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カクリモン ~ 播磨の百鬼夜行 ~  作者: 廿楽 亜久


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2/12

1話 初めまして。鬼の契約者

 東京郊外。

 カクリモン対策機構”天ノ門(あまのと)”の本部があった。

 任務ついでに立ち寄った本部だが、どうやら今日は先約がいるらしい。


「知るかよ」

「で、ですが」

「あ゛? 文句あんのか?」

「い、いえ!! ありません!」


 任務と出張続きで、さすがに体に疲労は溜まる。とっとと報告して、休みたい。

 制止する声を無視して、なにやら殺気立っている京極のいる部屋の襖を開く。


「……」

「……」


 そこには、京極と睨み合う逵中。そして、気まずそうにしている白虎と榊のふたり。

 ふたりは無遠慮に現れた色素の薄いサングラスをかけた白い髪の男に、驚いたように目をやるが、今にでも殺し合いを起こしそうなふたりは、その殺気のまま確かに男を認識する。


「後ででいーわ」


 京極が声を発するよりも早く襖を閉め、部屋を後にした。


「逵中と喧嘩中ってなら言えっての」


 先程の使用人に文句を言いながら、廊下を歩く。

 京極も逵中も、どちらも頑固で融通が利かない部分がある。そこで衝突すると、長いし、恐ろしい。


「仕方ねぇ……報告書だけ渡して――ん?」


 庭園の隅に妙な力の気配と声。


「――」


 近づいても聞き取れないが、呪言のようなそれに、わざと足音を立てれば、その声はこちらに気が付いたのか声を止めた。

 しかし、岩陰に隠れたまま顔を出すわけでもなく、訪れたのは静寂だけ。


「はぁ……誰を呪ってんだか知らねェーが、呪うならちゃんと呪えよ」


 反応はない。


「おい。俺がありがたくアドバイスしてやってんだ。『ありがとうございます。九条さん』くらい言えよ」


 岩を蹴ってやれば、さすがに驚き息を飲んだ声と共に、そっと顔をこちらに覗かせ、こちらの姿を見た途端、心底嫌そうな視線を向けてきた。


「うっわ、チンピラ……最近、絡みが多すぎな気がする」

「『ありがとうございます。九条さん』」

「アリガトーゴザイマス。クジョーサン」


 明らかに嫌そうな表情だが、いまいちパッとしない女の顔を見たことがある気がした。

 家に来た誰かだろうか。いや、それなら記憶に残ってるはずがない。


「あ」


 思い出した。

 鬼を使役していると言われている使役者の日向結城(ひなたゆうき)だ。

 何度か接触を図ろうとしたことがあるが、何の冗談か、逵中からはただの一般人で保護対象だと、断られ続けた。

 無視して接触することはできたが、それを知った逵中からの説教を想像しては、まだ接触できていなかった。


「ちょうどいい。アドバイスの礼ついでだ。土屋道山(つちやどうざん)の動向探るの手伝え」

「やだよ」


 即答だった。


「ハァ? 俺が頼んでんのに断るとか、脳みそ腐ってんのか?」

「ないよりは腐ってる方がマシだろ」


 横暴な態度。最近、天ノ門に入ったチンピラと妙に似ている。

 年齢が近いこともあるからか、妙に絡みが多く、目の前の男は、初対面ではあるがあのチンピラ分も合わせて、倍速で扱いが雑になっている自覚が日向にもあった。

 あったが、態度を改める気はしない。強いて改めるなら、向こうが態度を改めてからだ。


「こそこそ隠れて人を呪ってる奴は、目玉が苔()してんだな。もっかい籠って苔活しとけよ」


 顔面煩く煽ってくる九条に、日向も口端がつい上がるが、日向の行動よりも早く手の早い精霊が先に動いた。

 風と電気の弾ける音。


「ありゃ?」

「ちゃんと守れるタイプか」


 手加減はしたようだが、似たような攻撃をされた斎藤が痛みに悶絶していることが多いため、あの攻撃は相当痛いはずだ。


「大精霊? これで一般人? ねェーわ」

「お前の方がねェーわ」


 しかし、目の前の男は素早く結界を張り、ダメージを軽減したらしい。

 一度防がれると、案外冷静になるもので、日向も見上げるように九条をじっと見つめる。


「お前たち、初対面で何してるんだ……」


 物音にやってくれば、初対面であろうはずなのに、喧嘩をしているふたりに呆れたように額に手をやる榊。

 ふたりは榊に目をやり、一度手を止めた。そして、先程と同じように舌を出して騒がしい顔を向ける九条と、日向も無言でそれを指す。

 どこかデジャブを感じる光景に、榊も眉を下げた。


「気持ちはわかるが堪えてくれ。そいつは、カクリシャの中で本当に凄い奴でな。うん。気持ちはわかるから、ここで物理的に喧嘩するのはやめてくれ。

