36:深夜の第三神殿
深夜の第三神殿。
私は与えられた部屋を抜け出し、ラクサと一緒に広間を目指す。
医者が話を通してくれて、私は怪我のため今夜は第三神殿にある客室に泊まらせてもらえることになった。たまに訪れる身分の高い者のために用意されているという部屋は、広くて、ベッドもふかふかだった。
そしてまたもや人外の力を発揮したのか、ラクサもなぜかちゃっかり別室に泊まることになっていて、夜中にほとんどの者が寝静まったあと、示し合わせて部屋を抜け出したのだ。
私の元の計画だと、神殿の敷地内にある会場で、交流のためのパーティーがあっている途中で抜け出す予定だった。そして、「隠し階段は祈りを捧げるための広間にある」というゲームの情報を元に捜索する。第二神殿のときと同じだ。
でも今回は、泊まっている部屋を抜け出して深夜に広間に行けばいい。これで私が目撃される可能性はぐっと減る。しかも隠し階段を探す必要がほとんどない。だいたいの場所は特定済みだ。
ゲームだとマツリの姿を広間で見かける騎士団員がいて、後にチドリたちに教え、調べたところ隠し階段が……という流れ。
今夜うまく見つからずに目的を果たせられれば、私が黒い魔女を復活させたとばれて大罪人として糾弾されたり、とばっちりで封印されて死ぬ可能性がまた減ってくれる。
だけどなんだか、嬉しいという気持ちはあまり湧いてきてない。
それよりも――。
「俺は多少、夜目がきく。君がよければ、例の場所まで先を歩いて案内するよ」
廊下で落ち合ったラクサとこそこそと会話を交わす。問題になったのは魔法石でできたランプのことだ。
私が部屋から持ち出したそれを使うか、使わないか。
「これはロウソクとは違ってすぐに消せないだろ。見回りの神官に見つからないよう進むなら、つけないほうがいい」
「大丈夫なの? ほぼ暗闇だけど」
「平気だよ。神殿って場所のせいか、周囲の気配が読みやすい。あ、君が転ぶときは俺のほうに倒れてきてくれ」
「了解よ」
なんてあっさり返事をした私は軽率だった。
暗い中、少しひんやりした彼の手に導かれて進む。障害物につまづかないよう、縦に並ぶ形で彼の真後ろを、彼に意識を集中させて歩く。
階段では、より慎重に。
ラクサが遠くに誰かの持つ灯りを見つければ、ぎゅっと握られることでそれを知らされ、把握したと知らせるために握り返して。
彼の提案は正しい。魔法石によるこのランプは灯りがつくのは早いけど、消えるときは込めた力が徐々に弱まるのに任せてだ。なので隠れながら進みたいときは不便。
灯りに気付いた相手がこちらに接触してくれば、彼が上手く誤魔化してくれるらしいけど、遠くから目撃だけして後日その事実をばらされて……となると面倒になる。
だからいい考えだと思って頷いた。
でも彼と手を繋ぎ進むのがどういうことか、想像が足りなかった。
「マツリ?」
「あ、ごめん。なんでもないの。強く握りすぎただけ」
思わず強く握ってしまって、彼が何かあるのかと立ち止まり、私は慌てて首を振る。
今は真剣に、集中しないといけないとき。それは理解してる。
でも一方で、手汗大丈夫かなとか、握り返す私の手の力の加減はちょうどいいのかとか、どうでもいい思考が頭を駆け巡っている。
もう少し、もう少ししたら、「やっぱりランプ使わない?」って言ってみようか。念のためにと灯りをつけていないランプは、彼と繋いでいないほうの手に持っている。
私の緊張が伝わったのか、彼が私を励ますように少しだけぎゅっと手に力を込めてくる。
「今は俺に任せて、安心していいよ」
「……うん」
今、手を繋ぐのをやめたら嫌がってるみたいだ。だから、もう少ししてから……とか考えているうちに、私たちは例の踊り場に着いていた。私がセルギイと倒れ込んだ場所だ。
「ここか」
「おそらくね」
自然に手が離れる。ほっとするのと、寂しいのと。なんとも我儘な気持ちになる。私、ちょっと変だ。
「どうかした?」
「な……なんでもない」
慌てて誤魔化すと、私はしゃがんで怪しい箇所を手探りで調べる。セルギイの手にした楽器のモチーフが彫られていて、今はもう何もなくなった部分。その近くを撫でるようにして触っていくと、気付くものがあった。
「あったわ」
魔法石で出来ている部分がある。範囲はあまり大きくない。
ラクサに報告するのと同時に指先に力を込め、すぐにがっつりと体の力が抜けるのがわかった。
「大丈夫か?」
「平気……それより、階段は……」
近くにまた地下への階段が出現しているのだろうか?
確認すると、彼は地下の物置に続くはずの階段を見下ろしていた。
「どうしたの……」
「マツリ、ランプを」
なんとか体を起こし、魔法石のランプの灯りをつけて彼の横に並ぶ。すぐに彼が見ていた意味がわかった。
地下の小さな物置きの扉に続いているはずの階段は様相を変えている。カーブを描くその階段の先は、おそらく物置とは別の場所に繋がっているに違いなかった。




