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ファミレスにて 2

「――おうちで美味しい料理が食べれてたらなぁ」


私が不意にそうつぶやくと、サキさんが怪訝な表情を浮かべる。


「ヒサ……、お母さんお料理作ってくれないの?」


「うん。お仕事が忙しいからってずうっとスーパーの惣菜ばっか。だからここのところパパとファミレス三昧よ」


「こら、エリカ。ママは遊んでるんじゃないんだぞ。でもまぁ……、出来合いの惣菜ばかりじゃ身体に良くないよね」


「そうねぇ……。でもファミレスの料理ばかりってのも身体に悪いわ~。ケンジさんもお仕事大変だし、エリカちゃんは育ち盛りな上にバレエの習い事もあるんだから、ちゃんとした食生活をしなきゃね」


「そうなんだけどママったら、そーゆーことぜーんぜん気にしてくれないのよね。同じバレエアカデミーに通ってる子たちは、カロリー計算までママがしてくれるの! って言っても、そこまでして欲しいんじゃなくて、少しは家でママの手料理が食べたいなって思ってるだけで――」


ちょっと心に溜まっていた言葉を私が吐き出すと、サキさんはちょっと涙ぐみながら唇をふるわせる。

父は複雑そうな顔つきで私を見つめていた。


「娘にそんなことを言わせるなんて……、パパ失格だな」


「仕事がなによ! 家庭あっての仕事でしょ!? エリカちゃん、おばさんがお母さんをとっちめてあげるわ!!」


「いーの、いーの。ママに言ったところで『お金!お金!お金!』ってヒステリー起こされるだけだもん。――それに、ママは私よりお仕事してお金を稼ぐ方が好きなんだわ」


私がそう言いながらナイフとフォークを置いて窓の向こうの景色に視線を向けると、父とサキさんは『自分たちは私の味方だよ。大好きだよ』って言ってくれた。


その言葉がなによりうれしかった。


優しくしてくれない、うるさいだけの母はいらない。

ほかのみんなが私を好きでいてくれたらそれでいい。


「あたしはエリカちゃんがバレエをがんばってること知ってるわ。お母さんに言えないことがあったら、ぜひおばさんに相談して! 力になるわよ」


「パパもバレエをしているエリカが好きなんだ。ママに遠慮なんかしなくていいんだよ」


「うん、ありがとう。私は幸せ者だね」


私が満面の笑みを二人に向けると、父もサキさんもほほ笑み返してくれた。




ファミレスからの帰り、家の門の前で私だけ車から降りる。

父とサキさんはしばらく二人っきりでドライブしてくるらしい。


昼間に会うことができなくて夜にしか会えない仲って、なんだかロマンティックだなあ。


二人の仲がもっと良くなればいいな、と思いながら玄関を開けた。

そして自分の部屋に向かう途中、台所の明かりがさしていることに気が付く。


台所のガラス戸を引くと、テーブルには手も付けられていない惣菜と私たちが席を立ったときと同じ姿勢でいる母がいたのだ。


死んでる!? 私は一瞬ビクッと身震いする。

だが母はむくりと頭を上げ、青白い顔をこちらを向けてきた。


その形相は死人のように生気もなく、とても気持ちが悪い物体としか例えようがない。


私は思わず、

「――ママ、夕飯は食べなかったの?」

と口から言葉がもれた。


すると母はギロリと私をにらんだ。


「今日食べなかった惣菜は、明日のあなた達のお弁当のおかずにするわ」


「やめてよ! いつも言ってるでしょ! うちはお嬢さま校よ? お弁当にスーパーのお惣菜をつめてくるお友達なんていないわ」


「……はぁ。でも勿体ないじゃない。エリカ、本来我が家は明星学園なんて分不相応なのよ。それに習い事が続かずころころ変わって、――毎月いくらのお金がかかると思ってるの?」


「だってパパが、私にはステキなお嬢さまになって欲しいっていつも言ってるもん。それに学校のお友達も色んな習い事をやってるから、私もやりたいの!」


私が懸命に母にそう訴えると、母はワザとらしく大きく息を吐いた。


「お友達はみんな裕福なご家庭のお嬢さんでしょう? うちはただのしがないサラリーマン家庭。立場が全然違うの! いくら同じ習い事をしてもお友達みたいには()()()()の! お嬢さまのマネごとだけが、アナタの価値じゃないのよ!!」


母は両手で頭をかきむしりながら、いつものようにヒステリックに声を張りあげる。

そしてこの母のセリフはうんざりするくらい何度も聞かされてきた。


学校も習い事もみんな父が私のためにお金を出してるんだからいいじゃない。


「私、知ってるよ。ママから告白してお情けでパパと付き合いだしたってこと。パパ優しいから、ママみたいなチビでブスとボランティアで結婚しちゃったんだろうね」


「なっ――!!」


私の言葉に母は声を詰まらせる。

図星だったのか、母はいきなり立ち上がり自室へと逃げていった。


そのときは”ママざまァ”とほくそ笑み、あのヒスババアを言い負かしたことを純粋によろこんだ。

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