 向こうも大変なんだから」

「そう言われると、その……というか、あっち、大丈夫なんですか?」

「道場に行ってやりあってるよ」


 その言葉には、九条も変顔を忘れて呆れ返る。


「それで? こっちはこっちで、何の喧嘩だ?」

「喧嘩っていうか、煽られ、煽り返し?」

「それを喧嘩って言うんだ。で、原因は?」

「えっと……いきなりなんか手伝えって言いだして、断った?」


 すでに喧嘩の原因など忘れかけていたが、間違っていないはずだ。自分で頷く日向に、榊はすぐに思い至った心当たりに少し目を細める。


「んだよ。俺に反応しねぇと思ったら、オッサン好きかよ」

「アレ、一回ぶん殴っていいですか?」


 一回くらいなら許したくなるが、一応口では宥めておく。だというのに、注がれる油は止まらない。


「なんだよ。土下座でもすりゃいいのか? 精霊共を跪かせて使役してる女好みですか。そうですか」

「普通にキモい。学生のクソインスタかよ」

「マジで泣かしてやろうか。テメェ」


 このやり取り、最近よく見かけるな。などと思いながら、子供のような喧嘩を始めそうなふたりを宥める。

 このふたりが、本当に喧嘩が起きたら惨事では済まないレベルの災害が起きかねない。


「ほらほら、結城も落ち着いて」

「落ち着いてます。確実に仕留めてやる」

「うん。落ち着いて。マジで」


 楽し気な笑みを浮かべている精霊2体と蠢く影の気配に、榊は冷や汗を背中に感じながら止める。かつての部下と本当に似ていると思いながら。


 自己紹介もなしに話を進めていた白髪の男、九条恵(くじょうめぐみ)に、軽く頭痛を感じながら、日向に九条について説明する。

 日向も大人しく、視界に映る騒がしすぎる九条を無視して話を聞く。


「天ノ門京都支部の使役者で、九条家の次期当主。九条家っていうのは、京極さんとか四門家に近い家系でな」

「つまり、お偉いさんの坊々」

「本人の目の前で言うのはやめような。性格は置いといて、実力は確かだよ」

「おい。チキン野郎。喧嘩売ってんのか」

「売ってないよ」


 否定しながら、九条をじっと見定めるように目をやっていた日向の肩を軽く叩く。


「それより、頼みってのは、君が追ってるっていう土屋道山のことか? その件なら、逵中から正式に断りを入れたはずだけど」

「一般人で保護対象だからってか? 鬼に、大精霊2体で一般人? 狸でももっとマシな嘘をつくぜ?」

「事実だよ。うまくいっていないとは聞いていたけど、本当だったみたいだね。弱い者いじめは楽しいかい?」


 明らかに眉を潜めたのは九条の様子から、榊の言葉は間違っていないことは理解できたが、知らない情報が多すぎた。

 興味なさげに視線を別の方へ向けている日向に、九条は頭を掴もうとするが、肩と頭に乗る精霊の視線に音もなく舌打ちをする。


「土屋道山は過激派の式神使いだ。無能力者を殺す為なら手段は(いと)わねぇし、カクリシャだろうと、無能力者を守ったり穏健派ならアイツは容赦ねぇ。

 能力があるなら、殺さず、生かして能力だけ奪うこともする。その分、質が悪い」


 ここ数年急激に制度が確立され、カクリシャを虐げる現代の社会に不満を持ち、過激派へ肩入れするカクリシャは確かに多い。

 力を持っている故、消極的なカクリシャの方が少ない。なにより、過激派のカクリシャは、今までそれなりに融通が利く程度には、能力が高いカクリシャが多い。


「だから、俺が動きを探ってるんだが、引き籠られてどうにもならねぇ。っつーわけで、お前に手伝えって言ってんだ」


 上から目線に簡単に説明されるが、これで了承する人はそういないだろう。

 もし、了承する人がいれば、それは相当のお人よしだ。


「お前が従えてるっていう鬼が土屋に狙われる可能性は高い。そうじゃなくても、そこの大精霊。十分狙われるぞ」


 大精霊などはその存在そのものが珍しい。その上で、人間と契約をすることを良しとする精霊はもっと少ない。

 しかも、契約すればそれだけで奪い取れる精霊なんて、力を欲しているカクリシャからすれば喉から手が出るほど欲しいものだ。


「つまり、お前だって被害を被る。協力は悪い話じゃねェだろ」

「なんで?」


 確かに興味なさそうにどこかを見ていたが、先程の説明を全く聞いていなかったのか、それとも理解できなかったのかと、どちらにしても呆れて目をやれば、その目に息が詰まる。


「関係ないんだから、勝手にやってればいいじゃん」


 感情が全て抜け落ちた、いや、怒りと憎悪に似た何かがあるにも関わらず、表情が追い付いていない。

 確信だった。

 目の前の彼女は、確実に鬼を従えてる。

 それだけ、彼女には何かが足りない。


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