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第四話 私の求婚者様達から、だれかを選ぶのなら

「わかりましたわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


<IF シャルラハロート>


 私はシャルラハロート殿下の手を取った。

 だって、グランツ様とのファーストダンスの後で、最初にダンスを申し込んでくださった方なのだもの。

 真っ赤な髪の王子様は、大きな口の端を上げて少年のような笑みを浮かべた。


「ありがとう。俺を選んだこと、後悔させないぜ」


 求婚を受け入れたわけじゃありません。

 一緒にラストダンスを踊るだけです。

 心の中でだけ突っ込みを入れて、顔には淑女らしい笑みを浮かべる。……浮かべられているといいのだけれど。


 私の魔力食いの力が目当てだとわかっているのに。

 惚れてる、だなんて嘘だとわかっているのに。

 訓練場での私を見ていたと教えてくれたときの照れた表情が、本当のものだったのではないかと期待している。心臓の動悸が激しくなって、体が熱い。


「あ」


 シャルラハロート殿下の足を踏んでしまった。


「申し訳ありません」


 謝罪の言葉を聞いて、彼は笑う。


「アプリル嬢の小さい足で踏まれても痛くなんかない。……いや、舞い上がってるから痛みを感じてないだけか?」


 恥ずかしそうに視線を逸らす。

 これが演技だとしても、一生騙してくれるのならいいかもしれない。

 グランツ様はそんな演技さえしてくれなかったもの。国王陛下に決められた望まぬ関係なのは、私も同じだったのに。


 先ほどシャルラハロート殿下は、遠いご先祖が魔力の暴走で国土の半分を焦土にしたという話をしていた。

 もし彼が同じことをしてしまったら、きっと涙が涸れるまで泣くのだろう。感情の起伏が激しい方だもの。

 私がずっと側にいて彼の炎の魔力を食らっていたら、この方はずっと笑顔でいてくださるのかしら。そんなことを思いながら、私は彼の顔を見つめていた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


<IF ズィルバー>


 私はズィルバー殿下の手を取った。

 理由は簡単だ。

 アメテュスト大公が言われた通り、女癖が悪いという噂は私も知っている。だから、少々絆されたとしても彼に恋したりはしないと思ったからだ。グランツ様に婚約破棄されたからといって、すぐに新しい方を見つけるのははしたないもの。


「ありがとうございます」


 妖艶に微笑んで、彼が私の背中に手を回す。

 今夜ファーストダンスの後、二番目にダンスをしたときと同じ自然な所作だ。

 そして彼は流れるように踊り出す。……ちょ! ラストダンスの旋律には合っているけれど、ステップが複雑な上級者向けのダンスだわ。


 一応魔道学園のマナーの授業で習っていたので、必死に彼の動作に合わせる。

 なんとか形になって来たとき、ズィルバー殿下が満面に笑みを浮かべた。


「やっぱりあなたは素敵です。私の速度に合わせられる方は滅多にいない。それに所作も完璧です」

「お褒めいただき光栄ですわ。でもズィルバー殿下のリードがお上手だからでしてよ」

「ご謙遜を。……先ほども申し上げた通り、シャルラハロート殿が鬱陶しいので訓練場へは行きませんでしたが、私も体術を嗜んでいるのですよ」

「そうなのですか? 学園の戦闘訓練では、いつも弓を使われてらっしゃいましたよね?」

「最強の手札は秘密にしておくものですからね」


 ズィルバー殿下が片目を閉じて見せる。

 ということは、本当は『嗜む』程度ではないのだろう。

 彼が最も得意で、自信を持っているのが体術なのだ。


「一度体術でお手合わせ願えますか?」


 怖いほど真剣な表情で私を見つめてくる。

 この方は、知られているのとは全く違う正体を隠しているのかもしれない。

 その姿を見てみたいと、少しだけ思った。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


<IF アメテュスト>


 私はアメテュスト大公の手を取った。

 彼の求婚は本気ではないように感じたからだ。

 それに図書室で何度も会話して、もう友人になったつもりでいた。


「ありがとう!」


 紫水晶の瞳に見つめられながらラストダンスを踊る。


「大公殿下はダンスがお上手なんですね。まるで飛んでいるよう……え?」


 私達は本当に飛んでいた。

 アメテュスト大公が生まれ持つ風の魔力で魔道を起こしているのだ。

 彼はイタズラな笑みを浮かべる。


「実はね、僕はダンスが下手なんだ。ほかの人にぶつかったら悪いから」

「で、ですが大公殿下、浮かんでいてもほかの方にぶつかりますわ」

「会場内でならね」


 私達を浮かび上がらせている風が強さを増す。

 しかし傷つけるような強さではない。あくまで優しく、自分の力で飛んでいるかのように感じさせる力だ。

 風は私達を会場の窓から月光の下へと運んでいく。


「アメテュスト大公殿下は魔力の制御がお得意なのですね。魔力食いの私など必要ないのではないですか?」

「うん。魔力食いの力はいらないよ」


 月光の下で踊りながら、アメテュスト大公が私を見つめる。


「さっき言っただろ? 僕は好きな娘一筋だって。僕が欲しいのはアプリル嬢、夕暮れの図書室で語り合った君だけだよ。……ふふっ。月明かりの下の君も綺麗だ」


 そう笑う彼は妖艶で、紫色の瞳に吸い込まれそうになる。

 この方はさっき、私の好きなものも嫌いなものも知りたいと言ってくださった。

 私も今、彼の好きなものも嫌いなものも知りたいと思っている。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


<IF ラピスラーツリ>


 私は無意識にラピスラーツリ陛下の手を取っていた。

 真っ直ぐ見つめてくる瞳に逆らえなかったのだ。

 彼が微笑む。


「ありがとう、アプリル嬢」


 ラストダンスの旋律に乗り、私達は踊り出した。

 強い大地の魔力を持つ彼は植物の改良が趣味だという。

 改良された植物はゾンネンズゥステーム連邦全土で栽培・販売されている。美しい花、香りの良い花も開発されているからか、ラピスラーツリ陛下からはとても馨しい香りが漂ってきた。いや──


「ラピスラーツリ陛下?」

「アプリル嬢?」

「お花が……」

「ああ、しまった。卒業パーティの後で研究室を借りて実験しようと思って持ってきた、花の種が発芽してしまった」


 発芽どころではない。

 伸びた茎がラピスラーツリ陛下の腕に巻き付き葉を茂らせ、花を咲かせている。

 彼は照れ臭そうに頬を染めた。


「そうか。これが暴走、自分の力を制御できなくなるということだな。余は……」


 頬を染めるだけでなく真っ赤になって、だけどとても嬉しそうに彼は言う。


「君と踊れるだけで、幸せで幸せでたまらないらしい」


 そんな幸せそうな顔をされたら、なんだか胸がときめいてしまう。

 つないだ手から、彼の熱が伝わってくる。

 魔力を食らって彼の魔道を止めても良かったけれど、なんとなく止めたくなくて、私は花を纏った王様とラストダンスを踊り続けた。


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