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幸せの形  作者: 南辺万里
3/5

3:アリシアの相談

本日3話目です~

 アリシアは必死に考えながら、今の悩みを説明しようとしていた為、ステラのキョトンとした表情に気が付いていなかった。その為、今の状況をポツポツと断片的に口にしていく。


「洗礼までの目途が見えていた気がしたんです。時間はまだ少し掛かりますけど、何とか洗礼を受ける事が出来そうだって。でも、そしたら私は何が得意なのか、洗礼が終わったら何がしたいのか、そもそも、今の状態で洗礼を受けても大丈夫なのかって」


「今の状態?」


 アリシアの言葉の意味が今一つ理解できず、ステラは首を傾げる。


「はい、あの、教会で聞いたんです。洗礼で貰えるスキルって選べるんですよね?」


「え? スキルは選べないですよ?」


 この子は何を言い出すのかのステラは驚きの表情を浮かべる。


 それこそ、もし授かるスキルを自由に選べるのであればこの世界には魔導士や勇者などで溢れかえっていないとおかしい。しかし現実にはそんな恐ろしい状況にはなっていないと。

 その説明一つ一つに説得力がある。高位貴族の子息ですら、場合によっては剣術や槍術などのコモンスキルを授かる事は普通にあるとの事。


「だから、平民でもレアスキルを授かれば貴族の養子になる事もあります。最近だと料理屋の子供が確か錬金術を授かったので男爵家に養子に行ったとかありました」


「え? そうなんですか? でも、助祭様が洗礼までに何をしてたかで貰えるスキルが決まるって」


 私は先程聞いた話を伝えますが、その話を聞いたステラは苦笑を浮かべる。


「それ、昔から子供の躾けで言われてますよ。真面目にお勉強しないとちゃんとしたスキルは授かれませんって」


 そう告げるステラをアリシアは呆然と見上げる。


「でもそれって、まじめに勉強しててスキルが今一つだった時、心が折れませんか?」


「うん、普通にポッキリ折れる子供も結構いる」


 ステラが言うように世の中は残酷、アリシアが言ったような例は無数に存在する。

 その時、本人が立ち直れるかどうかは家族がどれだけ子供に寄り添うかで決まる。この時、平民より貴族の方が対応が悪い事が多々あるが、これも世の中の理なのだろう。


 すると、ステラはギルドの入口へと視線を向け、ニヤリと悪戯をする時のような悪い笑顔を浮かべた。


「セーラルさん、ちょっと良いですか~」


 大きな声で誰かを呼ぶ。視線の先を辿ると、いかにも武人ですといった筋肉の塊のような男性がこちらを見て足早にやって来る。


「ステラ、どうした、何かあったか?」


「うふふふ、ちょっと今洗礼の事をアリシアちゃんに説明してて」


 ステラの言葉にセ-ラルは思いっきり苦虫を噛み締めたような表情をする。


「この人、傭兵一家の傭兵育ち、でも授かったスキルはなんと!料理ですよ!巷で有名な戦う料理人さんとはセーラルさんの事です!」


「え? た、戦う、料理人?」


「ちょ、痛、イタタタタ」


 セーラルは無言のまま、無表情のままにステラの顔面に手を置き、そのまま力を込めて持ち上げている。

 人があんな状態で持ち上がるんだとアリシアは驚きの表情を浮かべるが、ステラの叫び声がギルド中に響き渡って注目を浴びていた。


「お前は少し懲りるという事を覚えろ」


 漸くセーラルから解放してもらったステラは、顔が、顔が、私の美貌がなどとつぶやきながら顔を必死な様子でマッサージしている。


 あれ? 結構余裕だったのかな?


