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0話 とある幼い日の事

 妙な手ごたえと共に、開けた重い鉄製の扉を閉めれば、薄暗くなる。


「ゆーきさん、すごーい」


 小声で自分に感心すれば、ふわりと吹く風。緑のそれも言葉に同意する。


「本当に凄いな。ユーキ」

「いえーい。それで、黄色いのどこにいるんだろ?」


 薄暗い蔵の中、辛うじて物陰は見える。

 幼い日向にとっては、広い蔵。その上、物は多く、積み上げられている。


「……変な声する?」


 周りから、言葉としては理解できないのに、意味だけは理解できる音が響いていた。


「あー……答えちゃダメだよ?」

「そうなの?」

「ユーキはたぶん大丈夫だけど、ほら、知らない人に声をかけられてもついてっちゃいけないだろ?」

「なる、ほど……?」


 向こうを探してくると言い残すと、緑の精霊は飛んで行った。日向も別の方向に向かう。


 事の始まりは、数十分前の事。

 よく遊んでいた精霊たちの内のひとりが捕まってしまったらしい。

 助けを求める緑の精霊の言う通り、大きな土塗の壁を越えて、蔵に入ってきたが、とりあえず、端から箱を開けていくことにする。


「もさっとしたのは違うよね」


 明らかに埃の積もった箱は除いて、封のしてある箱も関係なく開けていく。

 しかし、黄色い精霊はいない。


「黄色ぃのいない……」


 どこだろうかと奥へ目をやった時、黒い影に息を潜めた。


「……」

「……」


 バッチリ目が合っている。

 子供ながらに今していることが”悪いこと”であることは理解していた日向は、視線を泳がせた。


「そういうことか……」


 黒い影は立ち上がると、日向の隣を通り過ぎ、布の被った鳥かごを手に取り、日向の前に差し出す。


「探し物だ」


 黒い影の言葉に、日向は布を捲り上げると、そこにいたのは、光る鎖に巻かれ力なく眠る黄色い精霊の姿。


「いた! ありがとう!」


 鳥かごを軽く振るが、精霊が目を覚ます様子はない。


「黄色ぃのー? 起きてー朝だよーコケコケコッコー」

「術で眠ってるんだ。解いてやれ」

「術?」


 不思議そうな表情で見上げる日向に、黒い影は目を瞬かせると、声が聞こえたのか緑の精霊がやってきては、黒い影を見て声を上げる。


「鬼!?」

「緑ぃの。術って何? 解ける?」

「え、あ、ユーキ、少しは慌てて……あ、うん。そうだよな。う゛ーん……」

「心配するな。俺はここで封印されている身だ」

「封印されてるように見えないから慌ててるんだけどな……」


 鬼の封印は、相当の実力者が継続して封印してようやく完全にできるものだ。最近の力が弱くなったカクリシャが完全にできるとは思えないが、それでもここに住むカクリシャはそれなりの実力を持っていると思っていた。

 だが、事実、鬼の封印はほとんど解けている。蔵の中だけに行動は制限はされているが、蔵の中ではほとんど自由な状態だ。


「みーどーりぃーのぉー」

「あーはいはい。ユーキなら、鎖を引きちぎるイメージをすれば壊れるよ」


 具現化したイメージは、強固な術になるが、日向にとっては都合がよかった。


「ふんっ」


 腕の力いっぱいに引っ張れば、思った以上に簡単に引きちぎれた鎖に、勢いのままに体が天井に向く。

 慌てる日向の背中を支える手は、鬼のもので、少し呆れた顔をしていた。


「びっくりした」

「だろうな。ほら、用が済んだなら帰れ。すぐに封印を破ったことに気が付いて、術士が来るぞ」

「そっか」 


 日向から放そうとした手だが、握り返されたまま離れない。

 鬼は軽く手を振ってみる、離れない。


「離せ」

「え、一緒に出ないの?」

「お前たちのことは誤魔化してやる。だから、手を……」


 文句ありげな表情で口を開ける日向に、鬼も言葉を諦め、もう一度強めに手を振ってみるが、離れない。

 仕方ないと、膝をつけば、何も知らない子供に教える親のように、自分のことを教える。


「鬼というのは、人にとって恐怖の対象だ。だから」

「私も人から怖いとか、気持ち悪いって言われる。ルイトモって言うんでしょ」


 微妙に成り立っていない会話をどうするかと頭を悩ませていれば、眠っていた黄色い精霊も目を覚まし、ふらふらと日向の肩に乗る。


「大丈夫?」

「ちょっとだるい……ここ、体重くて」


 緑の精霊へ目をやれば、困ったように視線を逸らされる。そして、日向の頭にそっと乗った。


「結界が、さ。調子は良くないよね」

「じゃあ、壊そう。壊すイメージ」


 答えは簡単だった。友達を傷つける結界なんて壊してしまえばいい。

 しかし、肝心の壊すイメージが思いつかない。先程の鎖は想像がついたが、結界の想像つくかと言えば、つかなかった。


「……黒ぃの壊せる?」

「可能だが……」

「じゃあ、手伝って」


 強く握られた手に、ただ外に出ればいいだけだと伝えるが、日向は不満そうに見上げる。


「みんなにひどいことをする結界なんだよ?」


 その目に似たものをかつて見た。人の道を最後まで理解できなかった人間と同じ。


「……わかった」


 根負けしたのは、鬼の方だった。ため息と共に了承すれば、嬉しそうな笑みを向けられる。


「ルイトモ、らしいからな。お前に手を貸そう。名を」

「ゆうき。ひなたゆうき」

「バ――っ!?」


 慌てる緑の精霊と一度目を伏せた鬼は、一度手を握り直す。


「俺の名をつけろ」

「え……」

「契約だ。俺はゆうきの唯一となろう」

「んー……じゃあ、黒い鬼だから、黒鬼(こっき)


 子供の無邪気な笑みに、黒鬼は嗤い返した。

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