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75:それから少しの月日が経って

「聖女さま」


 声をかけられ、私は振り向く。これから昼の祈りの時間だ。


 マツリが消えてしまったあの日から半年が経った。

 私はこのところはずっと神殿にいて、毎日のように参拝者とともに祈りを捧げている。


 世界を救った彼女が、最後に自ら花を渡してくれたおかげで、私もまた「聖女」として扱われることになった。

 私を悪女のように語っていた人たちの目も変わって、私もアルベールたちも、マツリに後を任された存在のように思われている。不安を抱えた人々を慰めるために、少し前までみんなで国中を回っていた。


「どうかしましたか? ぼんやりとして」

「いいえ、大丈夫です」


 迎えに来てくれた神官に、笑顔を作って平気だと示した。


「よかった。今日も、マツリ様のことを何かお話ししてください。みな、聞きたがるでしょうから」

「はい」


 私やアルベールの存在で、みんな安心してくれる。

 そして次に必ず、マツリのことを聞きたがるのだ。


 私たちは彼女が聖女になって消えた日のことや、そうなる前のことを、問題ない範囲で話す。どれだけ高潔な人物だったか……それを表す小さなエピソードなどを。


 そうして話しながら、同時に気付く。私もアルベールたちも、マツリ・カルフォンという人についてちゃんと知らなかった。知ろうとしたこともなかった。


『一人の聖女が四人の神に選ばれ、世界の危機を救いました』


 皆が知る事実の裏で、一体どれだけのことが起こって、一番真ん中にいたはずの存在がどんな思いを抱えていたか。きっと私たちが正確に伝えられる日は来ない。


 だけどその後悔を隠して、今日も聖女マツリのことを話す。


 私たちは「白銀の聖女」と「白銀の騎士」の役目を誇らしく思ってる。

 だけど心のどこかで、本当に私たちでよかったのかも、あの日からずっと考えている。

 考えて――でも、答えをくれる存在はもういないって実感する。


「しかし、先日おっしゃったことは本当なのでしょうか。伝承にある黒い魔女と黒い騎士たちも、本当は守護神オトジたちと一緒に災厄に立ち向かったというのは」

「は、はい! そういう幻を見たんです。昔にあった出来事の記憶なんです」

「チドリさまがそう言うのなら、そうなんでしょうが……。人びとに発表するのはまだ待ったほうがいいでしょうね」

「そうですか……」


 「白銀の聖女」や「白銀の騎士」に選ばれたのが私たちでいいかはわからないけど、でも、選ばれたからにはやれることをやりたい。

 アルベールたちと話し合って決めたことの一つに、伝承にある黒い魔女と黒い騎士への誤解を解きたいってことがあった。


 すべてそのまま話すことはよくないと、中央神殿にいる子供の姿の神様に言われた。少し変えた形にするようにって。


 それから、今はまだ話すべき時期ではなないとも言われた。

 発表後に混乱する人々を上手く収められるだけの信頼を、私たちが勝ち取ってからだと。


 マツリのおかげで「白銀の聖女」として認められた。アルベールたちも「白銀の騎士」だと疑う人はいない。でもこれまでの常識を覆すことを言って、手放しで信じてもらえるほどの信用はない。

 それは、自分の力で手に入れていかなきゃいけない。


 マツリのおかげで認められた私たちだけど、手放しでじゃない。

 私たちが、守護神オトジやマツリたちの期待を裏切るようなことをしないか、みんなから冷静な目を向けられてもいる。未熟な私たちがとっていた行動を、みんな知っているから。


「たしかにあの光景は黒い魔女と黒い騎士のようにも見えました。マツリ様も、あの方を守っていらした神たちも、黒い格好をしていましたから」


 神官はあのとき中庭にいたらしい。

 私は力強く「そうですよね」と言っておいた。


 選ばれてしまった者として、私もアルベールたちも、できることを探してやっていきたい。

 それがいつか、世界を救いたい神様たちの力になる日がくるかもしれない。


 そうなることを目指して、今日も私は聖女としての務めに励む。


     ***


「跡取りには、カルフォン家の親類の息子を据えることにしているわ。まだ正式にお披露目はしていないけれど。優秀な青年で、カルフォン家の関わっている研究所にも熱心に顔を出しているの。だから……何も心配されるようなことはないわね」