 アリシアはそんな風に思ったのだが、ステラはセーラルにギャンギャンと文句を言っていた。

 しかし、こんなゴッツイ人が料理スキル持ちとは思わなかった。


「で? 洗礼の話か?」


「え? うん、そう。この子が洗礼で貰えるスキルの事で悩んでたから」


 ステラの言葉にセーラルは苦笑を浮かべ、アリシアへ向き直る。


「そうだな、俺が洗礼で貰ったスキルは確かに料理だったな。これでも騎士爵家の3男坊、毎日のように剣や槍を振るっていたから料理など作ったことは無かったな」


 何か苦い思い出があるのか、その表情は決して嬉しそうではない。


「まあ結局は料理スキルなど無視して、後天的に剣術も槍術も手に入れたのと、その後の野営などで料理スキルもあって良かったとは思うがな。何せ男ばっかりで旅をしていると料理が出来るやつがいないと悲惨すぎる」


 どれ程悲惨なのかはともかくとして、セーラルの話は後天的にスキルが手に入る事の説明に続く。


「結局の所、洗礼で貰えるスキルは参考でしかないという事ですか?」


「どうなのかな? 洗礼で授かったスキルは上がりやすいとも言われているが検証された話ではない。ただ後天的に手に入るスキルで上位スキルは手に入りにくいと言われている所が問題と言えば問題だが」


「結局は気の持ちようなのよね。それより洗礼を受けないと何もスキルが手に入らない事の方が問題」


 ステラさんの言葉に、セーラルさんも大きく頷く。

 ただ、良いスキルが貰えるに越したことはないのだろうけど。


「気の持ちようですか」


「洗礼を受けた後に希望するスキルを所得する為に努力出来るかどうか、多くの者は授けられたスキルに満足し、そのスキルを活かすように生き方を考える。スキルに不満を持つ者はいても、後天的にスキルを得ようとする者は少ない。ただそれだけの違いだ」


「洗礼を受けれればスキルを身につける土台は出来るの。後天的スキルは簡単には身に付かない。それでも努力すれば身につける事は出来る......かもしれない」


「かもしれない......」


 ステラ達の言葉をアリシアは噛み締める。

 スタート自体が遅れているのに、更に遅れる可能性。

 もっとも、希望するスキルが手に入るかどうかは元々賭けでしかない。


 アリシアは二人の説明に頭を働かせる。

 そして、思うのは後天的に授かる方法があるならば、洗礼でのスキル所得にも法則がありそうな気もする。


 それでも、決して生活に余裕がある訳では無いアリシアは、少しでも早くお金を貯めて洗礼を受ける事に決めた。そもそも、今の現状を改善する為の手段が洗礼であり、どっちにしろ賭けになるのであれば結局の所その解答一択しかなかったのだが。


「ありがとうございます。まずは洗礼を受ける事を目指します」


 アリシアの回答に二人は頷く。


「あ、時間が結構過ぎちゃってるので薬草採集だけ行ってきます!」


 窓から差す日差しが普段より高くなっている事に気が付き、アリシアは慌ててギルドを飛び出す。

 陽が暮れると危険度は跳ね上がる。明かりが無ければ簡単に魔物に殺される世界だ。その為、時間的な余裕を持って探索を行わなければならない。それに対し今日は普段以上にスタートが遅くなった。

 出来るだけ戦闘は控えて、薬草採集だけに集中しよう。そう思いながら街の門を抜け、魔物の森方向へと駆け出した。


「そろそろこっちの群生地が回復してきてるかな? そうであれば有難いな」


 以前採集した薬草の群生地を頭に浮かべる。

 街からその群生地は若干離れている為、魔物との遭遇率は上がる。もっとも、それ故に他の者に荒らされずに群生しているのではあるが。


 周囲の魔物に警戒しながら足早に進むアリシアであったが、進行方向の草が不自然にうごいている事に気が付く。


「何かいる」


 手にした棒を構えるアリシア、スライムであれば兎も角、ホーンラビットであれば気付かれる前に逃げたい。腰を落とし棒を前に立てホーンラビットの突進にも備えながら、ゆっくりと後ろへと後退を始めたアリシアであるが、目の前の茂みから現れたのは期待空しくスライムでは無くホーンラビットであった。


