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王族に買われた少女の魔法基礎概論  作者: あかろう
アルスン帝国①
3/7

世界情勢と地形的優位性

王族というのはただ遊んで生活できる訳ではなく、それなりに職務というのは存在する。

しかし、王族の人数に対して与えられた職務というのはわずかなので、仕事をしたくなければ放棄することもできる。

実際、王族の中には何もせず、ただ自堕落な生活を送るだけの者もいる。

残念なことにそれは決して少数派ではないので、そんな人間として最低限の義務を果たせないような存在であっても王宮では浮くことはない。

ただ、そんな怠け者がいるおかげで俺は色々な仕事をすることができる。王族の職務として地方に行くこともあるので、そこで見聞きすることはどれだけ本を読むよりも勉強になる。



俺たちが暮らす世界には2つの大きな大陸があり、そこには昔、数百という国があった。

そう、数百という多様な国があったのは昔の話――今では統合……いや、侵略され、国はわずかに十数個しか残っていない。


魔法の出現が世界の在り方を大きく変えた。


高レベルの魔導士が存在するだけで安定して戦争に勝つことが出来る。場合によっては、その名前だけで戦争が行われずに勝利することも珍しくはない。

そういった形で、力のない小国は戦わずして大国に取り込まれた。

リスクとリターンを考えた結果、高レベル魔導士を保有する国を容易に戦争へと駆り立てた。


現在、高レベルの魔導士を保有していない国で独立を貫いている国はない。


魔導士のレベルは1から7まで存在し、最高位に当たるレベル7は世界に10人程度しか存在しないと言われている。


現在、大国と呼ばれる国々は必ずレベル7の魔導士を保有している。


しかし、そんな戦争も今では一段落、といった感じだ。

高レベルの魔導士を保有していない国で独立を貫いている国はない。つまり、現在独立している国は全て高レベルの魔導士を保有している、ということになる。

そうなると、簡単に侵略することはできず、リスクとリターンの割合を考えた場合、簡単には手が出せなくなって冷戦状態に突入した。


そうさせたのが、数年前に起こった「アランチウス島の決戦」――世界で初めて起こったレベル7の魔導士同士による戦いだ。


俺たちが暮らすアルスン帝国の西部にある大国、ロドシン帝国とプロイセン帝国によるアランチウス島を賭けて行われた戦闘――。

オリハルコンの採掘地であるアランチウス島を保有することは大国である両者にとって重要な意味があった。


ただ、結果としてアランチウス島は消滅した。

レベル7の魔導士同士による戦闘は島を消し、地形を変えたのだ。


ロドシン帝国の皇帝にしてレベル7の魔導士でもあるキングスレイ

――。

プロイセン帝国が保有するレベル7の魔導士であるブリュンヒルデ――。


その2人の名を知らない魔導士はこの世界には存在しない。

アランチウス島の決戦はブリュンヒルデの負傷と島自体が消失して戦闘理由を失ってしまったことで終結した――だが、レベル7同士の戦闘は世界に衝撃を与え、それ以降の戦争を踏み止まらせた。


(レベル7……か)


アルスン帝国にはレベル7の魔導士が1人もいない。

だからこそ、皇帝は出生率を高め、是が非でもレベル7の魔導士を保有したいと考えている。


アランチウス島の決戦がなければ、もしかするとアルスン帝国は侵略されていたのかもしれない。ここ、帝都ウォシュバンはアランチウス島同様にオリハルコンの採掘地でもあるので戦略的な位置づけは高い。

しかし、アランチウス島の決戦のおかげで戦争に対して大国たちが少し慎重になっていることが、現在もアルスン帝国が独立を貫けている大きな理由だと考えている。


それほどまでにレベル7というのは次元が違う。

しかも、大陸最大の大国であるロドシン帝国は皇帝であるキングスレイを含めて4人のレベル7の魔導士を保有しているというのだ。

レベル7が1人もいないアルスン帝国では太刀打ちなどできるはずがない。


「アルスン帝国は地形的にすごく恵まれているんだぁ」


世界地図を眺めながらコゼットはふと、何かに気付いたように呟いた。

地図を用いて世界中の国の名前を覚えるのは学校のカリキュラム的にはもう少し先のはずだが、魔法戦術学が大好きなコゼットにとって地形が書かれた地図は欠かせない存在だった。


「どうしてそう思う?」

「だって、東と南は海だから、ここからは攻められないでしょう? 飛べる魔導士ってそんなに多くないし……で、北は険しい山だから、ここからも難しい……そうなると、西からしか攻撃されないから、ここ……西の町クリスタに戦力を集中させれば大丈夫」

「……」


本当にコゼットには驚かされる。

この圧倒的に攻められにくい地形こそ、アルスン帝国が独立を貫けている大きな要因だと俺も考えていた。

そして実際、コゼットの言うように西の町クリスタにレベルの高い魔導士が集まっている。


「正解?」

「あぁ、正解だ。そこには俺の姉がいる」

「お姉ちゃん?」

「そうだな……いつか会ってみると良い。アルスン帝国にいる数少ないレベル6で、戦乙女という二つ名は大国にも知れ渡っている魔導士だ」

「立派な人?」

「そうだな。強さはもちろんのこと、王族の中でも数少ない俺が信頼できる人の1人だ。もしも彼女が皇帝になるというのなら、俺はそれを支えたいと思う」


腐った人間が多い王族だが、中にはまともというか、国民のことを考えている者も少なからずいる。

その中でも第3皇女である姉、フリューレンは王族でありながら先頭に立って戦場に赴いて勇ましく戦う姿から「戦乙女」と呼ばれ、国民からの信頼も厚い。彼女が統治する西の町クリスタはかなり安定しているので、アルスン帝国自体がそうなることが理想だった。


しかし、そんな姉のことを、皇帝を含めてここにいる多くのクズたちは良く思っていない。

さらに厄介なのが、そんなクズたちの親衛隊にレベル6の魔導士が複数人いることで、それもあって、簡単なクーデター程度ではこの王宮は落ちないシステムになっている。


(もう少し時間が必要だな……)


戦力的に皇帝を倒すのはまだ難しい。

しかし、コゼットの助言を受けながら俺の魔法戦術の質を高めることができれば、少ない戦力でも勝利することが可能かもしれない。

そして、それによって世界の在り方が変われば、魔導士の質のみに頼るこの世界の通説を覆すことができる。


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