「よかった。カルフォン家の跡取りがどうなるのかは、気になっていました」

「万が一のときの保険を何も用意していないわけがないでしょう?」


 イザベラらしい。

 でも、跡取りの保険というのなら、もっと相応しい人間がいたのでは。「白銀の聖女」に選ばれた者が跡取りになれば、カルフォン家の事業にも良い影響が出るはずだ。

 私がそう考えたのを、彼女も察したようだった。


「私と同じ体質を持つ子は、この家にいては幸せになれないと思っていたわ」


 昔を思い出すように遠い目をしてそう言うと、イザベラはそのままだったお茶に口をつけた。緊張を解すように。

 私の前にもカップはあり、彼女のお気に入りだというお茶が振る舞われていた。

 今日は晴天。窓から差し込む光が、カップの中のお茶に反射している。


「私たちは、魔法石を使わない道具の開発を人生の最優先事項と決めてしまっていた。だから、どうしても封印祭で『聖女』を出したい。そんな私の元では、きっと幸せにはなれない」

「手放そうと最初に提案したのは私だ。わが子を見るたびに病んでいくイザベラを見ていられなかった。もし責められるとしたら私だ」


 イザベラの隣に座るマックスが、まっすぐと私を見て言う。


「あのころのイザベラは、子供の歩む道が自分の辛い半生と同じになるとしか思えずに苦しんでいた。それを支えられず……完全に否定もできなかった私の責任だ」

「私は、誰かを責めるためにここに来たわけじゃありません。私が簡単に口出しできることでもない。ただ、思い残していたことだったから」


 中途半端に放り出してしまった気持ちがぬぐえなかった。

 事情を詳しく聞く前に――きっとこれから詳しく聞かせてくれるつもりだったんじゃないかという二人を置いて、いなくなってしまったから。


 心残りだったから彼らを訪ねた。だけど話を聞いたところで、それが何かの解決になるわけじゃない。

 何もかも望むことはできない。完ぺきな答えを見つけることはやはり難しいんだと、ここでも実感する。


「チドリのことは今は……」

「二十年近くの間に、変わるものもあるのね。今の私たちならば、きっと同じ選択はしないでしょう。だけど変わったのは、あの子も同じ」


 窓の外を見ながら言うイザベラは、穏やかな顔をしていた。


「あの子が今の両親たちとうまくいっているのなら、あの子にとっての両親はその二人。それでいいの。きっといつか、私たちの作った道具を手にして便利だと思う日もくるでしょう」


