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48:孤児院への訪問

「すごく昔に、とても会いたいって思った相手に、似てる気がしたのよね」


 私の前に座った三人目の黒い騎士で悪神――ナケイアが、不思議そうに首を傾げた。私も同じように首を傾げる。

 第四神殿を出た私たちは、ナケイアを加えた四人で宿泊予定の屋敷へ向かう馬車に揺られていた。

 最初に顔を合わせたときこそ殺気を向けてきた彼女だけど、今はまったくその気配はない。

 落ち着いて対面する彼女は、おっとりとして優しげな雰囲気を持つ女性だった。


「あなたがその本人のはずがないって、冷静になればわかるはずなのにね。あのときはどうしてもそう思ったの」

「その、私に似ているって相手がどんな人なのかは覚えて――」

「ないわ」


 腰を浮かしたナケイアが私の顔に自分の顔を近づけて見つめ、そしてすぐにまた腰を下ろした。

 話していると、同年代の友人のような気安い感じがした。これはラクサやラージェも同じだ。三人とも年齢を探ろうと観察するとよくわからなくなってくるけど、少なくとも見た目や雰囲気は同年代のように思える。


「そもそも、あなたは私の会いたい相手に本当に似ているのかな。ずっと見てるとわからなくなってくる。だいたい、どうして自分がその相手に会いたいと思ったかも、思い出せないし……」

「急にマツリに抱きついたときは、俺らが知らない事実をお前が知ってるのかもって、一瞬期待したのに」


 ラージェが横から茶化すように言う。


「あなたたちが知らない事実? いろいろ教えてほしいのは私の方なんだけど? とりあえず黙ってついて来たけど、あの部屋が開かれた理由はまだちゃんと納得してないからね。あの部屋は、よほどの理由がない限り開くべき場所ではない……それだけは覚えてる」


 あの場でちゃんと事情を説明している暇はなかった。結構長い時間、ナケイアは無言で私を抱きしめていたから。痺れを切らしたラクサとラージェが引きはがしたあとは、「世界が危機だからとにかく着いてこい」みたいなことをラクサが一方的に告げたのだ。

 彼女は、おそらく長い付き合いとだけ記憶にある神様仲間の二人を信じ、こうしてここにいる。


「世界を救うために部屋を開けたって、本当よね?」

「嘘だとは感じてないんだろ?」

「……まあね。理由はわからないけど」


 そう言ってナケイアは私を見る。


「どうしてこんなに、信じていいと確信できるのかしら」

「私……?」

「うん。あなた」

 

 ――彼女が信じたのは、私だったらしい。

 そういえばラクサたちも、なぜか私を信じられると言っていた。たぶん私という存在をこの世界に生まれ変わらせた神に、関係するのではないかと思うけど……。


「私の会いたかった誰かに似ている気がするし、よくわからない行動をするのに、とりあえず従っておこうかって気になるし――」


 そこでふと思い出したようにナケイアが訊ねてきた。


「そういえば、神殿でのアレは本当によかったの? あの宝物庫とやらから出たあと、やけに神官たちがうるさかったじゃない。要は、あなたたち、あの部屋の鍵を勝手に持ち出して入り込んだんでしょう。ばれないように移動しようと思えば、できなくもなさそうだったのに」


 そう、宝物庫から出る際に盛大に目撃され、神官長の机を漁って勝手に持ち出した鍵を堂々と返して眉をひそめられる作戦は、一応きちんと遂行できた。


 なぜ宝物庫に入ったのか、鍵はどうやって持ち出したのか……戸惑いでいっぱいの神官たちに、私は堂々と「興味があったから」「たまたま見つけたので」とだけ、しれっとした顔で答えてやった。それ以上の説明はあえてしない。神官たちの微妙な表情はかなり居心地は悪かったけれど、同時にそれは私にとって作戦が成功したということでもある。そう思って耐えた。


