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2話 協力しよう

 一度落ち着くと、案外頭は冷静に戻ってくるもので、先程までの会話が整理されていく。


「この人が、そんなにすごい人っていうなら、別に協力なんていらなくない?

 ほら、俺様最強。単独プレイ大好きって顔してる」

「俺だって好きで協力者なんて探してねーよ。言っただろ。引き籠られてるって」


 なんでもその土屋道山とやらば、強力な結界の中に身を隠しているらしい。

 結界に入ることが許されるのは、土屋道山から招待された者だけ。それ以外は、結界内に入ることも難しく、入ったところで行動が極端に制限されるらしい。


「だから、中で結界を破壊するか、道山の動きを探る奴が必要なんだよ。理解したか?」

「頑張れば?」

「バカか?」


 本気で不思議そうに根性論を振りかざしてきた日向に、つい皮肉も混ぜず返してしまう。

 こればかりは、榊だけではなく精霊たちまで微妙な表情をしていて、日向も味方がいないことを察したのか、寂しげな表情をすると傍にいた風鬼を両手で捕まえ、ペットとじゃれ合うように弄る。


「……招待されるのは?」

「俺は名前どころか顔バレもしてんだよ。ほら、この顔だし」


 白い髪に赤混じりの紫の瞳。

 日本人離れした容姿を指さされれば、日向も小さく唸る。


「アルビノって奴?」

「イケメンだろ?」


 わざわざサングラスを外して、素顔を見せながら、サービスというようにウィンクまでつける九条に、本気でわからないという顔と、どう返事をすればいいのか困ったように眉を潜める様子に張り付けた笑みが消える。


「お前、クラスで浮いてない? 大丈夫?」


 しかし、日向は少し考えた挙句、榊に少しだけ目をやる。

 榊も不思議そうな顔で耳を寄せてやれば、口元を隠しながら耳打ちされた言葉に、眉を下げて笑うしかなかった。


「つい言っちゃったんですけど、アルビノってこの人、気にしてたりします? 実はコンプレックスだったりとか……

 イケメンって『これ以上言うな』の暗喩的な?」


 人とコミュニケーションが苦手な日向は、たまにこうして”一般的な返答”というものを榊や逵中へ確認してくることがある。

 かつての部下も一般常識というものが最も難解だと愚痴を溢していたことがあった。確かに、一般的も普通も、ある意味では難しいことではあるが、目の前で確認がすでに普通ではない。

