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06:赤い瞳の誰か1

 家具も装飾品もない、ただ広いだけの円形の広間。

 見上げれば、天井は高く、丸いドーム型になっている。

 灯りとなるものは隅の方に置かれた燭台のロウソクの炎だけだ。綺麗に磨けあげられた石造りの床は、このほのかな光を反射していた。


 私以外にも複数の人間がいた。

 光の加減かなんなのか、誰も顔も髪型も判別できない。性別さえもわからない。ただ、真っ黒な服に身を包んだ者と真っ白な服に身を包んだ者が何人かいることだけがわかる。


 一番近い場所にいた真っ黒な人物が棒のようなものを構えた。

 剣だ。

 その切っ先は私に向いている。暗くてほとんど視界が利かないというのに、それだけはっきりわかった。


「騙したこと、怒ってる?」


 あざ笑うような声音で、私の意志に関係なく口から勝手に言葉が紡がれる。


「――――」


 相手が何か言ったはずなのに、聞こえない。


「――――」


 私の口からまた勝手に言葉が紡がれるけど、今度はなぜか自分が何を言ったのかがわからない。


 剣を構えた、黒い人物が体を動かした。光の関係か、相手の顔が見える。

 黒い髪に赤い二つの瞳。

 ()は、感情の読めない顔で私を見つめている。

 だけど視線が合った瞬間、何かが変わった、という感覚があった。


「君は――」


 あれ? 私に話しかけている?

 これは夢だと頭のどこかで理解している。自分が、自分でない人物になっているようであるのも。

 なのに目の前の彼は、「私」に話しかけたように思えた。


「あなたは、だれ」


 ……喋れた。さっきまで自分のものではない言葉を紡いでいた、同じ口で。

 赤い瞳の彼は少しだけ目を見開いて、それからちょっとだけ笑った。何かに気付いて、含むような笑み。

 そして彼の口が動く。

 

 もうすぐ、会える。




 目が覚めた瞬間、私はがばっと上半身を起こして周囲を確認する。ここは見慣れた自分の部屋だ。よくわからない広間じゃない。


 心臓がばくばくしている。

 さっきまで見ていた夢の光景が、脳裏にフラッシュバックした。向けられた剣先、そしてその剣を握る赤い瞳の男性。

 深呼吸してどうにか落ち着こう。あの夢を見るのは初めてじゃない。


 暗闇の中、慣れてきた目を凝らしてベッドサイドのテーブルの上に置かれた小さなランプに手を伸ばす。

 下についている赤い石に触れると、指の先に力を集めるイメージをする。

 ガラスの中で別の赤い石が反応し、オレンジ色の柔らかな光が灯った。


 二十歳の誕生日が近づくとともに、ゲームの始まりも近づく。緊張のせいか、ここ最近は眠りが浅くなっていた。

 そのせいなのか、変な夢を見る。

 どこか地下のような薄暗い空間に私と、何人かの人間がいる。そしてその中の一人が私に剣を向けている。私とその相手は何か会話を交わすのだけど、わかるのは最初の一言だけ。


 ――騙したこと、怒ってる?


 煽るように、見下すように私の口が勝手に言葉を紡ぐ。なぜそんなことを言うのか、全然検討がつかない。私じゃない、誰かの発した言葉。

 これまでは、そのよくわからない会話のあと暗転して終わりだ。

 なのに今日は違った。

 剣を握っている相手の顔を初めて見た。

 まるで人形のような、とても綺麗な顔立ちだった。あの赤い瞳は、しばらく忘れられそうにない。

 自分の意志で喋ることができたのは初めてだった。最後のほう、彼は夢の中の誰かじゃなく()()会話しているかのようだった。


『もうすぐ、会える』


 あれ、私に言ったってこと?


「まさか、そんなわけない」


 不安を誤魔化すように声に出して言う。静かな部屋で、私の声だけが響いてなんだか虚しい。

 気分を変えよう。台所で何か甘いものでも探そうかな。

 私の暮らしている屋敷は、首都郊外にあるこじんまりした別邸の一つ。イザベラたちが暮らす場所とは違う。そのおかげで、使用人たちとの距離が多少近くても小言をくらわない。

 私が夜中に眠れなくて屋敷の中を徘徊しても、見逃してくれる。ときには夜食が欲しくなるのも知って、台所におやつを置いてくれてたりする。夜中にわざわざ使用人を起こすのをためらってしまうから、勝手に食べられるようにしてくれているのだ。


 私はベッドから抜け出し、先ほどつけたランプを手に部屋から出た。

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