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私と父と母

久々の小説です。よろしくお願いします。

花びらがマーガレットによく似て黄色い花を咲かせるユリオプスデージー。


家の庭の一角でひしめき合っているそれは、私が幼いころに事故で亡くなった祖父と祖母が大切にしていたものだと母は言った。


元の主がいなくなってから父と母と私とで、母の実家(このいえ)に移り住んで十年。

祖父母が残したユリオプスデージーを母は今でも大切に育てている――。




「なあ、ヒサコ。そろそろこの家を建て替えないか?広いだけの日本家屋だし、もう築百年はゆうに経ってるんだろ」


「曽祖父の代からある家だけど適度にリフォームしてるし、別にわたしは困ることはないけど」


父の提案を母はやんわりと払いのける。

ここしばらくの夕食の話題は、今住んでいる古ぼけた家を新しくすることだった。


「リフォームったって、五右衛門風呂だったのをユニットバスにして、汲み取り便所を水洗トイレに替えただけじゃないか」


「洋室を作ったりシロアリ駆除に配管や配線の取り換え工事もしたわよ。ここはわたしが生まれ育った大切な家なの。まだ建て替えるつもりはないわ」


「そうは言ってもなぁ……。エリカだって古い家よりオシャレな家の方がいいだろ?」


「うん、そうだね。この家、お化け屋敷みたいでお友達もよべないもん」


「ケンジさん! そうやってエリカを盾にするのは止めてちょうだいって、いつも言ってるでしょ!!」


母はヒステリックに怒鳴り声を上げ、おもいっきり両手でテーブルを叩く。

その光景はよくあることで、私も父も慣れきっていてうんざりした顔をお互い見合わせる。



小さいころはいつも笑顔で優しい母だったのだが、この家に引っ越してから少しずつ顔をしかめるようになり、私と父に怒鳴ったり大きな音をたてるようになっていった。



仕事でストレスが溜まっているのかもしれないが、そのはけ口にされるのは勘弁して欲しい。


建て替えの話が打ち切られると、今日も昨日もその前の日も残業続きの母が並べたスーパーの惣菜に嫌そうな顔する私と、もとから惣菜やインスタントみたいな手抜き料理が嫌いな父は、母に抗議するかのようにため息をつきながら箸も取らずにお互いスマホをイジりはじめる。


夕食に不満げな私たちに怒りで肩を震わせてた母は唇をグッとかみしめると、

「そんなに食べたくないなら、出て行ってちょうだい――!」

冷たく低い声で言い放つ。


母の言葉に父は短くふうっと息を吐くと私の方を向く。

私はコクリと頭をたてにふり、父とともにテーブルを立った。


母は顔を伏せて手を強くにぎりしてめていつもの”私は怒ってるんだぞ”ポーズをしている。

小学生のころはそんな母をなだめすかして必死にご機嫌とりをしていたが、私はもう、母にそんなことをしてあげられる気持ちになれなかった。



目の前にいるのは白髪まじりの鬼ババア。


父と同じ三十代なはずなのに、ひっつめ髪で白髪を染めることもなく半年に一回の千円カットの美容院へ行き、オバサン御用達の安くてダサい店で服を買い、化粧もブランド物じゃない安物をもったいなさそうにちびちびと使っている。


とてもじゃないが友達に見せられるものじゃない。

みっともない母は好きじゃない。


「エリカ、こんな時間だしファミレスにでも行くか?」


「だね、パパ。お惣菜は全部ママが食べたらいいよ」


「………」


ほとんど手を付けられていない惣菜と母を残して、私と父は家をあとにする。

こんな夜がわが家では日常化していた。

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