 しかし、少しでも覚えてくれるのであれば、最初から覚える気のない男に比べれば救いがある。


「聞こえてんぞ」


 今回の相手は、こういったことに寛容なタイプであるし、そんな気遣い必要ない。


「イケメンって自称する奴には『はいはい。そうですねー』って返しておけばいいと思うぞ」

「は? もっと崇めろよ」

「はいはい。そうですねー」


 早速教えた通りの言葉を答えた日向に、九条の眉が吊り上がる。


「……マジで泣かす」

「おっ」


 風鬼が感心したように声を上げたが、九条の目は信じられないものを見たように見開いていた。

 つい頭に血が上って、軽いものであるが呪いをかけた。しかし、その呪いは日向に触れる前に崩壊した。


 大精霊が動いた気配はなかった。日向自身も。それどころか、日向は気づいてすらいない様子だ。

 ならば、姿を見せない鬼の仕業だろうか。

 先程から気配だけは感じる、日向の影に目をやるが、反応はない。


「天ノ門の使役者じゃ、明らかに警戒されるだろうし。そういう意味じゃ、結城がいいのは理解するけどね」


 天ノ門関係者などの寝返りかねないカクリシャは招き入れないことに越したことはない。

 あくまで、土屋は無能力の一般人を抹殺することに同意し、力のある使役者だけを招いていた。


「私って一応、天ノ門関係者では?」


 バイトもしているし、探る方法がないと言われるほど用心深い相手から招かれるとは思えない。


「あー……隠してたわけじゃないんだが、結城の事情は特殊だから、結城が身の振り方を決めるまではトップシークレットになっててな。

 ほら、今日のこともあるだろ?」


 珍しく表情が曇った日向に、九条も先程の呪言のことが脳裏に過るが、それが当たりだとしてもめんどうなので言葉にはしなかった。


「だから、正確に知ってるのは、上層部だけなんだ。書類上はあくまで保護されてる使役者のひとり」


 天ノ門上層部である九条は、日向が鬼を使役していることは知っている。

 だが、噂というものはどうしても流れてしまうもので、耳聡い相手ならば”鬼を使役している者”存在を知ることもできる。


「天魔とやりあった時の人的被害の少なさ。その前から千葉の方で鬼の報告もチラホラあったしな。

 実は天魔と鬼がやりあったんじゃないかって噂も出てきた上に、その時に保護された使役者のガキが大精霊を従えてる。

 疑いの余地は十分だろ」


 諜報能力に長けた機関なら確信に至れなくても、日向結城という存在を上げるところまではいくだろう。

 事実、ミントはそれ以前の少ない情報から日向を見つけ、接触していた。榊たちも、日向の保護後はそういった情報統制を行っていたが、完全に隠せているわけではなかった。


「とにかく、道山の奴が条件に上げる強い使い魔に関して、お前はどう見ても条件に当てはまってる。招待されたっておかしくない」


 今までも何度か目ぼしい使役者に協力を仰ぎ、協力してくれた使役者もいたが、招待されて帰ってきたものはいなかった。


「それって、めちゃくちゃ危険では?」

「鬼を従えてるやつが言うか?」

「……」

「って、何しやがる!?」


 わりと本気で首を斬りにかかっていた風に慌てるが、起こした本人はなんのその。


「今のは、私を感謝してほしいところだよ」

「ハ?」

「あー……結城。別に受けろって話じゃないんだ。僕らは、君を危険に晒す気はないわけだし。

 ただ九条も言った通り、一部で君が噂になってるのは事実だ。諜報能力もある連中は、君を見つけ出す可能性はある。

 また突然声をかけられても困るだろ? 情報は大事だ。話だけ聞くだけ聞く。大事なことだよ」


 鬼を使役しておいて?

 榊の食い気味な言葉を聞きながら、またその疑問が浮かぶが、直感が告げていた。

 その言葉は禁句だと。


「…………俺も外道じゃねぇ。侵入に際して必要な知識と能力は教えてやる」


 危険なことは理解しているし、日向と話していれば、術についてどころか、カクリシャについてだってロクな知識がないことも察しがつく。

 今時の全てを平等にした結果、銃口を突きつけられても、笑顔で挨拶すれば撃たれないと勘違いした連中の出来損ないの作品(こども)

 そんな人間がどうして鬼や大精霊と関りがあるのか、大分気になるが、先程のこともある。下手に踏み込むと、大精霊の遠慮のない攻撃が来るかもしれない。


「さっきも言ったが、お前は条件に当てはまってる。いつ、犬が招待状を持ってきたっておかしくない」

「犬?」

「道山の式神が犬なんだよ。見た目は普通の柴犬だが、首に鈴が現れる時に三度鳴る。

 まぁ、招待状を受け取って即連れていかれるわけじゃないが……なんだよ。心当たりでもあんのか?」


 何度も目を瞬かせる様子は、明らかに身に覚えがあると物語っていた。


「もしかして、術が組み込まれてるって言ってた手紙?」

「「は?」」


 九条と榊の声がキレイに重なる。


「結城! そういうことがあった際にはすぐに知らせろっていってるだろ!」

「ご、ごめんなさい。忘れてたっていうか……いや、確かに手紙は、珍しかったけど……」


 精霊などの存在からちょっかいをかけられることは少なくない。今回もその延長かと思っていた。

 榊もそれを理解していないわけではない。物言いたげに頭を掻くと、努めて言葉を柔らかくする。


「あ゛ー……今度からちゃんと報告するように。特に、人間が関わってそうなことは絶対だ。わかったか?」

「はぃ……」

「それで、その手紙は?」

「捨てました」


 ついそこまで文句が出てきそうになるが、知らない相手からすれば、その行為は間違ってない。不審な勧誘など見ずに捨てるに限る。

 九条も文句の言葉だけを飲み込み、残った空気を大きく吐き出した。


「も、燃えるゴミの日、明日だから、回収はできると思う、よ?」

「回収しろ」


 榊も言葉にはしなかったが、同意した。


*****


 自室のゴミ箱の中、そのまま捨てられた和紙の封筒を拾い上げる。


「アイツに協力するのか?」


 影から現れた黒鬼は、日向の手から封筒を取り上げる。


「しないのであれば、これは燃やす」


 じっと見上げる日向に黒鬼もなにかと少しだけ首を傾げた。


「黒鬼さぁ、あの人と知り合い?」

「……いや」

「ふぅーん……」

「ただ九条は知っている。千年以上前から怪異との戦いに明け暮れていた連中だ。

 結鬼は怪異と深く関わりたくないのだろう。なら、これは燃やすべきだ」


 九条家に関われば、確実にカクリモノや精霊たちと深く関わることになる。

 これは、黒鬼の気遣いだった。


「怪異と関わりたくないってわけじゃないんだけど……どちらかっていうと、たぶん楽しいのかな、とも思うし」

「なら、天ノ門か?」

「んん……難しいなぁ。そういうわけでも、ないんだよ……みんなとは友達だし、一緒にいたいし、逵中さんとか榊さんだって嫌いってわけじゃないし」


 難しいことは考えたくない。楽しいと思ったことだけをできたら、どれだけラクだろう。でも、それができないのが現実。

 変わってる、おかしいと奇異な目に晒されて、見えない誰かの目を気にして、消えることができないなら、モザイクをかけるように普通の振りをするしかない。


「あ」

「?」

「ちょうど夏休みだし、手伝ってもいいかなって」

「ユーキ、受験勉強とか言われてなかった?」

「少しくらい大丈夫だし、勉強詰めとか無理。ちょっとくらい遊びに行きたい」


 手を伸ばした日向に、黒鬼は目を伏せると、それを日向の手に返した。

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