「......」


 出来ればこのまま戦わずに済ませたいアリシアであった。しかし、ホーンラビットはしっかりとアリシアを認識し、その真っ赤な目でアリシアを見据える。


「このまま逃げれそうな雰囲気ではないよね」


 ホーンラビットと幾度も遭遇し、倒せないまでも無事に逃げきっている。

 その為アリシアにそこまでの緊張は無い。


 ホーンラビットはその名前の由来となっている角と、蹴り足さえ注意していれば良い。そして、魔物の中で最弱であるが故に長期戦になる事を嫌うし、変則的な動きをする事は少ない。

 囲まれるならともかく、1対1であれば幾度かの攻撃を凌ぎさえすれば相手は逃走する。


「焦っちゃ駄目、焦ると想像もしないミスをする。焦っちゃ駄目、視野が狭くなる」


 自分を落ち着かせるための呪文を唱える。

 この呪文もギルドへと顔を出した日にステラに教えてもらった。

 生き残るため、死なない為の術を身につける。身寄りの無い、頼る者の居ない自分のような者は、怪我をするだけで命に係わる。


 慎重にホーンラビットの挙動を注意して、直線的な攻撃を想定する。

 初めてホーンラビットと対峙した訳では無いし、以前よりも体は動けている。


「今日こそ退治できるかな」


 まるでその言葉がホーンラビットを挑発したかのように、グッと身を沈めたホーンラビットが解き放たれた矢のように、一直線にアリシアへと角を向けて突進してくる。


「左、左、左」


 ホーンラビットが勢いをつけ角での攻撃をする最後の瞬間、今までより大きく身を沈める瞬間に横へと身をかわす。初心者は真正面に立ち棒を振り下ろし、ホーンラビットの勢いに負けて怪我をする。

 それを避けるために横へと避けるのが基本であり、アリシアは声に出して間違った行動をしないように注意するようにしていた。


ザッ、ザッ、ザッ、グッ!


「はあ!」


 自分を鼓舞する為に声を出し、横へと大きく避けて真横へと棒を振り切る。


「キュゥ!」


 棒が手から跳ね飛ばされそうになる手応えを必死に抑えながら、急いでホーンラビットへと向きを変え倒れているホーンラビットの頭を狙って只管叩く。


バシ! バシ! バシ! バシ!


 アリシアは起き上がらないうちに力の限り叩く。

 ホーンラビットの角が折れ、頭が変形した頃ようやくアリシアは棒を振り下ろすのを止めた。


「はあはあはあ」


 息が上がっている。

 周囲の状況を気にすることも忘れ棒を振り下ろしていた事に気が付き、慌てて周囲を確認して安全な事に 安堵の溜息を吐く。そして、倒れているホーンラビットを棒の先で突っつき死亡を確認した。


「やった! 初討伐だ」


 余裕の全くない素人丸出しの討伐であったが、非力でスキルもまだ無い自分にとってはこれ以上を望むのは贅沢だろう。それに、ホーンラビットの角も肉も毛皮も売り物になる。決して高くは無いが、それでもスライムよりはお金になる。


 アリシアはホーンラビットの解体などやったことが無い。血抜きもしないといけないのは知ってはいたが、その危険性も知識ではしっている。


「頭を下にして、木に吊るして、血が落ちるところに穴を掘って、あとで穴を埋めるんだったよね」


 いつもの癖で口に出して手順を確認するが、見渡す限り近くに手ごろな木はない。


 血の匂いをさせて森に近づくのは怖い。

 血の匂いに誘われてどんな魔物が森から出てくるか判らない。


「このまま今日は戻ろ」


 出来れば薬草を採集してから会いたかったな。そんな事を思いながらもアリシアは血抜きもしていない  ホーンラビットを空いている袋へと詰め、街へと引き返すのだった。

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