表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/75

43:次の場所へ

「この世界が、物語の世界か」


 馬車の中から外の景色を眺めつつ、ラージェが何度目かになる呟きを漏らす。

 第三神殿周辺での滞在期間が終わって、今はまた各地の祭りに顔を出しながら第四神殿へと向かっている最中だった。

 予定通りなら、数日後には第四神殿近くの屋敷に着くはずだ。


 今日はラージェとラクサと三人で馬車に揺られながら、この辺りでは大きめの港町を目指している。海辺近くにある神殿で、白銀騎士団代表として私が祈りを捧げ、領主や街の有力者たちとの交流をするのが仕事だった。


「どうも実感がわかないね」

「マツリは記憶が戻ったとき、違和感はなかったのか?」

「気付けば持っていた記憶だったからかな、あまり感じなかった。当たり前のように受け入れていたの」


 あれから――第三神殿で大きな地震を経験してから、私はできるだけ急いで二人に自分にある前世の記憶を説明していた。少しでも知っていることを共有して、あの揺れの意味を知りたかったからだ。

 ゲームでもオトジ国を天災が襲う描写はある。だけどそれは四人の悪神が解放されたあとのことで、ほとんど間を開けずに黒い魔女が復活し封印されるのだ。今はまだ早い。

 だけど、私の話を聞いても二人はわからないと首を振った。神官の誰かが叫んでいた「神の怒りだ」という言葉が本当なのか、ただ偶然起こった揺れなのか、判別はつかないという。


 二度目の地震は起こっていない。もともと年に一、二回は小さな揺れを経験する国だから、今年はたまたまいつもより大きく揺れただけで、あれきりということも考えられる。


 結論は保留のまま、私たちはとにかく物語に沿って次の神殿で三人目の白銀の騎士の誕生と黒い騎士の解放を目指すことにしていた。


「なんていうか、伝説とか神話とかじゃなく数ある娯楽の一つってのが力抜けるよな。扱いが軽すぎ」


 ラージェが呆れたように言うのは初めてじゃなかった。


 私の持つ前世の記憶。この世界のことと思われる物語を読みこんでいたこと。

 その事実を説明されたラクサも彼も、私がかつて別の世界で生きていたということに驚いていた。同じ世界で生まれ変わるのと、別の世界で生まれ変わるのとでは事情がかなり違うという。後者はあり得ないレベルで難しいらしい。


 そして私が知るこの世界の未来が、娯楽として楽しむゲーム内で語られた物語、というところにも驚いていた。

 これは私も理解できなくはない。未来予知をしました、とか、前世で神に啓示を受けました、なんていういかにもって感じの神秘的な出来事じゃないんだ、というような。


 でも現実として、私はゲームで得た情報から二人の白銀の騎士を誕生させ、さらにはラクサとラージェを解放した。

 最近三人だけになると、私の話した物語についての会話になる。

 大抵は、同じ疑問と同じ結論を繰り返すだけになるけど。


「こことは別の世界が存在するのは確かなんだ。そして、この世界のことがどういうふうにか伝わっている可能性もある。偶然その知識を得てしまう人間がいて、自分の想像だと勘違いして物語として記す可能性も……なくはない」


 そういうラクサは、自分で言っておいて半信半疑という様子だった。ラージェのほうも「ありえなくはねえけど……いろいろ奇跡みたいな可能性だよな」と懐疑的だ。


「ここ以外の世界って、大昔にこの世界の神たちが去っていったところでしょ?」


 大昔は神がもっとたくさんいて、いすぎて、互いに争って世界をめちゃくちゃにするかもしれないと気付いた。それだけの力を持った神たちがいくつもあったのだ。

 だが神たちは世界を壊すことは望まず、世界を人間に託して他の世界へと旅立っていった。そのときに世界の在り方は変えられ、各海域を「文明の壁」が隔てた。

 残った神もいるが、ほとんどは眠りについていたり、ただ人を遠くから見守るだけになったとされている。


「私の前世の世界にいた神様が、この世界のことを記したってことはないのかしら。誰かに救ってほしくて、ゲームをやりこんだ人間をこの世界に送り込んだの」


 私の仮説にラージェがすぐに首を振る。


「それはないだろ。別の世界のことなんて普通は干渉することはないし、できないはずだ」


 相変わらず、自身とは関係ない部分では妙なことは知識として知っている。神としての在り方みたいな部分については、二人曰く、感覚的にわかるらしい。


「第一、人間が神と呼んで想像するものと実際は違うんだぜ。俺たちはちょっと人間とは違う力を持った、ただそういう存在。何でもできるわけじゃないし、力あるものの義務みたいな感じで人を守ることもあるが、それだけ。しかも全員が全員、その意識を持つってわけでもない」