 そして、私に向き直る。


「……たまには、顔を見せなさいね。あなたが守った国をきちんと見守るのも、仕事だわ」


 彼女と話していると、まだこの家の娘であるかのような錯覚をしてしまう。

 不思議な感覚に包まれながら、私は頷いた。


「ええ。イザベラおばさま」




 屋敷を後にして向かったのは、すぐ近くにあるカルフォン領の港だ。

 今日は別の領域へと向かう船が出る日だった。


 フードで顔をできるだけ隠し、人気のない端っこのほうで、私は約束していた二人と落ち合う。


「これ、船の中で食べて。実家で扱ってる人気のお菓子なんだよ」


 イヴォンヌが可愛いらしい包装紙にくるまれた包みを渡してくれた。


「どうしても行くの?」

「もともと私たちは、色んな場所を回り、人の力ではどうしようもできない問題を解決するために、力を持たされている存在だから」

「そっか……」

「神の生態って謎だわ。それだけ聞くと、なんだか人間の組織みたい」

「そんな大げさなものじゃないけどね」


 エリカの表現の仕方にちょっと笑った。

 実際のところは、単に大きな力を持った存在が、気まぐれに何人かの神に力と使命を与えてみたってだけだ。


「上司にあたる存在は、もうこの世界にはいないんでしょう? 好きに過ごしてもいいじゃない」

「それでも、私たちの仕事みたいなものだから」


 この国にあった問題は解決した。だから次の場所へ。昔からそうしてきた。


 実は他にも理由はある。

 人間に転生した神を捧げることで守護神オトジは狂うのを止めた。

 だけど同意の上とはいえイレギュラーな方法を取ったのも事実。私たちに予測のできない問題が未来永劫発生しない、とまでは言い切れない。

 もしものときのために何かできることはないか、探しておきたいというのもあった。変わってしまった世界のことも、詳しく知っておきたい。


 それにいまこの国は、私たちには少々過ごしにくい。カルフォン家の娘は神に捧げられてしまった上に、その顔は神殿巡りである程度知られている。一緒にいた付き人の三人もだ。

 誤魔化せないわけじゃないけど、今はあまりに人びとの関心が高すぎる。


「無理だっていうのはわかってるけど。でもあなたたちがここに留まって、聖女の役をやってくれたらよかったのに。裏で何があったか知られないで、チドリとかアルベールたちが聖女だの騎士だのって持ち上げられるの、私はやっぱりちょっと不満よ」


 口をとがらすエリカに苦笑する。なんと返そうかと思ったら、代わりにイヴォンヌがおっとりと、でもはっきりと言う。


「自分が本当はふさわしくないって心のどこかでわかったまま大役をこなすのは、苦しいことでもあるんじゃないかな? もしその自覚がないみたいだったら……私たちで役目を果たす人の交代を提案してみるのもいいかも。マツリと仲良かった人間がそう声を上げれば、多少は聞いてもらえると思うんだ」


 穏やかに言うから、一瞬チドリたちを認めているかのように聞こえたけど。


「イヴォンヌったら、私より過激ね。ふさわしくなければ聖女交代、なんて思いつかなかったわ」


 エリカが指摘してくれた。


「だって、仕方なかったところもあったかもしれないけど、あんなに悪いことしてませんって顔でマツリをないがしろにするような行動をとってたこと、私まだ納得できそうにないんだもん」

「私もよ!」

「だから私は、旅立つマツリたちの代わりにチドリたちの行動を見とくの。『白銀の騎士』とか『白銀の聖女』にふさわしくないことをしたら、ちゃんと声を上げるために」

「いいわね。せっかくマツリが頑張ったんだから、それを壊すようなことはさせないようにしないと! ……って、なんでちょっと嬉しそうなのよ」


 まったく、とわざとらしく怒るエリカにごめんと謝った。

 嬉しそうにした自覚はなかった。でもまるで私がただの人間かのように、私のために怒ってくれたり、考えてくれるのがとても……。


 ――乗船の方はお急ぎください!