 これで、私の知る物語通りの展開に少しは戻るだろうか。

 ……そうであってほしい。


「あれは、計画通りだから間違ってはない」


 ナケイアの問いにラクサが答えると、「計画通り?」とナケイアが繰り返す。

 そのままラクサは説明するような空気を出したけど、気を変えたのか私にその役目を振った。


「ちゃんとしたことは、彼女から……マツリから聞いたほうがいい。俺たちも君と同じように記憶がほとんどないし、今行ってることは彼女の言葉に従ったものだからな」

「そうなのね」


 素直にナケイアが私のほうに向きなおる。彼女には純粋に教えてって気持ちしかないように見える。私を疑うような気配はみじんもない。

 殺気を向けてきたり、涙を見せて私を抱きしめてきた人が、今度は無邪気にそんな目を向けてくる。私は自分がどういう立ち位置で彼女に接するべきか迷った。


 私を抱きしめてきたときの切羽詰まった彼女の囁きが、耳から離れない。

 でもそれは、本来私ではない相手に向けたものだ。

 だから馴れ馴れしくしたら悪い気もする。でもラクサとラージェとは気を遣わない感じで接しているから、彼女だけ丁寧な態度をとるのもやっぱり失礼かもしれない。


「マツリっていうのよね、あなた」

「あ、自己紹介してませんでした……よね。ええ、マツリ・カルフォンといいます」

「ナケイアよ。よろしくお願い……」


 彼女はショックを受けたように訊ねてきた。


「ねえ、ごめんなさい、怖がらせたの? あの部屋で殺気を向けたから……。そんな丁寧に接しなくていいのに」

「そう……いうわけでもないんだけど。神様だし……」

「ラージェたちみたいに気にせず話して!」

「……わかった」


 気持ちを落ち着かせるために一呼吸置く。


 ――気になることがあったけど、たぶん気のせいかな。


 私は、前世と思われる記憶のことをナケイアに説明し始めた。

 



 次の日。

 私とラクサたち三人は、今度はこの地域にあるとある場所へと向かっていた。


「マツリの記憶にある物語の通りなら、この先で例の『白銀の騎士』たちやこれから選ばれる者たち、そして『白銀の聖女』となる女の子に会えるわけね」


 どこか楽しげにナケイアが確かめる。

 私の前世だとかゲームだとかの話を、驚くほどすんなり受け入れた彼女は、この世界を救うことになる人間にとても興味を示していた。


「あんまり期待しないほうがいいぜ。別に普通の人間だよ」

「そうなの?」

「まぁ、擦れてない感じはあるけど」


 答えるラージェはやや投げやりだ。


「ナケイア、朝も言ったけど君の立ち位置は上流階級の世話を焼く使用人に近いものだから。人前でマツリや俺と接するときは、丁寧な口調で頼む」

「まかせてよ。演技は苦手じゃないわ」


 今回もやっぱり、人を惑わすラクサの力で、ナケイアは遅れて合流した付き人扱いだ。ラージェと同じように地方の商人の娘。カルフォン家の繋がりで半ば無理やり途中から加わった、と白銀騎士団のまとめ役たちは思わされている。


 神を使用人とか……と悩ましい気持ちは相変わらずある。でもナケイアは大して気にした様子がなく受け入れたし、私もそろそろ感覚がマヒしてきたかもしれない。


「……見えてきたわ」


 馬車の窓から目的地が見えた。

 街から少し離れた、畑や原っぱに囲まれた中に、ちょっと古びた大き目の建物があった。ちょうど庭に当たる部分が見えているのか、洗濯物らしきたくさんのシーツが干されているのがわかる。


「カルフォン家が支援している孤児院か」

「ええ。現在の院長は、十数年前までイザベラおばさまの侍女をしていた人らしいわ。物語通りなら……だけど」


 ゲームだと、マツリはイザベラに言いつけられてこの孤児院を訪問する。

 だけど私は何も言われていない。前世の記憶がなければ、おそらくこの孤児院の存在さえ知らずに終わっていた。


 この日が来るまでに、イザベラから指示する手紙か何かが届くと思っていたのに。

 内心で首を傾げつつも、私は物語に沿うためここに来た。幸い、カルフォン家の支援する孤児院があるそうですがと話を振れば、厄介になっている屋敷の持ち主である商人は心よく教えてくれた。


「他にも馬車が止まっているな」


 ラクサに言われるまでもなく、私もその影に気付いていた。二台あるけど、知り合い同士で乗ってきたようだ。

 私たちの馬車が止まったとき、ちょうど先についた馬車に乗って来た者たちが全員降りて集まったところのようだった。

 建物の入り口にいた子ども数人が、何かを言われて中へと入っていくのを見ながら、私は馬車から降りる。


「マツリも来たんだ!」


 すぐに駆け寄ってきたのはチドリだ。

 私たちより先に二台の馬車で乗り付けていたのは、チドリ、そしてアルベールたち四人……違う、あと一人いる。イラだ。


 ここに彼らが勢ぞろいするのは、物語にもあった展開だ。イラがいるのだけは違う部分だけど、でも予想とほぼ同じ光景にほっとする。


「ここはカルフォン家が援助している孤児院だから。チドリたちは、どうして?」


 と聞きつつも、返ってくる言葉は見当がついている。

 偶然この場所を知って、特に予定もない今日、白銀騎士団として何かできることがあると思ってやってきた。そういう優等生な感じのこと。


 でも、なぜかチドリはうろたえて視線を泳がせた。


「えっと、私は――」

「ようこそいらっしゃいました」


 優しげな声に振り向く。

 建物の入り口の前に、かなり歳のいった女性が出てきて微笑んでいた。先ほど建物内へと入っていった子供たちが、彼女のスカートの後ろに隠れるようにしている。

 この人がおそらく、この孤児院の院長。かついてイザベラの侍女だった女性だ。


「どうも、私――」


 声をかけようとする前に、院長らしき女性は大きな声をあげた。


「ああ、来てくださるとは! 本当に嬉しゅうございます」


 そうして破顔した院長は私たちの元に駆け寄る。


 そして、迷わずチドリの手を取ったのだった。

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