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第二話 私の求婚者様達は正直だ。

「皆様の目的は私ではなく、私の『魔力食い』の力でございますよね? ゾンネンズゥステーム連邦六王国の王族として生まれ、強過ぎて暴走する魔力に苦しんでいらっしゃることから解放されるために」


 求婚者達に結婚を断った理由を説明し始めた私を、強い光の魔力を持って生まれたグランツ様が苦虫を噛み潰したような顔で見つめている。

 彼は私のこの力を嫌っていた。

 ご自分が魔道で失敗するたびに、私のせいだと責められた。私が勝手に魔力を食らうから、自分の魔力を思うように操れないのだと。


「ああ、その通りだ」


 強い炎の魔力を持つシャルラハロート殿下は、あっさりとお認めになる。


「モンスターの大氾濫(スタンピード)を焼き払うつもりが自身の魔力が暴走して、広大なマルス王国の半分を焦土と化したご先祖の二の舞は演じたくない」

「私も農地に雨を降らせようとして魔道の制御を誤り、ひとつの村を湖に沈めた曾祖父の失敗を繰り返したくはありません」


 頷きながら、水の魔力をその身に秘めたズィルバー殿下がおっしゃる。

 風の魔力を自在に操るアメテュスト大公も首肯している。


大氾濫(スタンピード)のときは疲れて制御が疎かになるからねえ。モンスターの大群を切り刻もうとして、範囲が広がり過ぎて大切な部下を攻撃してしまうのは嫌だなあ」

「大地の魔力を与えて農地を富ませようとして、石化してしまうのは困る」


 大地の魔力に恵まれたラピスラーツリ陛下が重々しく言った後で、シャルラハロート殿下が両肩を竦めた。


「なんせ俺らはグランツと違って、自分達の強過ぎる魔力に苦しめられてきたからな。一千万人にひとりと言われているが、その実ゾンネンズゥステーム連邦にただひとりの魔力食いを(のが)したくはない。自分のため祖国のため世界のために」

「六王国の王族は成人後、強過ぎる魔力に苦しむのがわかっているがゆえに、婚約者は自分自身で決めることを許されています。心の安寧を得るためです。にもかかわらず、幼いころから自分に婚約者がいたのはどうしてなのか、グランツ殿は考えたことがなかったのでしょうか? そもそも婚約を解消するのなら、ほかの女性と付き合い始める前にするべきでしたね」


 ズィルバー殿下が続けた言葉に、アメテュスト大公が苦笑を浮かべる。


「不貞がダメだなんて、ズィルバーがそれ言うの?」

「私に婚約者はいませんし、付き合うときはいつも同意の上でひとりずつでしたよ?」

「はいはい。でもまあそうだよねえ? グランツ君は、自分がお父君のように大怪我を負った大切な弟君を回復しようとして魔力を注ぎ過ぎ、モンスター化した相手を倒すことになるかもって不安に思ったことないの?」


 グランツ様は眉間に皺を寄せ、大公を睨みつけた。

 ヴェーヌス王国は、国土の割にモンスターの発生率が高い。光の魔力を受け継ぐ王族の暴走率も高く、隣にあるザトゥルン王国に多額な借金をして国を生き延びさせている。

 エーデル様の国ザトゥルン王国は商売に長けた国だ。王族の闇の魔力が作り出す結界は、ザトゥルン王国のみならず他国の民をもモンスターから守っている。


「私は魔力を制御できている。貴殿らとは違う」

「それはアプリル嬢がいたからだろう」


 ラピスラーツリ陛下が呆れたような顔をしてグランツ様を見る。

 唇を噛んだグランツ様をベギーアデ様が慰めている。

 お似合いのふたりだ。


「とにかく、そういうことでしたらヴェーヌス王国の国王陛下にお申し出ください。魔力食いである私の結婚は、あなた方の国との政治的な取引になるのですから」


 私の心は凪いでいる。

 悲しいのは、これまでの人生が無駄になったことだ。

 先ほどシャルラハロート殿下がおっしゃったように、国のため世界のため、グランツ様の光の魔力を食らい、その治世を支えるために生きてきた。婚約しているのだからと恋を諦めて生きてきた、そんな自分が虚しいだけだ。


「そんな固いこと言うなよ、アプリル嬢。グランツごときに振られたくらいで落ち込むな。魔力食いだけが目当てじゃない、俺はお前に惚れているんだ。六王国の王族は、自由恋愛結婚を許されているんだぜ?」


 そう言って、シャルラハロート殿下が微笑んだ。


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