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18:一人目の白銀の騎士

 目の眩むほどの光が広間を満たしたあと、私の前に立っていたのは手に短い木の枝を握って放心状態のユウだった。


 やった。うまくいった――!


 何が起こったのか理解できていない彼を前に、歓喜の声を上げたいのを必死で我慢する。

 彫像の一部だったはずの木の枝は瑞々しい葉をつけた本物に変化して、さきほど触れた鳥のくちばしはもう何も咥えてない。


「今の光はなんだ!? 大丈夫かチドリ!?」


 アルベールの声が響く。周りを確認すると、驚いて言葉を失くしたらしきチドリがアルベールに向かって小さく頷いており、セルギイとファルークは険しい顔で周囲を確認している。

 そして私たちを案内してきた神官長は、ユウの手元に釘付けになっていた。


「ま、まさか……まさか神の意志が。ああ……!」


 駆け寄ってきた神官長は、ユウの持つ枝に手を伸ばそうとして引っ込める。おいそれと触れていいものではないと感じているのだ。

 意味が分かっていないだろうユウは、神官長の行動に不安そうに身を揺らした。

 すぐに他の面々も私たちの元にやってくると、アルベールが代表するように尋ねる。


「神官長、今の光は一体? それにユウが握っているのはなんなんだ?」


 みんな、戸惑ったように神官長とユウを見ている。セルギイだけは、何かに気付いたようにはっとした。祖国で神官を務めている彼は、神話についての知識が他の者より多く、説明されるより前に何が起こったのか気付くのだ。


「鳥が……鳥が告げたのです。白銀の騎士は彼に、と。そうですよね、ユウさま」

「いや、俺はただ鳥の像を触っただけで……」

「それこそ神の思し召しです!」

「神官長、『白銀の騎士』とはなんなんだ」

「本当か嘘かもわからない言い伝えです。七十年に一度の封印祭では、かつての白い聖女に白い騎士が寄り添ったように、白銀の聖女に寄り添う四人の騎士が神によって選ばれると……」


 それ以上は言葉にならないように、神官長は感極まった様子で「まさか」とか「そんな」とか呟きながら、無意味に腕を動かした。


「ユウ、その枝はどこから?」


 神官長にこれ以上の説明は望めないと思ったのか、アルベールはいまだ迷子のような顔をしているユウに訊ねた。


「わからない……。さっきも言った通り、俺は鳥の像を触っただけなんだ。だけど急に周りが光って、気付いたらこの枝を握ってて……」

「だからそれこそ! 神からのお告げなのです! あなたが白銀の騎士だと!」


 神官長が叫ぶ。

 それと同時に異変に気付いた他の神官たちがようやく広間に集まり出し、私たちに気付いた何人かが神官長の元へ寄ってくる。

 何があったのか問いかけられた神官長は、おそらく側近と思われる何人か相手に今起こったことを興奮気味に説明し出した。

 それを横目にアルベールはユウに質問を続ける。


「どの像なんだ?」

「そこの小さいやつ……」

「何てことない装飾の一つのようだが。しかしどうして触ろうと思ったんだ?」

「それは……」


 ユウは答えを迷い、ちらりと横目で私を見た。


『彼女が我慢ならないことを言ったんで、ちょっと試しただけだ』


 ゲームだと、そういう感じのことを皮肉めいて言う。他の人物と恋に落ちていた場合は、マツリがユウに何を言ったのかわからないままだ。そうやって、ユウとの恋物語にも興味を持たせる場面だったと記憶している。


「――偶然なんだ。こんなことになるなんて俺もびっくりしてる」


 あれ?

 ユウは私のことなど何も関係ないとばかりの態度をとった。ファルークだけが気にしたようにこちらを一瞬見るけど、それだけだ。

 余計な恨みを買わずに済んだ? もしかしたら破滅エンドを回避できる可能性がちょっと上がったかも。


 とにかく一人の騎士を誕生させられた。あと三人分がんばらなきゃいけないけど、今はまず一回目の成功を喜ぼう。


「ああ、まさか本当に神のお告げを目にすることがあろうとは……よりによってこのときとは。神たちはすべてわかっておられるのか」 


 まるで嘆くような神官長の言葉は、私の耳を素通りしていった。


 今日、私がしなくてはならないことはこれで終わりじゃない。この第二神殿でやらなくてはならないとても大きな仕事が、まだ一つ残っている。

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