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第四.五話「史香ちゃん目線という名の天使」

あの楽しかた『けものバーベキュ』より二日前のお話、私はとても不思議な体験をした。


美津子おあばさんが亡くなってから数日後、私はいつものように小学校から帰ると真帆お姉ちゃんのいるであろう時間に家に行った。


普段なら真帆ちゃんは家にいるかしばらくすると帰ってきていたが、お葬式が終て学校が始まってからは帰りが遅くなっていた。


今日は特別授業で上級生の子達とおかし作りをしたので、クッキーをお土産に渡そうと持ってきたけど、直接渡せなかったので電話の横にあるメモを切り取り、「今日、学校で作ったから後で食べてね。 史香」と書いてクッキーの入った赤いリボン紐を巻いた袋の横に置いておいた。


近くの椅子に座りながら足をブラブラさせながら戻ろうか、もうちょっといようか迷いながら、何となく今日の調理実習の風景を思い出していた。


上級生がいるとはいえ、クラスの女の子達は上手くできる子もいれば失敗してしまう子も結構いた。


小麦粉や玉子を落としたりこぼしてしまったり、分量を間違えたり、手順を間違えたり焦がしてしまったり…。


いつも真帆ちゃんの側で料理やお菓子を作ってきた私は、上級生も驚く程手際よく作り終えた。


今回は自信もあったけど、何より「特別な気持ち」を込めて作ったから絶対食べてほしいな。


と思っていた。


同じ時間、外でサッカーをしていた男子達は教室に戻ってくるとお菓子の甘い香りに誘われて分けてくれ、と迫ってきた。


見栄えも良かったからか私の所に押し寄せてきて、余っていた五枚のクッキーを巡って

騒ぎ出した。


中には床に落ちたカスを食べようとして先生に必死で止められている子もいて、その場にいた皆で笑いあっていた。


私もまだ落ち込んでいるけど、こうやってクラスの子達と一緒にいる事で少しずつ気持ちが楽になっていった。


今思い出してもクスクスと口を手で覆いながら思い出しては笑いそうになってしまう。


そんな事を考えていると少し体を動かしたくなってきたので裏の山に登ってみかんジュースでも飲みながら待っている事にして、居間に置いてある箱の中から真帆ちゃんが来たら一緒に飲もうと缶を二本取り出し外に出た。






玄関を出て庭を歩きながら箱からジュースが全然減っていない事を思い出す。


お父さんが真帆ちゃんのために差し入れてくれたジュースで、真帆ちゃんはいつも大好きですぐ箱が空になってしまうのに…。


少しさみしい気持ちになりながら裏山の麓にある小さい祠の近くまで来るとぼんやりとだけど、『何か』が見えた。


別に遠くにいるという訳ではないのにはっきりとはk見えないその影を恐る恐るしっかりと見てみる。


さっきよりもゆっくり歩きながら祠の方を見ているとそれは小さい、『私と同じくらいの女の子』で、何かを祠に向かって話しかけているのが聞こえてきた。


「ねぇ、お願い神さま!ねぇったら、出てきてよぉ。もうちょっと大きくしてよぉ。もう一度、あの時の青春を、あの時の青春を…えっ?も少し時間かかるの?早くぅ。」


こっちからだと後ろからしかわからなかったけど、長くて黒い髪の毛にどこか見覚えがあった。


「こ…こんにちは。」


私は、恐る恐る声をかけた。


私もだけど、一応他の人の庭だし。


その女の子は裏山の麓にある祠の後ろにある大きな岩を叩いていた。


「ねぇ~、お願…。」


その子は岩を叩くのをやめてこちらを振り向いた。

最初は驚いていた表情だったけど、すぐに笑顔になった。


「あれ?史香ちゃん!」


その子は私を見ると体の向きを変えて笑顔で

駆け寄ってきた。


私は知らない子だったので驚いたけど、よく見るとどこか真帆ちゃんに似ていて、初めて会ったような気がしなかった。




「私の事わかる?…って、私の見た目随分変わっちゃったからわからないかな?」


和服を着ていて、真帆ちゃんのようなおっとりした顔に目の下のほくろ…。


私は目を丸くするほど凄くびっくりした。


「もしかして…美津子おばさん!?」


「当たり!あそこの神様にお願いしたら若くしてくれたんだけど、ちょっと若くなりすぎちゃったからもう少しだけ大人にしてってお願いしてたとこなんだけどね、時間かかるって言われちゃって…。

