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サキさん

市街地から少し離れた家から近くのファミレスまで車で約二十分。

車の助手席に私が乗り込もうとしたとき、父は申し訳なさそうな口調で私に言う。


「いつものバス停でサキさんを拾うから、助手席は空けておいて欲しいな」


「うん、わかった」


私は素直に助手席の後ろへ座る。

それから父は車を走らせ、近くのバス停へと向かう。


田舎の細い道をゆっくりと車は走る。

家から五分も経たずに暗闇の中、車のライトが一人の女性を照らしだす。

光に包まれた女性は大きく手をふりこちらに合図を送る。


父はバス停に車を寄せて停止すると、その女性が足早に助手席に乗り込んできた。

そして息つく間もなく父は素早く車を発進させる。


「サキ、待ったかい?」


「ううん、ぜーんぜん。エリカちゃんごめんねぇ、おばさんもついてきちゃって~」


「いいよいいよ。サキさんだったらいつでも大歓迎だよ」


「うふふ。エリカちゃんにそう言ってもらえておばさんもうれしいわ~」


サキさんはそう言うと助手席のシートベルトをかけながら私たちにほほ笑んでみせた。


彼女はとても三人子供がいるとは思えない風貌で、二十代のころと変わらないというプロポーションを保っている。

また、丁寧に巻かれたウェーブの長い黒髪が時折り民家の薄明かりに反射してキラキラしていた。


「ふたりで仲良くやってて、ちょっと焼けるなぁ」


「あら、ケンジに会えてワタシうれしいわよォ」


「ん、もー。サキさんはパパのカノジョでしょ!」


「そうそう、十年近くぼくの彼女です。今でもラブラブです!」


「パパがラブラブだってさー。ねぇ、サキさん?」


「もう、エリカちゃんったら。おばさんを冷やかさないでよー」


家での息苦しい空気とは変わって、サキさんが来てくれてから私と父も穏やかな気持ちになる。



サキさんは近くに住む母の従姉で、両親を失って落胆する母に変わって葬儀を指揮したり、私たちがこちらへ引っ越しして来たときからずうっとお世話になっている良い人。

歳はパパやママよりかなり上だけど、キレイで優しい年不相応な美魔女さん。

末っ子長女のマミさんが来年の春に隣りの県へお嫁に行くらしく、このところしょっちゅう『さびしくなるわぁ……』とこぼしている。


父とサキさんはお互いに愛し合っているとてもステキな関係。

だけどお互いの家庭を壊すようなことはしないと言っている。


ふたりはただ出会うのが遅かっただけ……。

でも子供のことは大切だから、このままの良いお付き合いをしていきましょう――。

つらくて苦しくてもそれがお互いに一番いいことなんって、サキさんがずっと昔に泣きながら私に教えてくれた。


それに父は母が可哀想だから離婚はしないんだって。

『ぼくがいなくなったら、ママはひとりぼっちになっちゃうからね』

苦笑いを浮かべながら父はそう聞かされた。


ヒステリックに怒鳴り散らすだけの母を、心優しい父は捨てられない。


だからサキさんは父の心の支えなんだ。

愛している女性がいるだけで、母のヒステリーを我慢して円満な家庭を維持できるんだそうだ。


サキさんもまた、長年連れ添った旦那さんと別れることはできないらしい。

『夫には愛がないけど、子供や孫は可愛いからね』

今の生活に不便はないけど、それだけじゃ人は生きてはいけないから父からたっぷりと愛を注いでもらってるんだって。


結婚で結ばれなくても、こんなにも熱く愛し合えるっていいな。

こういうのを”真実の愛”っていうんだろうね。


ファミレスへ向かう車の中で仲睦まじい父とサキさんの姿を眺めながら、私は顔をほころばせながらそう思った。

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