表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ココア

作者: 柿畑 紫慧

「ココアって飲み物、嫌いなんだよね。」

彼女はビビットな黄緑色の袋から茶色いココアの粉末をプラスチックのスプーンで量ったあと、マグカップに入れた。

「の割には随分楽しみに買ってきたじゃん。」

「いや、たまたま見かけて。つい懐かしさで買ってしまった。」

基本的に二人とも牛乳を飲まないので、冷蔵庫に白い紙パックがあると言うだけでそこそこの違和感がある。わざわざ両方買ってきたと言うのに、一体何を言い出すのかと思った。

「味が嫌い、とかじゃなくて。ほらこう、飲むまでの手間がさ、面倒くさいじゃないですか。」

「ああ、まぁ、確かに。」

「まず粉入れるでしょ、で、牛乳ちょっと入れて、それに馴染ませるように混ぜるじゃん。」

「はいはい」

彼女の言いたいことが何となく、分かった。

「その手間だけでも面倒なのに、そこから牛乳足して、また混ぜて、最後にレンジでチンまで行ってようやくホットココアが飲めるようになるわけじゃん。」

「できる頃には、もう飲みたいという異様がだいぶ薄れていると。」

「その通り!」

彼女はビシッとスプーンで僕を指した。ポタタッと牛乳の水滴が机に散る。

「なんか私、こういう食べるまでが面倒くさいの嫌いでさ、ほらカニとか。」

「カニ?嫌いなの?」

「うん。」

カニが嫌いという人間は珍しいなと思った。

「あれ食べるのすごく面倒じゃん。全然カニカマで良くない?ってなっちゃう。」

それ、カニ好きだけど甲殻類アレルギーで食べれない人からしたら地獄みたいな意見だな、と思いつつ黙って聞く。

「手はベトベトになるし、汁は垂れるし、殻は痛いし。」

「なんか、かなりカニに対して恨みを持ってる人みたいだね。」

「いや『恨む』ほどではないんだけどさ。」

彼女は電子レンジにマグカップを入れると、ぐるりとタイマーを回した。

「他にも、秋刀魚とかさぁ。」

「秋刀魚?」

意外な食べ物が出てきて、少々驚いた。

「骨多いでしょ、あれ。食べるのめちゃ面倒くさいんだよね。」

「なるほどね…。」

「秋刀魚に限らず、骨の多い魚は嫌い。」

チン、と電子レンジが鳴った。

「あ〜!」

扉を開けた彼女が叫ぶ。

後ろから覗くと、電子レンジの中にココアの飛沫が飛び散っていた。

「だからココアは嫌いなんだ!」

彼女が布巾を取りに行っている間に、一口、マグカップを啜る。


うん、うまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