「わざわざ自分のいる世界の人間の魂を別の世界に転生させるなんて、相当の力がなければ無理だし、危険も伴う。そこまでしてこの世界を救う義理があるかどうか」


 ラクサがそう補足する。

 滅びるも滅びないも、本来ならこの世界の中の者でカタをつけなければならない……って感じかな。

 けど、私は前世だと違う世界に生きていた。神は干渉できないけど人間の魂が行き来するならセーフ? そこらへんの基準は曖昧だった。


「じゃあ私がマツリ・カルフォンとして生まれてきたのは、この世界の神様が、偶然この世界のことを知る私の魂を呼び寄せたっていうのが、一番ありえるわよね?」

「まあ……」

「消去法で考えるとな……」


 それしかないと思うけど、この結論を述べるとき、二人はいまいち納得できない顔になる。


「たまたまこの時期の世界のことを、何らかのきっかけで感じ取る人間が別の世界にいて、それを物語に記して、さらにそれを読みこんだ人間がいて?」

「それをどうやってかこの世界の神が知って、魂を呼び寄せた、か」


 ラージェの言葉を継いだラクサは首をひねる。


「他の世界から魂を呼び寄せるなんて芸当ができる存在だって、そうはいない」

「ちょうどよくこの世界を知る魂に気付くってのも都合よすぎるよな。まあ、マツリには人じゃないものの気配を感じるのは確かだし、今のところ一番ありえる想像なんだけどさ……」


 うーん、と二人が唸る。


「せめてもう少し記憶や力が戻った状態ならなー。わかることも多かったはずなんだけど」


 ため息交じりのラージェの言葉に、ラクサもつられたように息を吐く。


「俺たちが封印された理由も、マツリの言葉通りなら封印祭の最後に黒い魔女と共に封じられる理由も、ある程度予想できただろうな。今は無理だが」

「わからないのに……受け入れるのね」


 ラクサはもちろん、ラージェも、彼らが世界の敵として封印される可能性を知っても、恐ろしいほど冷静に受け入れていた。

 それが世界を破滅から救うなら構わない、と。

 まるで呪いでもかけられたかのように、そこだけはぶれない。


 さっきラージェは神とは別に人間のために存在するものじゃないみたいなことを言っていたけど、それなら二人は相当人間びいきな神様だと思う。

 おそらく何とも言えない表情をしていた私とは対照的に、ラージェが明るくなんでもないことのように答えた。


「闇雲に受け入れるわけじゃない。マツリの言葉は信じられる気がするんだ。不思議だけどさ。こういう勘ってのは、意外と何かと繋がってる。あんたがそれが正しい物語だって言うなら、俺たちが封じられるだけの理由が発生するのかもしれないな」

「とりあえず、マツリの言う……ゲームで語られていた物語の通りに物事を動かしていくしかないだろう」


 今回もやはり、この結論に辿りつく。私たちにやれることはそれしかない。


「おい、もうすぐ到着するっぽいぞ。……手、気を付けろよ。馬車の中を急に覗きこまれることはねえだろうけどさ」


 窓の外を眺めていたラージェが、私とラクサの間をちらりと見やる。たぶん、だいぶ前から気付いていないふりをしてくれていた。


「う、うん」


 並んで座った私とラクサの間に、無造作に置かれた互いの手。最初は何も考えずに置いていたけど、ふと指先に彼の指先が当たり、そして少しだけ重なるように絡んで……ずっとそのままにしている。


「まあ、まだ慌てて離すことはないけどな。てか、今離されると俺が邪魔したみたいだからやめろ」


 そう言われて、そっと引こうとしていた手を結局そのままにした。

 横でラクサが小さく笑った。


「お前にそういう細かい気遣いされるとは思ってなかった」

「ラクサさ、俺のことちょっと侮りすぎてない? やるときはやる奴だってことは覚えてるはずだろ」

「思いきりがいい奴、って記憶はあるかもな。雑だけどって注釈付きで」


 話題をうやむやにして逸らすかのように二人がふざけ合う。私も合わせて微笑みながら、複雑な気持ちだった。


 偶然のような、偶然じゃないような、そんな曖昧な感じにラクサと少しだけ触れ合う。最近、こういうことがちょっと増えたと思う。

 明確に示し合わせているわけじゃないけど、なんとなくそういう空気ができると、お互いに拒まない。空気を作るのは、たいていラクサのほうからだ。


 こうなったのは、第三神殿であの大きな地震が起こった少しあとから。彼らが祭りの終わりに再度封じられてしまうのだとはっきり教えたあたりからな気がする。


 ゲーム通りに破滅せず、カルフォン家の娘として生きていく可能性を考えるのなら、そろそろまずいと囁く自分がいる。だけど、私はあえて無視をしていた。

 ……でも別に、自分が破滅して終わることを覚悟したわけでもない。


 ラクサは、そんな私の自分勝手な部分に気がついている気もした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