず親指の爪をギリリとかむ。

さっきまでほんわかな表情だったマミさんが、豹変してひどく顔をしかめてみせた。


「あ、あの……。結婚しないの?」


「ええ。まだやりたい研究(こと)があるし、うちへ帰って来たのも大学院への進学や卒論の資料集めが一区切りついたからからなの……。母が勝手に結婚話を進めていたなんて、知らなかったわ」


「そう、なんだ。前にお相手の方がメガバンクにお勤めしてるのってサキさんから聞いたから、マミさんみたいなお嬢さまにはお似合いだなって思ったのに――」


私がそう言いかけると、マミさんはまた何かを思い出したのか、今度はウンザリしたような生気のない顔をする。


「たしかに母の顔を立てて一度だけ見合い相手とお会いしたけど、相手は一言もしゃべらず、母親が息子の自慢話をするだけだったのよ。それに一番嫌だったのが、食事のときに母親がうれしそうに息子にご飯を食べさせる姿だったわ」


「――大人の、男の人なんですよね?」


()()()()()()()よ。……母が持ち込む見合い話って、たいていそういう事故物件だからエリカちゃんも気をつけてね」


「はい……」


マミさんいわく、

『女は結婚がすべて! それで人生が決まるも同然なの!!』

が、サキさんの持論らしい……。


お見合いの紹介や仲人をするのがサキさんのステータスだとか――。


そんなことを耳するうちに、私の身体の奥からモヤモヤとした吐き出したいようで吐き出せないものが、のどから込み上げてきた。


「お母さんは『男は学歴や勤め先すべて』って言うけど、結婚ってお互い尊重し支え合う関係だと思うの」


「ですよね……」


私はマミさんの力強い言葉に合わせてうなずくしかできない。


しかし私の知るサキさんは、

『やっぱり愛のある男性と結婚したかったわァ。地位やお金がなくても、愛さえあればあたしは満足なの♡』

という愛に生きているような女性だった。


マミさんからうかがえるサキさんは、ソレとはまったくの真逆である。


頭がパニックを起こしている私をよそに、マミさんは母親のうっぷんを口からもらすのだ。


「それにしても、婚姻届を知らないうちに受理されないようにしておいてよかったわ。でなければ、上の兄さんみたいにいつの間にかに結婚させられてるところだった」


「えーっ! そんなことできるの!?」


「数年前に母が相手のご家族と共謀して、上の兄さんとの婚姻届をないしょで役所へ提出したことがあったの。でも重要な項目に未記入のところがあったらしく、上の兄さんのところへ役所からの電話がきて未遂で終わったけど――。父や兄たちにこっぴどく叱られたのに、……本当に勝手な人ね」


はぁ、と言いながらマミさんは紅茶をぐいっと一気に飲みこんだ。


「わたしもね、一人暮らしするまでは大人が言うことはみんな正しいことだと思って疑いもしなかったけど、大学へ通うようになって、ものすごく自分が無責任なだけの子供だって思い知ったわ。だからこれでも地に足をつけた大人になろうってがんばったのよ」


マミさんは凛とした面持ちにしっかりとした声で私に伝えてくる。

だが、私はイマイチそれが理解できなかった。


父やサキさんが言うことは、私にとって心地の良い言葉ばかりだったから。

でもマミさんは自分のことばかりで私を褒めてくれる言葉がほとんどない。

――まるで母みたいだ。


私はマミさんとは違って、まだ大人が必要なか弱い子供。


母は『もうすぐ大人になるんだから、自分のことは自分でしなさい』とうるさいが、父は『まだ手のかかるかわいい子供だよ。無理に大人になることはなんだよ』と言ってくれる。


たしかに自分の知らないところで勝手に結婚させられるのはお断りだけど、いきなり大人になれと言われるのもごめんだ。


サキさんが言うように、マミさんは悪いお友達に感化されて嫌な大人になったのかもしれない……。

以前は、他愛のないドラマの恋愛話やおしゃれのことや、美味しいスイーツの話で盛り上がってたのに。


ツマラナイことしか話さなくなったマミさんに、私は大きく落胆した。

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