 離れたところでそんな呼びかけが聞こえた。


「そろそろ行かなきゃ」

「寂しくなるね」

「旅の安全を祈っててあげるわよ……」

「ありがとう」


 胸が締め付けられるような心地がして、私は何か最後にできることはないかと考えてみる。


「そうだ、これを」


 私は耳につけていた赤い石のピアスを外すと、一つずつエリカとイヴォンヌに渡した。

 あの日つけていて、そのまま持っていたものだった。


「大した力はないけど、その石はお守りくらいにはなるわ」

「いいの?」

「うん」


 二人は、マツリ・カルフォンにとって何の損得もなくできた初めての友人だから。このくらいは許される。


「これを祀ってれば、お店が大繁盛したりする?」

「さ、さすがにそれは無理な気がするわ。火事から守るくらいはできるかもしれないけど」

「じゃあ飲食を扱うお店だと安心だね」

「……イヴォンヌの好きにして」


 彼女の家を継ぐのはたしか一番上の兄だけど、イヴォンヌもなかなかやり手の商人になれそう。

 エリカのほうはピアスをぐっと握りしめすぎていて、怪我をしないかとはらはらする。


「神話の研究のために、私も別の領域に行く予定なんだから。そうしたら、また会えるわよね」

「会いたいと強く思ってくれたなら、きっと」


 湿っぽくなるのも嫌だから、最後は笑顔で軽い挨拶をする。

 じゃあね、と言って私は二人と別れ、待たせていた三人の元に戻った。


「別の場所に行くのは久しぶりすぎるぜ。知ってる景色は残ってんのかな」

「私の好きだったお茶、今もまだ飲まれてるかしら」


 ラージェとナケイアの手にあるのは、これから行く領域についての案内書だ。もう満足したのか戻った私に渡してくる。というか読み終わったのを押し付けられた。二枚もいらない。


「イラのやつ、あんな遠くから見送ってる」


 ラージェが目を細めて遠くを見つめる。

 物語の最初に、チドリが街を見下ろしていたあの丘の上だ。同じように目を細めてみるけど、誰かがいるのかどうかもわからない。この距離で存在を確認できるのはラージェの目だからだ。


 あの日、イラ・バルドーはひっそりと姿を消した。

 騒ぎにならなかったのは、ならないように彼が手を回していたのだろう。中央神殿で大神官と話があると言っていたのはそれだったのかも。


 だけど彼はこれからもときどき人の形をとって、こっそりとオトジ国を見て回るらしい。自分が守っている世界の一部を、実際に目にしておくために。


 私たちが封印されている間に、世界のかたちは少し変わった。大きな力を持つ神々はほとんどが去って行き、残りのものもほぼ眠りについた。そしてあの「文明の壁」という仕切りができた。


 その変化が、以前とは少し違った影響をもたらした。

 ただそこに在るだけで何もできなかったオトジが、ああやって少しだけ力を自由にして、この国を見て回るくらいはできるようになっていたのだ。

 彼曰く、ずっと傍で眠っていた私が少しずつ彼の力を吸収してしまったのも関係しているらしい。私自身に、強くなった自覚はあんまりないけど。


 あとは……。


「しっかし、あの仕切り、人間だけじゃなく神の移動も阻むとは面倒この上ないぜ」


 そう。大きな力は領域間を移動できない。

 つまり神が他の領域に行きたければ、こうやってちょっと不思議な力を持つ程度の体になり、船で移動することしかできないわけだ。

 まるで旅行にでも行く気分だ。というか、イラにはのんきに土産話を期待されている。自分がこの領域から離れられない分、私たちからいろんな場所の話を聞いてみたいらしい。小さな自由を得た彼は、自分が知ることができなかったものへの好奇心を少しずつ満たそうとしている。


「マツリ」


 傍らのラクサが私を呼ぶ。


 人間として生まれたマツリ・カルフォンは神に捧げられた。

 そして神としてのマツリは蘇った。

 一部の力をオトジに捧げた形で、私は蘇ったのだ。


 心のどこかでそうあればいいなと思っていた結果で、でも本当にこんな風に理想的な結果に終わるとは予想していなかった。イレギュラーな手段をとった私は、神としても蘇らず、ただ意識をなくしたまま在り続けるのかと思っていた。


