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王族に買われた少女の魔法基礎概論  作者: あかろう
アルスン帝国①
5/7

世界における4つの思想

 マシュープランの発表は大国に多い「大魔導士派」の思想を大きく揺るがす要因になる。


 この世界に存在する国々は魔法の出現によっていくつかの思想に分けられた。


 ――いや、分かれたというよりも、一定の思想で統制しなければ纏めることができなかった、とも言える。それほどまでに、魔法の出現というのは当初、国の在り方を揺るがした。


「なぁ、コゼット。世界に存在する4大思想って知っているか?」


 連日のように世界を騒がせるマシュープランの記事を食い入るように眺めているコゼットに俺は尋ねた。

 俺同様にマシュープランの出現に興味があるコゼットは似たような記事を毎日のように見比べ、自分なりのノートを作るほどだった。


「もちろん!」


 自慢げに胸を張り、コゼットは持っていた紙にペンを走らせ、初等部の試験でも必修と言われる4大思想の名前を書き上げた。


 ①大魔導士派

 ②魔導士優先派

 ③愛国派

 ④科学派


 コゼットが紙に書き記したように、この4つこそ現在の世界に存在する4大思想で、全ての国がこの4つのどれかを国の思想として掲げることによってその国は安定していた。


「じゃあ、今回のマシュープランによって最も影響がある思想はどれだ?」


 これは初等部の子どもに対して行う質問ではない。

 しかし、コゼットが魔法戦術学に興味を持っているのであれば、それぞれの思想の特徴というのを抑えることは非常に重要なことだった。


「そんなの、大魔導士派でしょ?」


 初等部の子どもに対してはかなり難しい思考が及ぶ内容のはずなのに、コゼットは「どうしてそんな当たり前のことを聞くの」という、何ともキョトンとした顔を浮かべながら即答した。


「せ、正解……どうしてそう思う?」


 あまりにあっさりとコゼットが正解を導き出したので、俺の方が動揺してしまった。


「だって、大魔導士派って魔導士のレベルが絶対って考えでしょう? だから、レベルが絶対じゃないかも、っていう、このマシュープランって、驚くんじゃない?」

「そ、その通りだ」


 答えまで完璧だった。


 大魔導士派というのは、魔導士のレベルこそが絶対だ、という思想であり、ロドシン帝国を始め、多くの大国ではこの思想によって統治されていることが多い。


 この思想の優秀なところは、年功序列や貴族、王族などの立場的な違いなどは考慮せず、ただ魔導士としてのレベルによってのみ、人間の価値を容易に判断できるところにある。

 つまり、生まれたばかりの子どもであっても、そのレベルが親よりも高ければ親はその子に付き従うという、レベル、という最も簡単な方法で立場というのを形成していた。


 多くの人間が存在する大国の多くは、この、最も容易に立場を決定することができる大魔導士派の思想を取り入れた。


 ただ、欠点としてはレベル以外の要因を一切考慮しないため、魔法を使える者……俗にいう「魔法人」と魔法を使うことができない「科学人」との間に生まれる差別だけではなく、魔法人……魔導士内でもレベルによる差別が生まれることだった。


 そのため国自体が荒れやすいという側面も持っていた。


 新しく魔導士が産まれるたびに自分の地位が上下するのだから、中途半端なレベルの魔導士にとっては落ち着ける状況などありはしない。


 ただ、そんな中でもロドシン帝国が表面上でも落ち着いているのは、皇帝であるレベル7の魔導士、キングスレイのカリスマ性によるところが大きいだろう。あれだけ強引に侵略を繰り返しておきながら纏まっているのだから、あの男から侵略された国を解放するのは容易なことではない。


「この国への影響はどうだ?」

「う~ん……あまりないのかな。学校でも全然話題に上がっていないし、みんな知らないから、お話していても楽しくない」


 自分が興味のあるマシュープランに対して学校のみんなが無関心なことに対してコゼットは不満顔だった。


 アルスン帝国は魔導士優先派という思想を取っている。


 この思想は、魔法を使える者こそが偉い、という思想であり、魔法を使える魔法人と魔法を使えない科学人との間に明確な差別は存在するが、魔法人同士であれば、そこはレベルではなく、年齢は王族などといった立場が優先される、という、良く言えば柔軟で、悪く言えばかなり不安定な思想だった。


 ただ、小国の多くはこの思想が多く、単純なレベルだけで大人が子どもに付き従うことなどできない、という、何とも動物らしいプライドのような物がその思想を後押しする。


 実際、この大魔導士派と魔導士優先派だけで世界の国々の9割以上も網羅しており、残り2つの思想を掲げている国というのはかなり限定的だった。


「愛国派の国を3つ答えよ」


 俺は問題っぽくコゼットに問いかけた。


 愛国派の国は世界にたった3つしかないので、この3つを書かせる、というのは試験に必ず出題される。


「プロイセン、ベネチス、ジオバニでしょ」


 コゼットは即答だった。


 愛国派というのは、魔法人も科学人もなく、みんながその国を愛する仲間なのだから、レベルによる差別も魔法が使えるかどうかによる差別もしないようにしよう、という考えだ。


 一見すると最もまともに思え、実際、まともだと思う。

 しかし、魔法という絶対的な力を手にした人間をそういう綺麗事だけで統治することは難しく、力を手にした魔導士のクーデターで崩壊した国は多い。


 それならば何故、この3国だけが今も愛国派を掲げられているかというと、そこには圧倒的なカリスマを持った指導者と、昔から脈々と受け継がれる国としての誇りがあったからだと推察される。


 プロイセン帝国はアランチウス島の戦いでロドシン帝国のキングスレイに敗れたとはいえ、レベル7の魔導士であるブリュンヒルデを保有する。それだけではなく、あそこは魔導士の教育に力を入れ、世界で最も統率された魔法軍を持つとされている。

 その団結力こそが、ロドシン帝国と隣接していながら、現在も独立を貫けている要因だろう。


 ベネチス王国はプロイセン帝国の南部。大国の最南端に位置する国で、国全体が複雑な海路に囲まれているため、大国であっても容易に手が出せない複雑な地形になっており、独自の文化を築いている。

 レベルこそが戦闘においては絶対だが、戦力が拮抗している場合には地の利というのは活かされる。


 ジオバニはアルスン帝国の東部に位置する東方の島国で、これまでに一度も本国へと侵入を許したことがないという防衛力を誇る。本当に未知の国で、あのロドシン帝国すらも恐れていると言われている。


 最後に、世界には科学派という思想もあるが、これだけは理解できない。

 この思想は、魔法を使うことができない昔から存在する科学人こそが人間であり、魔法を使うことができる魔法人は人間ではなく、科学人が生きるために利用する道具であり、燃料である、という考え方だ。

 非人道的な実験を繰り返しているという噂もあり、世界から激しく断罪されたため、表面的に科学派をうたっている国はないが、実際に存在すると言われている。


 こんな感じで、世界には4つの思想が存在するが、今回のマシュープランで最も影響を受けたのは、大国などで主に掲げられている魔導士のレベルこそが絶対だ、という大魔導士派だろう。

 しかも、このマシュープランを提唱したのが大魔導士派に属するロドシンの学生だというのだから、世界が荒れるのも無理はない。


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