モノの回路
私は器物。
私はモノ。
命をもたず、生を受けた。
生命の器、覆う物、守り手としての、生を受けた。
空の器に命を満たす、庇護する者の、生を受けた。
それは果たして、生なのか。
それは今も、わからない。
答えは今も、得られない。
幾度なのか忘れるほどに、長く短い時間を超えた。
玉響の時を、重ねてきた。
穏やかな夜も、越えてきた。
賑やかな朝も、越えてきた。
今もそれは、判らない。
解することは、敵わない。
問うても、乞うても、叶わない。
◆◆◆
火
そう、火だ。
ただ在るだけで、命を繋ぐ。
ただ有るだけで、命を奪う。
最初の記憶は、猛る火だ。
輝き光る、猛る火だ。
明るく照らす、眩い炎。
一面が、見渡す限りが、地平の果てまで。
空が、大地が、燃えている。
ヒトも獣も分け隔てなく、生命が、燃えている。
分別はなく意思はなく、生を融かし、燃えている。
命を焦がし、燃えている。
そこには確かに、営みがあった。
そこには確かに、心があった。
そこには確かに、諍いがあった。
ここには確かに、命は無い。
つい今ほども、混沌はある。
滅ぼさなくてはならない。
滅びなくてはならない。
全て、あまねく生命は、滅ぶべきなのだ。
静かな海に、帰るべきなのだ。
--火は 嫌いだ。