これはこれで気に入ってるんだ。当時一番お気に入りだったこれをまた着れたし、かんざしまでしちゃったりして…。



私は突然の事すぎて理解できなくて、何も言えなかった。


「でも、皆には私の姿見えないはずなのに、何で史香ちゃんには見えるんだろう?…はっ!もしかしてあなた…事故で…なぁんてそんな事はないか、ってあれ?どうしたの?」


気が付くと、私は目から大粒の涙を流していた。


ただ驚いただけなのか、違う見た目になったとはいえ、大好きだった人にもう一度会えたからなのか…そのうちにわんわん泣き出してしまった。


「ごめんね、いじわる言っちゃったからかなぁ。ごめんねぇ。」


それでも泣き止まない私を見ておばさんは、


「史香ちゃ~ん、そろそろ泣き止んでくれないかなぁ?ほら、みかんジュース持ってあげるね。涙もほら、私の袖で拭いていいから。」


私はおばあさんの差し出された右腕の袖を顔に当ててゴシゴシ拭いた。


「チーン!」


「ちょっとぉ!私の袖で何勢い良く鼻かんでるのよ!?」


「にひひぃ~。」


「またそうやっていたずらっぽい顔したって許さないんだからねぇ!」


涙がま止んでくると、つい昔よくやっていたいたず『袖チーン!』を思い出し、やってしまったのだった。


おばさんは怒ってたけど、私は何だか懐かしくなって嬉しくなってしまった。


おばさんは走って追いかけた後、嬉しそうに笑っていた。


「楽しい!久しぶりにこんなに走れたぁ。やっぱり若いっていいなぁ。ねぇ、上に登らない?」


「うん!」



私はおばさんと手を繋ぎながら山の上まで数十段の階段を上っていった。


「おばさんと真帆ちゃん、やっぱり似てるね。」


「ねぇ私、せっかくこの姿だし、おばさん

やめてよぉ。美っちゃんとかでお願いしたいなぁ。」


「えぇ、言いづらいなぁ。」


そんな話をしているうちに階段を登り終えて藤村のおじさんが作ってくれたベンチに並んで腰掛けた。


「あ~、やっぱりここは気持ち酔いなぁ。あっ、預かってたみかんジュース。もう一本は真帆ちゃんの?」


「…うん、でもまだ帰ってこないから美っちゃん飲んでいいよ。」


「ううん。私は大丈夫だから真帆ちゃんにあげて。」


私たちはしばらく山の上からの眺めを楽しんでいた。


少し間を開けてから美っちゃんは両腕を上げて伸びをしながら穏やかに話し始めた。


「う~ん!まぁ色々大変な事とか苦しい事もあったけど、何だかんだ充実してたし、楽しかったなぁ。」


本当に楽しかったんだな、と思っていると、今度は静かに呟いた。


「出来ればもうちょっと真帆ちゃんといたかったんだけどなぁ…いたかった名ぁ…。」


「ねぇ、美っちゃん、どうしたら早く大人になれる?」


「ん?どうしたの?そんなに焦る事もないとは思うけど…。」


「私…私…、何も出来ないんだ。」


「…何もできないの?どうして?」


「だってね…私…真帆ちゃんがあんなに苦しんでるのに何も出来ないんだよ。何も…力になれなくて…。もっとね、大人になれてたらきっと…色々してあげられるのにって…。」


私の右隣に座っていた美っちゃんが、今度は左の袖を何も言わずに貸してくれた。


それからの私は袖に顔を押し当てたまましばらく泣き続けた。


顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった頃、美っちゃんはゆっくりと穏やかに話しかけてくれた。


「いいなぁ。真帆は、こんなに想ってくれる子がいて。私が若い時は近くに哲っちゃんくらいしかいなかったし…。」


そう言い終えると、美っちゃんは何かのスイッチが入ったかのように話し始めた。


「私が友達の事で悩んでると、急に哲っちゃんが近づきながら股間を股に挟んで「あらぁ、美っちゃんどおしたのぉ?悩みぃ?話してみなよぉ。楽になるよ。女同士隠し事はなしって事でぇ。』

なんて言ってきたからその場でひっぱたいてやったわよ。」


「それから学校の成績が下がって落ち込んでた時は普段した事ない眼鏡をしてきて、手には哲学書なんか持ちながら『よし!今日から俺が勉強を教えてやる。どんな教科でもいいぜ。…何だったら恋愛でも…いいんだぜ。』って私の方を見つめながら歩いてたら急にいなくなって、近くを見たら哲っちゃんドブ川に落ちてたのよ。眼鏡かけたら周りがぼやけて見えなかったみたいで。」


「あ、あとあれもあったわ。陸上競技大会で負けて悔しがってたら、近くのお寺から持ち出してきた警策を持って『喝ぁつ!大会に負けたのはお主の根性がたるんでるからじゃ。私が叩き直してやる。ん?お主の後ろには邪気が取り付いておる。私が払ってしんぜよう。喝ぁぁぎやぁぁぁ!』って、最後はお寺の住職が飛んできて首根っこ捕まえてお堂