 この奇跡みたいな結果が、一体どうして生まれたのか、正確にはわからない。

 私がオトジの力をいくらか吸収してしまっていた影響だろうとイラは言っている。

 けど私はそれだけじゃなくて……もしかしたら、あのとき国中から集まっていた人々の祈りの力も少しは影響してるんじゃないかと思ってる。


 だってあのとき、私は感じたのだ。

 守護神オトジに向けられる祈りとは別の、あの祭りの日に聖女となる者へ捧げられる、たくさんの気持ちを。

 いいものも悪いものもいろんな気持ちを内包されたそれは、大きな力となって私を包むかのようだった。


 かつて白い聖女と呼ばれた人間が、本当に聖女という役にふさわしくあってくれたからこそだと思う。

 守護神オトジの封印を解き、改めて聖女を捧げ直すのは、きっとあの日で正解だった。


 今も私のある部分は神殿で眠り、そしてある部分はソア山のオトジの元で眠っている。すべてが繋がっていて、すべてが同じ私だ。こうして自由に動き回る私も。

 今の私の瞳は、赤いのを黒く擬態している。ラクサと同じように。


 人間には理解しがたい在り方なので、エリカやイヴォンヌたちに説明するのはなかなか大変だった。今でも完全に理解したかはわからない。

 私が人として生まれていた事情もすべてを教えるわけにはいかないから、曖昧なままだ。彼らはみんな、なんらかの事情で神の私が人に転生し、ひそかに世界を救ったのだということだけ知っている。

 本当は私の正体を明かすつもりもなかったけど……でもやっぱり、心残りだったから。ラクサたちと話し合って、少数の相手にだけ教え、そして挨拶をしてきた。


「行きましょう。そろそろ船が出るわ」


 三人を促して、みんなで予定の船に乗る。

 甲板の手すりに各々好きな体勢で寄りかかり、四人で言葉少なに水平線を見つめた。


「この国を離れるのは寂しくないか?」


 ラクサの質問に、しばし考えた。


「寂しくないって言ったら嘘。でも、私が一番いたいのはラクサの隣なの」


 なにか一つを選ぶとしたら、やっぱり彼になる。記憶があろうとなかろうと、手放したくないと一番強く願ったものは彼の存在だった。


「……恋って怖い」


 手すりに置いた両腕に、顔を埋める。

 今みたいな台詞をこんな場所で本気で口にしてしまえるほど、恋は神をもおかしくする。


 ラージェの笑う声が聞こえ、ナケイアがからかうように肩を叩くのがわかった。……照れくさくて言えないけど、この二人の存在だって失えない。


 恥ずかしいけど、さっきみたいなおかしな台詞を気にせず口にして、からかわれる日が来たのが嬉しいとも思った。


「ラクサ?」


 彼の反応だけなくて、顔をあげてみる。ラクサは右手で口元を隠して横を向いていた。

 ナケイアが「気にしなくていいわよ」とぞんざいに言う。


「嬉しさを噛みしめてるんでしょ。ねえマツリ。恋がどんなものか、あとでゆっくり聞かせてね」

「え……いや、改めて語るものでも……」

「いいじゃない。減るものでもないでしょう?」

「あ、お前は俺に語ったりはしてくれなくていいからな!」


 何かを言いかけたラクサを制するようにラージェが言い、ラクサは心なしかがっかりしたようだった。

 そのままこちらに視線を向けた彼は、すっと私の耳元を撫でる。


「ピアス、あの二人にあげたのか」

「ああ、うん。ちょっとしたお礼に」

「目的地に着いたら、代わりのものを俺が用意したい」

「えっ、お、お願いします……?」


 ラクサがあまりに甘ったるい顔をしてるから、調子が狂った。なぜか敬語になったし、疑問形になった。

 ナケイアとラージェが笑うから、私はまた自分の腕に顔を埋める。


 あたりに鐘の音が響いた。ラクサが呟く。


「出航だ」


 船が動き出す。私たちを乗せて、新しい場所へ運ぶ。

 新たな出発の気分でもあったし、長く中断されていた旅が再開した気分でもあった。

 ずっと背負ってきた何かを、ようやく下ろしたような気がする。


 これから行く場所では、一体なにが待ち受けているんだろう。


 もしかしたら……世界を救いたいとあがいている人間がいるかもしれない。


 その人間が周囲に悪役みたいだと思われて苦労している令嬢だったら、肩入れしてしまうかもしれないな。


 だって世界を救いたい悪役令嬢の苦労なら、きっと誰よりわかると思うんだよね。






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