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幸せの形  作者: 南辺万里
2/5

2:スキルのあれこれ

本日2話目です

 アリシアが朝に教会へとお金を預けに行った時、普段は見かけない馬車が停車しているのが見えた。

 そして、教会の前には武装した兵士達が入口前に陣取り教会への出入りを規制しているのが見える。


「あれ? なんだろ? 」


 アリシアは遠目からその様子を見ていたが、物々しい雰囲気がある訳でもなく、兵士達の表情にも笑顔が見える為に教会へと歩み寄っていった。


「きっと誰かお金持ちが教会にきたのかな」


 兵士の数も二人と多くはない。

 今までにも幾度か似たような状況を見た事があるので、アリシアにそれ程驚きは無い。


「ん? お嬢ちゃんは教会に用事があるのかな? 」


兵士がアリシアの接近に近づき、こちらへと声を掛けてくる。

その際にアリシアの全身へと視線を飛ばすが、脅威になる可能性は早々に除外されたのかそれもすぐに和らぐ。


「は、はい、教会にお金を預けに」


 教会が庶民のお金の管理を行っている事は誰でも知っている。

 教会はその預かったお金を逆に人へと貸し付け、現代で言う銀行的な役割をしていた。


「そうか、悪いね今は取り込んでてね。もう少しすれば私達は移動するからそれまで待ってくれるかな」


「あ、はい、しばらくしたらまた来ます」


「うん、ごめんね」


 穏やかな兵士の人で良かったと思いながら、アリシアは教会から離れようとした時、教会の入り口から家族と思しき男女と一人の子供が現れた。その姿は当初の予想通り見るからに貴族か金持ちかといった感じの人達であった。


「ヘンリー良かったな。これで我が家も安泰だ」


「はい、我が家は文官ですから剣術などのスキルを頂いても意味が無いですから」


 8歳くらいのアリシアより一回りは小さな男の子が、その傍らにいる父親らしい人と会話をしている。距離が近い為にその内容がアリシアまで聞こえてくる。


 その内容からしてどうやら男の子が本日洗礼を受けてきたようだ。


 アリシアはその事に気が付き、両親に伴われて洗礼を受けた男の子を羨ましく思いながらもこの後教会へ入りたい為に親子の姿を何気なく眺めていた。

 すると、母親と思われる女性が気になる事を口にする。


「ヘンリーは読書も勉強も嫌がらずに頑張ってました。話術なども家庭教師をつけてましたし、この結果は予定通りです」


 笑顔を浮かべ女性は男の子の頭を撫でる。ただ、その家族は今日の出来事を話す事に気をとられ、共にアリシアに気が付くことなく馬車へと乗り込んでいった。

 比較的馬車の傍にいたアリシアではあるが、兵士達がその家族が現れた瞬間に警護の為に家族との間に壁を作る様に動いた為、アリシアが兵士達の体の影に隠れてしまった事も理由の一つではあった。


「今後も頑張って勉強して、父上のような立派な外交官を目指します!」


 その言葉に両親の表情はより一層笑顔が広がった。


 正に幸せを絵にかいたような家族だな、お父さんとお母さん、いいなぁ。


 アリシアはそんな事を思いながら、その人達が馬車に乗り込むのを見ていた。

 その後、遠ざかっていく馬車を眺めながらアリシアは今話されていた会話の内容を考えていた。


「え? あれ? うそ、もしかして洗礼で貰えるスキルって選べるの? 」


 今まで洗礼で貰えるスキルは神様からの贈り物だと思っていた。そして、その人にあったスキルを神様が選んで授けてくれるのだと信じていた。

 しかし、今さっきの会話では予め欲しいスキルを選ぶことが出来る、または選ぶ方法があるような話であった。今までそんな話をアリシアは聞いたことが無い。


「助祭様に聞いてみようかな」


 教会へと入りながら、普段からお金の預け入れ窓口をしてくれている助祭様に尋ねてみる事とした。


 窓口へと進むと、いつもの助祭が窓口にいる。


「あの、これ預け入れお願いします」


 財布からお金を取り出して窓口に置き、ギルドカードを差し出すといつもの様にカードに記録してくれる。


「頑張ってますね、洗礼を授けられる日が待ち遠しいですよ」


 柔らかな笑みを浮かべ助祭がそう言葉を掛けてくれる。アリシアが何のためにお金を貯めているのか、その事を勿論助祭様は把握されている為、その努力を好ましいものと受け止められていた。