中に三日間閉じ込められちゃってたみたい。」




私は美っちゃんの話を聞くうちに、泣きながらくすくす笑い出し、最後には大きな声で笑ってしまった。


「まぁ、哲っちゃんの話はこれくらいにして、史香ちゃんは本当に真帆ちゃんが救われてないと思う?」


「うん…だって最近帰ってくるの遅いし。」


「いい?確かに大人じゃないとできない事はあるけど、大人じゃできない事だっていっぱいあるんだからね。」


「…そうなの?例えば?」


「例えばこうやってぎゅーっとしたりとか!この感触は大人では味わえないのよ!んー、たまらん!」


「キャー、くすぐったぁい。あと鼻水付いたぁ。」


「あなたのでしょうが!」



その後は二人でみかんジュースをこぼしそうになりながらも笑いながらふざけあっていた。


それがなんとも心地よくて懐かしかった。


そうだ。いつも美津子おばさんに相談すると最後にはこうやってふざけながら悩みなんてどっかに飛んでいってしまうのだった。


おばさんはいつもこうだったな。


いつも言葉にはしなくても『皆が一緒だから大丈夫だよ。楽しくやろう。』って背中を押してくれた。


学校で友達と喧嘩した時も、お母さんに怒られた時もいつも次の日には明るい気持ちで過ごす事ができた。


ふと美っちゃんが顔を門の方に向けた。


「ほら、噂してたら帰ってきたよ。迎えに行ってあげて。あっ、私の方もそろそろ体が大きくなり出した!」


真帆ちゃんに会いに行きたいけど美っちゃんの事も気になる。


「わぁ!真帆ちゃんよりも綺麗。私もそんな

大人になりたいな。」


「いいでしょう~史香ちゃんも後少ししたらこんな風に美人なお姉さんに…って、体は大きくなってってるのに服の大きさが変わらなぁい、何でぇ。」


私は「きゃはは」と笑った後、階段を降り始めた。


階段を降りながらふと、後ろから声がした。

「史香ちゃんありがとね。これからも真帆を…。」


「あっ、美っちゃんありがとう!また会いた…。」


後ろを振り返って手を振ったけど、そこにはもう誰もいなかった。


私は小さく手を振って「ありがとう」と言った後、階段を駆け下りるように急ぎながら真帆ちゃんのいる門まで走っていった。


「真帆ちゃ~ん!!」


「あれ?史香ちゃん、来てた…ぶふぉえあぁ。」


私が思いっきり抱きつくと真帆ちゃんは変な声を上げた。


「ごめんねぇ、遅くなっちゃって。待っててくれてありがとう。山の方から来たように見えたけど何してたの?」


「『チーン!』しちゃったぁ。」


「えぇ!?どこにしたの?鼻水爆弾、もう!アイロンかけたばかりなのに。」


真帆ちゃんは私を引き剥がそうとしたけど、私はぐっと強く抱きしめ続けた。


「何よぉ。今日はいつもより甘えん坊さんじゃなぁい?ばぶ香ちゃん。」


「真帆ちゃ~ん、にひひぃ。」


「はぁ、本当に可愛いね史香ちゃんは。癒されるなぁ。」


「そうだ、今日ね学校でクッキー焼いたんだ。いつも真帆ちゃんのお手伝いいてたから全然難しくなかったよぉ。玄関のとこにあるから一緒に持って上で食べよ!」


「おっ!美味しそうね。いただこうかな。」


「行こう。みかんジュース上に置いてあるから。」

「えぇ?甘いの食べた後酸っぱいの飲んだら余計酸っぱいじゃん。紅茶にしない?」


「ううん。みかんジュースでいい。すぐ行こう!」


私はもしかしたら、と思って急いだ。


もしかしたら真帆ちゃんも小さくなった美っちゃんに会えるんじゃないかって思って。


でも祠や山の上、どこを見渡しても美っちゃんを見つける事はできなかった。


でも、また思い出して苦しむ姿を見たくない。


これでよかったのかもしれない。


幼くなった美っちゃんの話はいつか…いや、真帆ちゃんには内緒にしておこう。


信じてくれるかわからないし、それに一つくらい秘密を持っていた方が大人に近付けるような気がするし。


やっぱり、何を言われてもどうしても大人に憧れてしまう。


そうだ、習い事もしたい。


それに今日美っちゃんが着ていた着物を着たら大人っぽいかな、お父さんに色々頼んでみよう。


そんな事を思いながら私と真帆ちゃんは山の上でクッキーを食べながらみかんジュースを飲んで「すっぱーい。」と笑い合っていた。

ふと、急に真帆ちゃんが近くの地面を見つめて立ち上がった。


「あれ?何でこんなとこにかんざしがあるんだろ?…おばあちゃんが持ってたのに似てるけど…これ、史香ちゃんの?」


「ううん…。」


「そっか、じゃあ私もらっちゃおうかな。それにしても何かここ…何か変なのよね。」


「何が」


「さっきからね、どこか懐かしくて温かい空気に包まれてる気がして…。」


「そ…それは…そう!夕陽だよ。もう夏だし。」


「そうねぇ、おばあちゃんとよく見てたもんなぁ。うん、きっとそうか。」


私は真帆ちゃんの手を握って沈みそうな太陽をずっと眺めていた。


それから二人とも何も話はしなかった。


真帆ちゃんが何を考えているのかわからない。


だから私は更に真帆ちゃんの手を強く握った。


真帆ちゃんも強く手を握り返してくれた。


これが今の私にできる精一杯。


でも今はこれくらいで十分なのかもしれない。


きっとこれが「大人じゃできない事」なのかな。


大人でなくとも今の私にできる事をやっていrこう。


でも…やっぱり早く大人にはなりたいな。


そんなk事を考えながら私達は夕陽が沈み終わるまでただ静かにそれを眺めていた。

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