初クエストに行くことにしました。
「君、これどういうことだ」
ギルド内で、そこにいる全員に見られながらレイさんの詰問が始まる。
「いえ……俺のステータスです……」
「それは分かっている。なんでこんな頭がおかしいようなステータスをしているのだ」
「それは俺に聞かれても、なんと言いますか……」
「なんだ?」
「なんとも言えません……」
「はあ」
だって「神様からバフを掛けてもらいました!」とか言ったら絶対変人扱いされるじゃん、言いたくないよそんなの。
「……ふむ、バフが掛かっているような様子ではないな」
「塵も感じられませんしね」
どうやらバフはかかってないことになってるらしい。さすが神様。
いや、それよりも気になる単語が。
「あの、塵ってなんですか?」
途端に「この世界の常識ですよ?」みたいな目を向けてくるライトさん。いやもうそのくだりやってるから。
「塵っていうのは、魔法の痕跡のことです」
「なるほど」
めっちゃ分かりやすい説明のおかげで、簡単に理解できる。
なら、神様なんだし神聖な力とかでパワーアップしてんのかな?
「……まあいい、とにかくこれはどうかしてるぞ」
「それは俺も思いますけども」
と、なにか考えるようにして。
「君、戦ったことはあるか?」
「ないです」
「無いのか? このステータスで? レベル1000万で?」
と、俺のレベルを聞いた村人たちが驚いたような声を上げる。
「はい、一度も」
「ということは、生まれた時からこのステータスだったというのか……!?」
「えっと……まあそんな感じです」
さらに大きい声が上がる。なんか罪悪感っていうか、騙してる感じがして申し訳ないんだけど……。
「……一度、手合せ願いたいのだが」
「はい…………今なんて?」
「手合せ願いたい」
「えっと……あの、レイさんと?」
「私以外に誰がいる」
「俺とレイさんで、戦うってことですよね?」
「そうだ。君の実力を計りたいのでな」
なるほど、俺とレイさんで戦うのか。
「お断りします」
「なんでだ」
「当たり前でしょ! 一回も戦ったことがない人が聖騎士と戦うとか死にますよ!?」
「安心してくれ、死なないようにライトに結界を張ってもらう」
「そういうことじゃねえ!」
一呼吸おいて。
「とにかく、素人の俺が戦うとか無理です」
「そうか……そこまで言うならやめておこう」
諦めてくれた様子のレイさん。
良かった、本当に良かった。異世界に来て数日でボコボコにされるとか本当に勘弁だから……。
「それでも、こちらとしては一度実力を計りたいのだ。自分たちよりも遙かにステータスが高い人物の実力を、な」
「は、はあ……」
それでも、ステータスが高いだけで戦闘とかごみカスなんだけど……。
「ふむ、それではこういうのはどうだ?」
「へ?」
と、人差し指を立てて。
「クエストに行こうではないか。そこそこの、初心者でも全然戦えるようなクエストに」
ああ、なるほど……それなら俺がボッコボコにされずに済むから……。
「……それなら別にいいですけど」
「おお、本当か」
良かったよかったと頷く二人。
「ギルド長も、これでいいだろう?」
「あ、うん、まあいいけど」
「ふむ、ならさっそくクエストを選んで来よう」
と、ここでずっと黙っていたミーアが。
「あの、お話しするのはいいんですけど、私を肩車しながらはやめてくれませんか?」
「あ、そういえばそうだった」
「忘れてたんですか!?」
「ごめんごめん」
ミーアをおろして、少しのびをする。
「軽くて違和感なかったから」
「そうですか、軽いからですか。なら許しましょう」
「ああうん、ありがとう?」
よく分かんないけど、許してもらえたらしいしまあいっか。
「君たち仲がいいな。兄妹か?」
「いえ、全然違いますよ。俺が泊まってる宿の娘さんなんです」
「ああ、なるほどな」
仲がいいことはいいことだ、と言ってからクエストを選びにボードへ行ってしまう。
と、ライトさんが近づいてきて。
「えっと……進くんだっけか?」
「あ、はい」
「君、何食ったらあんなステータスになるんだ?」
若干笑いながら俺に聞いてくる。
「いやあ……米粒は好きですけど」
「米か……俺あんまし好きじゃないんだよ」
砕けた口調で話しかけてくるライトさん。
「お肉とかと一緒に食べるとよく合いますよ」
「肉は肉で食べたくないか?」
「あ、こだわるタイプなんですね」
「そうか? 素材の味を大切にする、とでも言っとくか」
気づくと、俺はライトさんと打ち解けていた。
ライトさんの人柄の良さと、喋りやすい空気感のおかげだろうか。
「クエスト受注完了だ。さっそく行こうか」
俺達が喋っていると、レイさんがやってきた。
「ああ、ちょっと話すぎたな」
「そうですね」
と、手を差し出すライトさん。
「短い間だがよろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
握手を交わす俺達。
「いつの間に仲良くなった……まあいい、早くいこう」
「そうですね」
と、ミーアが近づいてきて。
「頑張ってくださいね、くれぐれも大けがをしないように」
「簡単なクエストだし大丈夫だと思うけど」
「慢心してはいけませんよ。常に警戒しなければ」
「了解しました」
「よろしい!」
と、ミーアの注意を受けてから、ギルドから出る俺達。
「どんなクエストにしたんですか?」
「それはついてからのお楽しみだ」
「は、はあ」
初クエストはどんなものなんだろうと考えながら、村からでる。
……ここだけの話、聖騎士とならんで歩いてるから視線が痛かった……。あいつ誰? なんで聖騎士様と並んで歩いてるの? みたいな。
と、ライトが剣を抜いて。
「んじゃ、行きますよー」
「え?」
「ああ、頼む」
「いやなに?」
周りが明るく輝く。いやなに!? なんかあんの!?
「今からクエストの目的地までテレポートするんだ。そこから動くなよ」
「あ、そういうことですか」
なるほど、テレポートか。
この世界にはテレポートはあるんだ。俺も使えるようになるのかな?
と、周りが真っ白になる。
あまりの眩しさに、目を瞑っていると。
「着いたぞ、目を開けてみろ」
「………………え?」
「ここが目的地だ」
「いや……は?」
「俺はやめておこうって言ったんだけどな、これがちょうどいいって聞かなくて」
「クエストの内容、教えてやろう」
目の前の光景に絶句してる俺に、追い打ちをかけるようレイさんが。
「ここ火山で、レベル73の火竜を討伐することだ」
……俺はしばらく、何も言えませんでした。