「あの、その洗礼の事でお尋ねしたいことがあるんですが宜しいでしょうか?」


「ほう、洗礼の事ですか、う~ん、費用はまけられませんよ?」



 普段より幾分緊張しながら尋ねるアリシアに、助祭は茶目っ気のある微笑を浮かべながら首を傾げ、アリシアに言葉の先を促す。


「先程洗礼を受けられたご家族が入口で話されていたのですが、その際に漏れ聞いたのですが、洗礼で授けられるスキルは選べるのでしょうか? 」


 アリシアの言葉に助祭は少し考えるような素振りを見せる。そして、アリシアが言いたい理由に思い当たり少し困ったような表情を浮かべる。


「そうですね、ご説明しても良いのですが、少しお時間がかかりますが構いませんか? 」


 助祭の言葉にアリシアが頷くと、助祭はゆっくりとアリシアにも理解できるように説明を始めた。


「まず注意する点は今からお話しする内容は特に秘密とされている訳ではありません。一般の人や貴族のみならず、知り合いが多い人は皆知っている事かと思います。ただ、これは必ずそうなるという物でもなく、あくまでそういった傾向があるというお話です」


 助祭はそう前置きをし、その後洗礼において授かるスキルの条件が、ある一定の法則によって成り立っているのではないかとの根拠を話し始める。

 その話を簡単に要約すると、授かるスキルは洗礼を受けるまでに行ってきた行動や環境に左右されているのではないかという事であった。


 例をあげると、鍛冶師の子供は幼少期から鍛冶に親しみ、親の手伝いをしている。この為、授かるスキルは”鍛冶”が圧倒的に多く、また重い槌などを使う為か”剛力”や”頑強”なども付随するケースがある。

 商人の子供は”計算””交渉”などのスキル、兵士の子供は”剣術””槍術”などが身に付くことが多い。

 この為、富裕者の子供達は総じて幼少期から希望するスキルが授かりそうな内容の勉強や鍛錬を行う事が多く、各スキル専用の家庭教師などといった職業すら存在した。


「もっとも、これはあくまでもそう言った傾向があるという事であり、これに適応しない例も多数存在します」


 そう話を締めくくった助祭の言葉に、ハッキリ言ってアリシアは混乱していた。

 自分の行動が授かるスキルに影響する、そうすると自分が貰えるスキルは何になるのだろうか?


「あの、私みたいに薬草の採集ばかりしている場合はどう言ったスキルを授かることが多いのでしょう? 」


「そうですね、今までの実例でいけばそれこそ採集、あとは体力増加、筋力増加とかでしょうか?ただ増加系スキルは他の要因もありそうですが。稀に開墾などの農業系が出る事もありますね」


 採集スキルを得たとして、そしたら私はずっと危険な街の外へと出かけて採集を続けなければいけないのだろうか?スライムを倒していたからもしかすると戦闘系のスキルの可能性もある。

 でも、将来に渡って危険と隣り合わせに生きていくなんて考えたくない。


「あの、助祭様、街で生きていくのに有用なスキルを得るにはどうすれば良いのでしょう? 」


 思わず縋りつくように助祭へと質問するアリシアに対し、助祭は困惑した表情を浮かべる。


「貴方はすでにその年まで様々な経験を積んでいます。その経験を覆し何かのスキルを得るのは難しいかもしれませんね。あとは、そうですね、教会で奉仕活動をしてみますか?神の御心に縋るのも良いかもしれません」


 助祭の言う教会の奉仕活動は咄嗟に思いついた内容である。

 そもそも、奉仕活動を日頃から行っている教会関係者の子供ですら望むスキルが得られていない。洗礼式において悲喜こもごもの出来事は常に発生している。

 ただ教会は雑事を請け負う者達をギルドに依頼しているが、賃金が安い為に思うように人が集まっていないのも現状であり、その一助になればとの思いもあった。


「教会のお手伝いですか? 」


「ええ、ギルドには常設依頼で出しているのですが、賃金が安いので中々人が集まらないのです」


「えっと、考えてみます」


 賃金が安いというのは問題である。それ故にアリシアは咄嗟にそう返事を返した。

 そして助祭へと頭を下げ教会を後にするが、頭の中はぐるぐると色々な思いが駆け巡っている。


「まずはギルドへ行ってみよう」


 教会のお手伝いがどれ程の賃金だったのか覚えていない。

 ただ、意識の片隅にも残っていないという事は、値段を見て最初から除外していたからであろう。


「でも、ギルドの人達も洗礼でのスキルの事を知ってたのかな?」


 知ってたとしてもギルドがそれを忠告する事は無い。

 そもそも洗礼に必要なお金を貯める場合、普通はそれぞれが得意とする依頼を受ける。

 その為、自然とその者に向いたスキルが授かると考える為、あえて不得意な事をさせる意味が無い。


 ギルドが行うのは依頼が向いているかどうか、達成出来そうかどうか、あくまでも判断基準はその2点のみである。極端な事を言えばギルドに利益が出るか出ないかと言っても良い。


「え~っと、常設依頼、常設依頼」


 ギルドに入り常設依頼の掲示に貼られている教会からの依頼を探す。

 常設依頼はそもそも年中貼りっぱなしにされ減る事は無い。それに反して増える事はある。

 その為、依頼版は隙間どころか依頼同士が重なりあった状態で貼りだされており、後ろの方の内容を確認するのは困難を極める。


「あ、あった、奉仕活動の補助・・・・・・報酬0って、あ、そうか、そもそもこれ奉仕活動なんだ」


 良く読めばその旨は記載されている。また、炊き出しの際に食事は提供されるからまったくの無償とは言えないのかもしれない。それでも、生活に余裕がある人とかならともかく、生きる為、生活する為にお金を求めている人達には無理な話だった。


「いくら一食浮くからと言って、宿代もかかるし、ご飯代も一食じゃ足りないから」


 いくら考えても報酬情報が変わるものではない。


「お金を貯めてから考えた方が良いのかな。でもそれだと手遅れになりそうだし」


 そもそも自分は何が得意なのだろうか?


 どんなスキルを授かれば幸せに暮らせるのだろうか?


 教会の奉仕活動をして覚えられるスキル、何だろう? 料理? 掃除?それを覚えればお店雇って貰えるのだろうか?

 スキルの有る無しで信用が上がるのだろうか? 身寄りのない自分が雇って貰えるのだろうか?


 掲示板を見上げながら、頭の中ではどんどんと別の事が気になって、掲示されてる依頼の内容はまったく頭に入ってこないアリシアであった。


「アリシアちゃん、何か悩んでいるけどどうしたの?」


 掲示板を見上げた状態で硬直し明らかに悩んでいますといった様子のアリシアを見て、ギルドで受付をしていたステラが気になって声を掛ける。

 ステラから見てアリシアは悩むより突っ走るといったタイプの為、今日の様子はあまり良い感じではない。


 今まで幾人もの冒険者を見てきたステラにとって、決して少なくない数の冒険者がこの様な様子の後に無理をして怪我や、最悪の場合死亡している事を知っていた。


「あ、ステラさん、えっと、ちょっと混乱してて」


 アリシアは自身が頭の中を整理できていない。その為、ステラにどう話していいのか思いつかない。

 その様子を見たステラは、アリシアをカウンターの隅の椅子へと案内する。


「で?ついさっきまではそんなに悩んでなかったよね?洗礼の為に頑張ってるんだよね?」


 若干詰問のように語調がきつくなるのは、年頃になってきた冒険者が不安定になる一番の要素が異性関係であったからだ。そして、そういったケースの場合、得てして女性側に大きな被害が出る。

 アリシアの様に容姿が整っている少女程その傾向は強い。


 そんなステラの心配を他所に、アリシアはしばらく思い悩んだ後に口を開いた。


「あの、今になってなんですが、私って何に向いているんでしょう?」


「へっ?」


 想定していた悩みとは懸け離れた相談に、ステラは思わず変な声を出してしまった。

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